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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
47/114

気球の町

あの時、ルーン東部の小さな村で出会った

あっちの世界の昆虫たち


無音で高速移動し、空も飛ぶことができて、

恐るべき鎌は、ウォーヘッドたちの武器をも

受け止める


その昆虫たちの背に、今は勇者マックスと

ハイエルフたちが乗っていた



ちなみに、昆虫たちは全部で5匹いたのだが、

その内の3匹を借りてきている。

ハイエルフの女性陣、つまり、キオミと

キャサリンは相乗りだった。


岩と砂だらけの荒地を走り抜け、こうして

小高い丘の上で眼下の風景を眺めているのだ



「すごいな、これが気球か、初めて見た。

 ほんと、空を埋め尽くしているなあ

 いくつあるんだろう?

 こいつで、大地の裂け目のような

 このグレートバレーを越えて

 イーストエアとルーンで交易しているんだな」



マックスの驚きに、ハイエルフのヘリントンが

答えた



「この、大地を抉りとったような大渓谷だが

 言い伝えによると、

 神々の大戦の時に、暗黒神が

 その右腕で大地を切り裂いたらしい。

 今でこそ渓谷の底には川が流れているが、

 当時は、マグマが吹き出したのだとか。

 長老オウルが居たら、もっと詳しくその時の

 状況を聞かせてくれただろうな」



マックスは改めて驚いた。

地上界のハイエルフの長老ならば、

実際にその時の光景を

目撃していたのかもしれない



キオミが言った



「なるほどね、この幅数キロに及ぶ

 大地の裂け目を気球を使って

 飛び越えているのね。そして、

 まさにここがイーストエアとルーンの

 境目になっていると」



あっちの世界のジャーナリストである

キャサリンも、興味津津に、目の前の

色とりどりの気球の群れを眺めている



「まあ、私たちならこの昆虫を使って

 渓谷をひとっ飛びで越えられそうね。

 あまり目立たないほうがいいから

 あの町から離れたところにいきましょうか?」



しかし、キオミが駄々をこねた



「ええ~、せっかくすぐ目の前に

 町があるんだからさ、

 ちょっと寄って見学して行こうよ

 身体を休めたいしさ」



キャサリンは肩をすくめて言った



「そう言うと思ってた。だったら、

 この昆虫たちを適当な場所に隠して

 行きましょうか」



こうして、マックスとハイエルフ3人は徒歩で

渓谷の町に向かったのだった。



平和な時なら、大渓谷がようやく途切れる

東の古都プラウダール方面への陸路での通商が

主なのだが、魔王軍が占領しているので

この気球の町は、普段にも増して

活気を帯びていた。


この町で気球を使って品物のやり取りを

行う以外には、ずっと渓谷を南に沿って下り、

海に出るまで遠回りをしないといけない。


ルーンの南東の主要都市ダルクエンへの

最短ルートとして昔から、

この気球の町は栄えていたのだった。


気球についての案内が記されてある

石碑の前に一行は止まった



「なるほど、ここの渓谷の周辺にある

 山々によって気流の流れが変化しているから、

 この町から、渓谷の対岸同士で

 行き来できるんだな。

 北回りは、対岸のルーンからこちらの

 イーストエアに向かう気流で、

 南回りが、イーストエアから対岸の

 ルーンに向かう気流に乗れるというふうに」



要は、渓谷をはさんで、

イーストエアとルーンの間をグルグルと

回っている都合のいい風が吹いているからこそ、

この町は気球の町として発展したのだった。


ふと、横を振り向くと、キオミとキャサリンが

空中に浮かぶ気球をバックにポーズを取っており、

それをヘリントンがカメラで記録していた。



「まるで、青春旅行真っ最中の上流階級の

 ヤング連中みたいだな

 なんだかんだと、服も煌びやかだし

 俺の服装が浮いて見えるぜ」



ちなみに、ハイエルフ3人は

サルマティクスで買った

イーストエア風の民族衣装を着ていて、

マックスは、補修したいつもの勇者服だった。


気球の発着場まで行ってみる


ズラリと地面に立ち並ぶ気球の群れは壮観だった


取引所で取引された商品を、人夫たちが

気球のゴンドラに載せていた

 

ふと、マックスは一台の気球のほうを見つめ、

そしてハッとした顔になって

走っていった。

ハイエルフたちも急いでついていく



「あ、もしかして君はあの時の...」



人夫たちと一緒になって、気球のゴンドラに

商品を積む、一人の魔族の女性だった。


緑色の肌、額から一本の突起がニョキっと

生えている。左右に長い褐色の髪は後ろで束ね、

質素なローブを羽織り、腕には捕虜であることを

示す腕章がついていた


マックスの姿を認めたその魔族の女性は、

緑色の瞳を大きく見開いて言った



「あ、あなたは人間の勇者様!

 こんなところで再びお会いできるなんて」



マックスは言った



「ああ、ギニエルだったっけ?

 なるほど、ここで気球乗りとして

 労役しているんだな

 君のように高階位の魔術師なら

 気球を飛ばすのは得意だろうね」



発着場を監視している兵士が

マックスのところに来て

ルーンの共通語で言った



「魔王軍の捕虜と話すのはダメだ

 そこを立ち去るのだ」



マックスは懐をゴソゴソと探って

一枚のカードを差し出した



「ああ、俺は秘密任務中のウォーヘッドだ

 ちょっと、この捕虜に用があるんだが」



兵士はそのカードを受け取って

しげしげと眺めた。

そして、マックスにカードを返すと、

背筋を伸ばして敬礼した



「失礼しました、ウォーヘッドのお方でしたか

 お勤めご苦労様です。

 


ウォーヘッドたちは少人数のチームで動き、

様々な任務に就くことがある。

故に、一人一人に

その身分を証明するカードが与えられている


そのカードには

魔法がかけられていて、ルーン諸国の

国王たちの署名が浮かび上がってくるのだった


ウォーヘッド特権を使用して

人夫たちに積み込みを任せ、

マックス一行は、魔族の捕虜ギニエルと

話し込んだ


ギニエルは嬉しそうだった。



「勇者様と、そちらのハイエルフのお方は

 お久しぶりです。

 と申しましても、あの日から

 そこまで経ってはいませんね。

 私は、ご覧のとおり、魔法で気球を飛ばす

 労役についております。

 あの、ゴンドラの上のほうにある火皿に

 ファイアーボールを灯すだけですけどね

 それと、荷物の積み込みも...

ノルマ以上の往復をこなすと、食料や物資を

 特別に多く配給してくれるんです。

 ええ、実はこの仕事を結構楽しんでいます、

 ずっと戦闘ばかりしてきたので

 新鮮な体験ですから」



マックスは言った



「そうか、元気そうでなによりだ。

 まあ、魔法使いは貴重だから

 魔王軍との前線に近いこの場所でも

 捕虜を働かせる必要があるんだろう」



こうして、初夏の燦々と降り注ぐ日差しの元、

かつて戦いあった者たちは

穏やかに語り合ったのだった。 

 

 

 




 


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