第二部 ~オープニング
魔王軍の占領下にある、
東の古都「プラウダール」からの一大攻勢が
あって一週間が過ぎた
プラウダールから出撃した魔王軍は、
予想に反して、ルーンの内海の南部にある
諸国へと向かった
ハイエルフたちの牙城である世界樹の森を
焼き払ったことで、魔王軍は東部での
一応の目的を果たしたみたいだ
ルーンの東部の森林地帯の戦況は今や膠着状態で
落ち着いている
ジェネラルは言った
「メシア教による結束が固い南部諸国は
守りも固く、魔王軍はまずは東部を制圧
してから南部への侵攻を開始すると
思われていた。しかし、奴らは
強力な航空戦力を得て、南部諸国に対して
日夜、猛烈な空襲を仕掛けている。
対して、我々は航空戦力に対して有効な
対抗手段を持たない
チームブラボーのレッドドラゴンをはじめ、
ありったけの竜騎士を集めても苦戦は必至だ
チームアルファのセリスの聖眼レーダーで
敵の空襲を早くに予測し、地上からの
魔法攻撃と、数少ない竜騎士の迎撃で
なんとかするしかないのだ」
こうして、急遽、魔王軍の航空戦力に対抗すべく
チームの再編成が行われ、ウォーヘッドたちは
南部諸国に派遣された。
新しく編成され、ルーンの内海の南東にある
都市国家「ダルクエン」に配備された
チームの詳細を記そう
チームアルファ
聖女セリス
魔法使いマリアンヌ
戦士ティルク
偽勇者マーク
チームブラボー
聖騎士リック
重騎士ドン
弓騎士カールソン
猪騎士ドワーフ.イルガ
チームチャーリー
僧侶エリー
魔法使いルーティー
エルフ.リリーベル
ハイエルフ.ディックソン
航空チームA (全員竜騎士)
レッドドラゴン、ボケコラ
&ストゥーカ
他、ワイバーン乗り3名
航空チームB
飛行竜乗り2名
フーセンドラゴン乗り2名
特筆すべきは偽勇者マークであるが、
覚えておいでだろうか?
なんと、彼は、マックスとセリスの故郷の村で
セリスに詰め寄り、マックスを切りつけたあの
悪代官だ!
当時12歳のセリスに難癖を付け、
「おじさんと納屋に行くんだよ、
納屋に行くからね
行くんだよ、納屋に行くよ」
と執拗に詰め寄り、それを止めた
当時14歳のマックスに切りつけ、
後に村人たちによって取り押さえられたあの
ロックフォール公の悪代官なのだ!
後に牢獄でウォーヘッドとして目覚め、
釈放されて偽勇者として戦闘に参加することに
なったのだった。
偽勇者マークは、椅子から小太りの身体を
起こし、うす茶色のちょび髭を指で
伸ばし、セリスを労った
「おつかれさん、セリスちゃん、
今日も頑張ったね、偉いね、
今日も頑張ったね。
おじさんは今日もセリスちゃんが
頑張っている姿を見て嬉しいよ
それじゃ、お風呂にする?
それとも、ご飯食べる?
それとも、おじさんと話でもする?」
聖眼レーダーを長時間駆使して、警戒任務を
して疲れきったセリスは、無言で
偽勇者マークを睨みつけた
聖女セリスの前に、魔法使いマリアンヌと
戦士ティルクが立ちはだかった
クローディス大公の娘と、大柄な戦士
に阻まれ、マークはおずおずと引き下がった
チームチャーリーの連中がさらに
セリスの壁に加わった
彼らは、前回の勇者マックスの
テレポーテーションにおいて、
魔力を共有するという能力を大幅に上達させ、
セリスの聖眼レーダーに
魔力を供給していたのだった。
偽勇者マークから、聖女セリスを
守るべく、壁になったチームたち。
ふいに、マークは襟首を掴まれ、宙に浮いた
ハイエルフのディックソンだった。
「この薄汚い豚のような性犯罪者め、
セリス嬢から離れろ!
まったく、性犯罪を犯そうとするなんて
信じられん...
俺は、今まで、どんな奴が性犯罪を犯すのか
顔を見てみたかったが、なるほど、
こんな豚のような顔をしてたんだな。
繰り返すが、性犯罪を犯そうとするなんて
本当に信じられん」
エルフ語で悪態をつくディックソンに、
エルフのリリーベルも同意した
「ほんまやな、こんな性犯罪未遂犯が
ウォーヘッドとなるなんて
世の中、まちごうとるわ!
それも、偽勇者といえど、勇者の代理として
必要やっちゅう理屈もわからんわ」
ディックソンは、乱暴にマークを投げ飛ばした
リリーベルも含め、全員が知るはずもなかった
マークのような性犯罪未遂犯と違って、
ディックソンこそがまさに本物の性犯罪者
だったということを....
それも、あっちの世界で獣姦や強姦などの
深刻な性犯罪を犯したあげく、
刑務所で服役し、刑務所を脱走して
大都市に流れ着いて、市長スオムの夫となり、
性犯罪者矯正のための拷問を、その威力を
100倍にして受け続けているということを
投げ飛ばされ、尻餅をついたマークに向かって
ディックソンはさらに詰め寄ろうとした
他のメンバーたちがディックソンを抑えた
ディックソンは言った
「離してくれ、俺はこんな薄汚い豚のような
性犯罪未遂犯が近くにいるというだけでも
我慢ならないんだ!一発、殴らせてくれ」
ディックソンの肩をがっしりと抑えながら
ティルクが言った
「エルフ語で何を言ってるのかは分からないが
お前さんの怒りはよくわかるぜ!
でも、ちくしょう!偽勇者と言えど、
俺たちのチームには必要なんだ、
本当にちくしょうだが、抑えてくれ」
本物の性犯罪者を抑えながら、メンバーたちは
マークを睨みつけ、去っていった
長い黒髪を翻し、セリスが言った
「あの偽勇者は放っておきましょう。
そんなことよりも、私たちが考えるべきは
本物の勇者のことよ
マックスなら、私たちに合流しようと
イーストエアに近い、このダルクエンに
向かうでしょう。
きっと、すぐにマックスと再会できるわ」
マリアンヌが言った
「ええ、おそらくは
イーストエアとルーンの境である
グレートバレーに現れるんじゃないかしら
このダルクエンからも近いし、
どうやら、私たちとマックスは、
運命の力によって
引き寄せられているのだと思いますわ
早く、マックスと再会して、あの偽勇者を
私たちのチームから放逐しましょう」
去っていくセリスたちを、マークは指を咥えて
眺めていた




