再会2
サルマティクスの自由市場には、
今日も色とりどりの
テント布で庇を作った出店が立ち並んでいた
その市場を、一人のボロボロの男が歩いていた
金髪はほつれ、まるで野良犬のようになっている
虚ろな青い目、白い肌、おそらくは
ルーンの内海地方から来たのであろう
青と白の服は、見る者が見れば、特別な素材で
作られた高価値なものだとわかるだろう
ボロボロなのは、放浪が原因というより、
魔族の戦士との激しい戦闘を
経ていたからであるが、
パット見、浮浪者にしか見えなかった
「さあ、カゴいっぱいに入った
この新鮮な桃を見ておくれ、
溢れる果汁感、張りのある果肉感、
見て見て、超いい感じ!
おや、桃でいっぱいのカゴに向かって
頭を突っ込もうとしているこの男は何者だ?
まるで理性を亡くしたかのように、
売り物であるこの桃のカゴの中に、
頭を突っ込むとは何事だ?
見た感じこのあたりの人間ではないが
いくらなんでも常識外れだろう、
むむ、よく見たら売り物の桃に
齧り付いているではないか!
なんということだ、
桃でいっぱいのカゴの中に頭を突っ込み、
さらに、その中の一つに齧り付いて、
まるで獣のように貪り食っているではないか!
信じられない、懐から棍棒を取り出して
ひっぱたくぞ、えいっえいっ
なんて固い奴だ!
棍棒でぶったたいてもビクともしない
私の渾身の一撃を受けても平然と、
売り物の桃に齧り付いて
貪り食っているではないか!
誰か、助けてくれ、協力してくれ、
この男を、売り物の桃が
いっぱいに入ったカゴから引き離してくれ、
おっ、すまないな、協力してくれるのか?
ぬぐぐ、ふう、3人がかりで
ようやく引き剥がせたぞ」
桃売りのオヤジは、2人の協力者と共に、
ようやくバムマックスを
桃の入ったカゴから引き剥がした
そして、乱暴に、地面に放り投げた
市場を歩く大勢の人々が、
地面に転がるマックスを避けて逃げていく
親切な老婆が、さりげなく、
マックスの目の前に
紙で包んだパンを落として、
そそくさと去っていった。
すかさず、両手でパンを掴み、獣のように
無我夢中でそれをほうばる
かつて、ウォーヘッドであり、勇者であった
マックスは、今やたんなる浮浪者だった。
言葉も通じない異文化圏で、もはや
戦う意味さえ見いだせない
ただ、漠然と、西へと向かい、こうして
サルマティクスにたどり着いたのだ。
「ふむ、拙者たち3名は、この都市の
治安維持担当の役人であるが
目の前のこのみすぼらしい男は
何者であろうか?
おい、君、拙者の声が聞こえておろう?
むむっ、ふざけてるのか?
眉間に皺を寄せて、口を結んでその両端を
下げた渋い顔で、何を踊り始めておるのだ?
大体、君のような若い男なら、
いくらでもやり直せるチャンスがあるだろう
人生に自某破棄になるにはまだ
早すぎるではないか」
マックスは、3人の役人の言葉など
耳に入ってないかのごとく、
無心で、スイング.ダンスのような
ダンスを踊っている
呆れたようにマックスを見つめる3人の役人
両腕を、走るかのように大きく振りかざし、
足をクネクネとさせている
「どうやら、拙者たちの言葉に
聞く耳も持たぬようだ。
反社会的な若者のようだが、もしも明日、
またこの場所をウロウロしているようなら
容赦なく、君をしょっ引くからな!
では、行こうか」
役人3人は肩をすくめながら去っていった
やがて、スイングマックスは、
市場に集まる大勢の人々に向かって、
彼らの理解できない共通語で怒鳴り散らした
「何見てんだテメーらこの野郎、
俺の○○○はすげー○○○だぜ
腐った○○○にぶち込みてえよ
ああ、○○○してーよ、ねーちゃんの
○○○に俺の○○○をぶち込んで
○○○してえ!」
イーストエアの人々がルーンの共通語を
理解できないのをいいことに、
放送禁止用語を大声で放つ、スラングマックス
そして、マックスは、
スイングしながらスラングした
スイングダンスに
腰をクネクネさせるという卑猥な動作を追加
しながら
卑猥な言葉をわめき散らす
「どうだ、お前ら俺をジロジロ見続けるなら
その内、俺の○○○を衆目に晒して
○○して、お前らの中で綺麗なねーちゃんを
選んでぶっかけてやるぜ!
俺の○○○から○○をぶっかける。
どうだ?それでも俺をジロジロ見るのかよ、
俺の大量の○○○をぶっかけられてえのか!!」
市場の人々は、面白がる者、迷惑がる者、
憐れむ者、傍観する者、様々だ
しかし、ふいに、マックスのすぐ側で
小さな出店をやっていた人物が
彼に話しかけた
「お兄さん、落ち着きなよ、放送禁止用語を
天下の往来でわめき散らすもんじゃないよ。
ここの人たちが、全員、君の言葉を
理解できないと思ってると、
とんだ、人生の黒歴史を刻むことになるよ」
唐突に、ルーンの共通語で話しかけられ、
マックスに電撃が走った
(しまった!!!共通語を理解できる奴が
すぐ側に居た!!!
しかも声からして若い女だ、くっそ
恥ずかしい)
マックスはあまりもの恥ずかしさに
頭を抱えて座り込んでしまった
茶色と緑色のマントを身にまとい、フードを
深々と被ったその女性は、そそくさと
座り込むマックスの側に寄ると、
出店で売っている商品を一つ差し出した
「ほら、これをあげるから食ってみ、旨いよ」
腰を屈めて、何かを差し出すその女性の手から、
顔も上げずにそれを分捕ると、
マックスはヒョイっと口の中に入れた
...口内を苦味と、スースーする
清涼感が支配した...
その苦味を噛み締めながら
マックスは全身を震わせはじめた
長い間、マックスは全身を震わせていた
そんな姿を、腰を屈めながらじっと見守る
マントとフードの女性
マックスの頬を涙が伝う
それと同時に、ほのかな甘味が
苦味に取って代わる
癒しの甘味が口内に広がり、マックスの涙は
ポタポタと地面に染み込みはじめた
「生きてたんだな、こんなところに
逃げのびていたのか...
俺たちは君の故郷に行って
焼け落ちた君の店を見つけた。
...でも、無事だったんだな」
マックスの中で、欠けていたものの破片が
一つ、戻ってきた。
座りこんでいたマックスは顔をあげた
そして、キオミは
深々と被っていたフードを脱いだ
肩のあたりでバッサリと切った柔らかな色の
金髪がふわりと靡く。
切れ長の目は今は優しげにたれ下がり、
空色の瞳が、マックスをじっと見つめ、
形のいい唇がこう言った
「約束通り、私に会いに来てくれたんだね。
思いがけない場所で再会してしまったけど、
ま、お互いに積もる話が沢山あるだろうから
ちょっと、家に寄ってかない?」
マックスは、次々と流れ落ちる涙を
拭うこともせずに、
キオミの顔をマジマジと見つめ、そして
小さく頷いたのだった