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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
54/114

グランヘルム王

地上には、羽を失い墜落したトンボたちが

散らばっていた。


彼らには歩行能力はほとんどなく、

その場を動けないみたいだ。

もはや脅威ではないだろう


しかし、トンボたちに乗っていた

魔族の戦士たちは

爆発と墜落を生き延び、集結していた


地面に横たわる2匹のフーセンドラゴンの

周囲に、ウォーヘッドたちが布陣している


エルフのリリーベルと

ハイエルフのディックソンが、

ヒールプラントを召喚した


ワタのようにフワフワした植物が

黒焦げのフーセンドラゴンを包み込み治癒する


僧侶エリーとハイエルフのキオミが、

横たわる偽勇者マークに治癒魔法をかけている


ぐったりと横たわっているマークの頭を

膝に乗せて、その髪を優しく撫でているのは

勇者マックスだった



「本当に驚くべき勇敢さだった、

 俺のかわりにチームアルファに配属された

 のだろうが、彼こそが

 本物の勇者なのかもしれない

 ウォーヘッドの鏡であり、俺たちの誇りだ」



マークを褒め称えるマックス


チームアルファの戦士ティルクと聖女セリスと

魔法使いマリアンヌは、

どこか後ろめたい感じでソワソワとしていた。



ふと、ハイエルフのディックソンがこちらに

向かってきて言った



「やあキオミ、無事で何よりだ!

 見ての通り、俺もこの世界に一人残され

 自由意思でウォーヘッドたちの

 一員になっている

 

 偽勇者マークだが、戦闘で傷ついて

 それを癒してやるのは当然だからいいのだが、

 気をつけろ、奴は性犯罪未遂犯なんだ

 

 いくら大きな戦果をあげたからといって

 気を許したらダメだぞ」



キオミは言った



「あ、ディックソン、あなたこそ

 無事だったのね

 あなたのおかげで皆、イーストエアの

 サルマティクスに逃げ延びることができたわ

  

 ちなみに、マークのことだけど、

 過去に何を犯したにしろ

 今やすっかり高潔な性格になっているのよ、

 じゃなかったら、あんな自己犠牲精神に満ちた

 攻撃はできやしないわ!

 私はマークを信じているからね」



マックスが言った



「やあ、ディックソン、あなたも

 俺たちに協力してくれているんだな!

 あ、ちなみに俺はすべての言語を理解する

 能力を発現させているんだ」



ふいにエルフ語で話しかけてきた

マックスに、ディックソンは目を丸くした



「キオミや、セリスから聞いたけど、

 あなたは世界樹の森のハイエルフを救って、

 さらにウォーヘッドたちも

 救ってくれたみたいだね、本当に感謝するよ。

 自己の危険を顧みずにこれほど大勢を救った

 あなたのような高潔な方にとっては、マークが

 性犯罪を犯そうとした過去は

 許されないことかもしれないけど

 どうか、俺からもお願いする。

 マークを邪険にしないで欲しい」



ディックソンは、マックスに向かって微笑んだ


金髪を綺麗に七三分けにしている。

青い目は優しげにマックスを見つめ、

笑みを湛えた口元には

魅力的なエクボができている



「ああ、わかったよ、君たち二人の真摯な瞳が

 何よりも物語っているな!

 マークはその行動によって、

 性犯罪未遂犯としての

 汚名を払拭したのだな」



マックスは思った



(ハイエルフにとっては、性犯罪というのは

 最も忌避すべきことなのだろう、

 でも、これからは皆のマークを見る目は

 変わるはずだ)



魔法使いルーティーが目に大粒の涙を浮かべ

マックスのほうへ走ってきた



「マックス、どうか私を

 許して欲しいであります!

 本来は、安全なルーン諸国に飛ばすつもりが

 まったく逆のイーストエアに

 飛ばしてしまったであります!

 おかげで、ずっと私たちの安否もわからずに

 孤独に苦しんだでありますな、

 本当に許してくださいであります!」



屈んで、膝にマークの頭を乗せているマックスに

ルーティーは勢いよく飛び込んできた。

そして、しっかりとマックスを抱きしめる


茶色のふんわりした髪を撫でながら、

マックスが言った



「謝ることはない、君たちは捨て身の覚悟で

 俺を逃がしてくれた。

 むしろ感謝しなければならないのは

 俺のほうだよ!

 それに、俺はイーストエアで

 勇者の剣を手に入れて、 

 キオミたちにも再会できたんだ。

 多分、これは運命だったんだよ」



僧侶エリーが言った



「すべては救世主メシアの思し召しです、

 この喜びを体現することをメシアも

 お許しになるでしょう」



そして、ルーティーと同じく、エリーも

マックスに抱きついた


後ろめたそうにモジモジしていた

セリスとマリアンヌも、

一斉にマックスに抱きついた



グレートソードを肩に担いで、呆れたように

その光景を見つめるティルク、


リリーベルが言った



「皆、魔族の戦士がこちらに向かってるよ

 戦闘準備をしよう

 マックスと再会できた喜びはその後でね」



上空では、航空チームAのレッドドラゴンと

3匹のワイバーンと、

航空チームBの2匹の飛行竜が

今や数少ないギガントピープたちに対して

優位に戦いを進めている


地上では、魔族の戦士の1団がこちらに

突撃してきた



マックスが言った



「エリーとセリスは、マークに

 治癒魔法を掛けていてくれ、

 他の皆は戦闘準備を!」



マックスの手に勇者の剣が出現した

ティルクは、グレートソードを両手に構えた

マリアンヌは魔法の杖を掲げた

リリーベルは両手に2振りの曲刀を構えた

ルーティーは杖をブンブンと振り回した

ディックソンは両手を腰に当てて前を睨んだ

キオミはクレイモアを取り出した

二人のフーセンライダーも槍を構えて

加わった




//////////////////////////////////////////




王都に、はるか東のダルクエンからの

報告が入った


王城の謁見の間には、グランヘルム王と

クローディス大公の二人しかいなかった


ウォーヘッドの伝令が退出していく


クローディス大公が言った



「素晴らしい、勇者マックスが

 帰還しただけでなく

 魔王軍の航空隊をも撃滅するとは!

 やはり彼らは可能性の塊だ」



玉座に座ったグランヘルム王が言った



「大公よ、報告によると、魔王軍は

 また新しいモンスターを出してきた

 と言うではないか。

 今回は勇者マックスとそなたの娘と

 他の者たちの活躍によって

 敵を撃退したとはいえ

 次はうまくいくであろうか?

 敵はどんどん強力になってゆき、

 我が方のウォーヘッドたちは消耗していく

 ばかりではないのか?」



広い謁見の間にしばらく沈黙が支配した



クローディス大公が言った



「我が方の捕虜になった

 あの、アジテーターが申しておりました


 この世界と分離されたもうひとつの世界から、

 魔王はモンスターたちを供給されて

 いると...


 未だにプラウダールは敵の手にあり

 世界樹の森は襲撃され、

 ダルクエンも敵の攻撃に晒されようとして

 おります

 ルーンの諸王国が団結しているとは言え

 我が方が未だに不利な状態なのは確かです

 

 ジェネラルは、プラウダール奪還作戦を

 立案しておりますが

 我々も別の視点から対策を練る必要が

 あるのかもしれません」



ブルネットの綺麗に整えられた髭を伸ばした

グランヘルム王が言った



「別の視点とは?」



シルバーブロンドの長髪と長い髭の

クローディス大公が答えた



「我々のほうから向こうへ出向くのです...

あっちの世界で何が起こっているのか

 調査する必要があるかと」



グランヘルム王は立ち上がった


クローディス大公は後ろに後ずさって

屈んで膝をついた

 


「それは恐るべき試みよ...だが、

 諸王国の王たちの合意が必要であろうな...

ハイエルフたちの助言も

 必要となるかもしれぬ...

すまぬが、私は少々疲れた、休ませてくれ」



グランヘルム王は、謁見の間から退出して

王の間に入った


召使たちを退出させ、一人、椅子に座る


しばらくして、天蓋付きのベッドの隅から

一体の人形がツカツカと歩んできた


全長60センチほどの、操り人形のような

人形だ。

それは、まるで道化師のような姿だった


赤い鼻にクリクリとした目、顔は真っ白だ

派手に身振り手振りをしながら言った



「あっちの世界には行かない方がいいなあ...

 いろいろとややこしくなるからね、

 それに君たちの魔法ではそれをやるには

 ちょっと不確実すぎるね、

 きっと失敗すると思うよ。


 それよりも、そろそろ僕と君の計画を

 発動させるときだよ、

 あの大公は、娘がウォーヘッドだから

 こちら側につかないだろうから警戒しなよ。

 まあ、僕に任せておきなよ

 大公やウォーヘッドたちに

 バレるようなヘマはしないからさ」



グランヘルム王は思った



...きっとヘマはしないだろう...



人間ごときが歯向かうことはできないだろう

オーラが人形の背後から漂っている


必死で裏声を使っているようだが、本来は

落ち着いた渋い声なのだろう



椅子に座ったまま、王は言った



「あなたは神人なのか?」



人形の動きがピタリととまる



「神人、かつて神々の大戦で人間たちを

 守護するために遣わされた種族だね


 僕は神人じゃないよ、でも、それに

 近いよ


 少なくとも、君たちに対しては何の対価も

 求めることなく、君たちを助けてあげる。

 僕が君たちに求めるものは何もない

 

 ただ、ただ、君たちが魔王軍に対抗して

 繁栄してくれればそれでいいのさ」



無言のグランヘルム王の視線は、人形の背後の

何もない空間を彷徨っていた




 

 

  

 

 

 

 





 

 

 



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