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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
40/114

定食屋

営業してから一週間も経ってないのに、

川原の定食屋は大繁盛だった


テント布と板切れで作った店舗は、極限にまで

増築拡大し、それでも中に人が入りきれずに

行列ができていた



「キャサリン、ほら、日替わりだ」



厨房のヘリントンが、フライパンから直接、

野菜炒めを飛ばす


キャサリンは

数枚の皿で、次々とそれを受け止め、

さらに、ネーヤの鍋から

ラムの煮込みが飛ぶと、

野菜炒めの乗った皿で

それを全て上手に受け止めた


小さなレネクが、それぞれの皿に、

芋のフライと輪切りにしたトマトを添える


大きな盆に、日替わり定食を5人前載せて

キャサリンが言った



「はい、日替わり5人前完了、

 次は、スパイシー丼が3つよ!

 チキンも今のうちに仕込んでおいて、

 あのニートジジイはまだ、

 椰子油を買いに行ったまま戻ってこないの?」



レネクが言った



「オジジは、多分、水タバコ窟に寄ってると思う。

 近所のオジイサンたちとおしゃべりを

 しているんじゃないかなあ?」



ハイエルフたちの中で唯一、イーストエアの

言葉を話せる長老オウルがこの有様のため、

客たちとキャサリンの注文のやりとりは、

片言の料理名だけだった。


それでも、

客たちはキャサリンと話したがっていた。


緑色と茶色のマントを羽織り、

フードを深々と被り、

三角形のヘンテコな眼鏡をかけながらも

服装越しに

見事なプロポーションと優雅な動作が分かり、

美人のオーラが隠されることなく漂っているのだ



「キオミも、飴売りに没頭してないで 

 ここを手伝ってくれればいいのに...

 まあ、今夜からこの店にバーを開くから

 あのジジイにもしっかりと働いてもらうわよ」



三角眼鏡を人差し指で直しながら、キャサリンは

つぶやいた



真夜中になった



曇り一つない空に、満点の星空

キオミが持っていた金貨によって借りた

この石造りの家は、

白い2回建ての箱のような味気のない形だ。

この「サルマティクス」の建物は全体的にそうだ


屋上は広いベランダのようになっており、

クッションが備わった長椅子が並べられていた


椅子には、キャサリン.キックと、

ヘリントン.アームが座り、

何やら話し合っていた。



キャサリンが言った



「どうするの?密輸の証拠も、

 あのチンケな昆虫だけじゃあ弱いし、

 世界樹の森を襲ったグラウンド.ゼロも

 この世界の住民だし、森が焼けるシーンも、

 ディックソンがバジリスクに飲まれるシーンも

 撮り損ねたわ

 せめて、バジリスクさえ撮っていればね

 

 時代の波に乗り遅れた

 地上界のハイエルフたちの

 密着極貧ドキュメンタリーに転向する?


 それとも、私を主人公に見立てて、

 この発展途上の惨めな地上界での

 サバイバルバラエティーとか...

 ううん、どっちもイマイチねえ」



ヘリントンが言った



「一応、脱出直後からは俺もきちんと

 隠しカメラを回しているが、

 ここでの生活も、なんやかんやと

 平和理に過ぎて行きそうだな。


 やはり、事件を追うなら、魔王と人間との

 戦いの最前線に行かなくちゃね

 それとも、いっそ、魔王軍に入っちゃおうか?

 魔王や幹部連中に取り入って、

 直々にインタビューをしたいよな」



ふと、ハイエルフ二人は振り向いた


長老オウルが、屋上への階段を登って

こちらに向かってきていた



「まったく、年寄りを夜遅くまで

 働かせおってに...

 それにしてもお前さんたち仕事熱心じゃのう

 ま、コンボイト.ジャーナルの

 人気キャスターとカメラマンが

 わざわざ地上界くんだりまで

 出向いてきたってことは

 いろいろと話題のネタが目当てなのじゃろう


 じゃが、世界樹が焼けてしもうて

 あっちの世界とはしばらく

 行き来できんじゃろう。

 それに、ゲートの魔法で救援が来たとしても、

 こんな場所にわしらを

 探し当てられるとは思えぬ

 

 諦めて、世界が平和になるまで

 ここでおとなしくしとったらどうじゃ」



キャサリンは、椅子から立ち上がって、

腰を手にあて、オウルと向かい合って言った



「長老、あなたは慣れているでしょうね

 今まで通り、世界が乱れても何が起きても

 それが収まるまで我関せずと隠れているだけ

 永遠の命があるハイエルフだからこその余裕

 こうやってずっと過ごしてきたのでしょうが

 あっちの世界は違うわ!

 今、最高にエキサイトしてるのよあっちは


 私たちはジャーナリストとして、

 大きく躍動していく歴史の瞬間を

 きちんと捉えて残しておくのよ、

 ちゃんと当事者としてね!

 おとなしくじっとなんかしていられないわ」



しかし、オウルは言った



「ひどいものいいじゃのう!じゃがの、

 わしも、若い頃はこの世界の様々な地を

 旅したことがあった。

 実を言うと、人間たちに関しては

 ハイエルフの中では一番

 詳しいんじゃないかな?


 お前さんたちには、発展途上で

 野蛮な連中に見えるじゃろうの。

 一瞬にして燃え尽きる短い命、

 故に、知恵と経験の蓄積もなく、

 延々と世代を越えて繰り返されていく

 破壊と建設

 

 お前さんたちと違って、人間たちは

 わしがすぐ側に立っていても

 気づかぬことが多かったわい...


 こうして、わしは知られることなく

 様々な人間の人生を見つめてきた

 

 そして、わかったことがあった

  

 彼らはああ見えて、

 そのちっぽけな存在にあわぬほどの

 大きな希望や情熱、悲しみや感動を

 その内に秘めておる。

 まるで無限に湧き出るエネルギーが

 与えられているかのように

 

 彼らが救世主メシアと呼んでいる

 存在を知っておろう、

 

 人間たちは、はるかな未来に

 その存在が現れると思っておって、

 それは、まるでフィクションを

 神として崇めていると他からは見えよう」



二人のハイエルフが、オウルを見つめる

オウルは続けた



「じゃが、わしは思うのじゃ


 すでに、救世主メシアは人間たち

 一人一人の側におるのではないかと...

 すべての人間たちを側から見守っておって

 心に語りかけ、無限のエネルギーを

 さずけているのではないかとな

 

 まあ、今のお前さんたちにはよく

 わからぬじゃろう

 もしかしたら、人間たちを観察してみるのも

 面白いかもしれぬぞい」



なんだかんだと言って、

地上界のハイエルフの長老であるオウルは、

あっちの世界を含めたすべてのハイエルフたちの

最長老の一人なのだ


今は亡き、ハイエルフの議長と同じくらいの

年寄りなのだ




 

 

 

 

 

 


 




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