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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
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思い出

小太りのちょび髭小役人が、セリスの細い腕を

掴んだ。

こうして、12歳のセリスは無理やりに

代官の家の隣の納屋に引きずられていった。


しかし、彼らの前に村人マックスが

立ち塞がったのだ



「何してるだ!代官さま、

 こげな小さな娘っ子に何をするつもりだ」



14歳のマックスは代官の家の下男として奉公に

出されていた

先月、高齢の為に引退した先代と違って、

この新しい代官は何かがおかしい

何か身の毛がよだつような人物だった。


その予感は当たったようだ



小太りのちょび髭の代官は、12歳の少女の

手を無理やり引っ張りながら言った



「そこをどけよ、歯向かうのか?下男のくせに

 歯向かうのか?今から納屋に行くんだよ

 誰にも邪魔させないよ、

 おじさんは代官なんだよ

 お前たちが歯向かうことはできないんだよ

 だから今から納屋に行くんだよ

 邪魔させないよ、許さないよ、この村で

 おじさんに歯向かう者は許さないよ、

 納屋に行くんだよ、誰にも邪魔させないよ

 納屋に行くのを誰も邪魔させないよ

 行くんだよ、納屋に行くんだよ」



両手両足を広げて、目の前に立ちはだかる

マックスに、どんどんと詰め寄っていく代官、

その片手でセリスを引っ張り、もう片方の手は

腰に下げた剣の柄を握っていた



「あんちゃん、助けてくんろ、おら、納屋に

 連れて行かれちまうだよ、ぶつかったのを

 謝ったのに、許してくんねえだ、助けて」



セリスは必死でマックスに助けを求めた

12歳の少女にぶつけられただけで大の大人が

詰め寄ることも大概ながら、代官の顔には

あまりにも下卑た思惑がありありと現れていた。



威風堂々たる今の姿とは違って、

14歳のマックスはやせ細り、

貧相な体格のみすぼらしい村人だった。

それはセリスも同じ。

みすぼらしい姿格好、ほつれた黒髪、

二人とも端正な顔立ちながら、そこらへんの

貧しい村人そのものだった。



「代官さま、セリスの手を離すだ!

 こんなこと許されねえだ、いくら偉いお方と

 いえど、おらたち村人を好き勝手に

 する権利はねえだよ」



ついに腰のブロードソードを抜いた代官の

前に、不動の意思でしっかりと立ちはだかり、

マックスは必死で抗議した


剣を抜いた代官に驚いたセリスは、さらに

力一杯、抵抗を強める。


そして、代官はセリスを掴んだ片手を

離した。

小さな少女の身体は後ろ向きに転んだ。

地面に尻餅をついた格好で、セリスは

緑色の瞳を一杯に見開いて

代官とマックスを見つめた


今ならば、二人は例え丸腰であろうと

剣を持った一人の男に対してなんの脅威も

抱かないだろう

しかし、この頃は違った



「許さん、許さんぞ、る許さん、下男のくせに

 歯向かうとは」



両手両足を広げて立ちふさがる

14歳のマックスの前に、

剣を持った代官が迫ってくる。

その身体は恐怖でブルブルと震え、額には

冷や汗が流れていた。

それでも、マックスにはその場を逃げ去るという

意思は無かった


興奮した代官はブロードソードを素人丸出しに

大きく振り下ろしたのだった。


セリスの目に映ったのは、ブロードソードが

マックスの細い身体に吸い込まれていくような

風景だった。


しかし、その時


セリスの緑色の瞳と、マックスの青色の瞳が

同時に輝いた

そして、二人は同時にウォーヘッドとなったの

だった。



「お、おじさんに歯向かったのが悪いんだからね

 下男が主人に逆らったら死ぬんだよ

 仕方ないよ、おじさんは悪くないからね

 おじさんは悪くないからね、今から納屋に

 行くんだよ、おじさんは納屋に行くんだからね

 誰にも止められないよ、納屋に行くからね」



マックスは、片膝をついていた。

血がドクトクと肩から流れているのだが、

しかし、泣くことも叫ぶこともせずに

ただ、俯いてじっとしていた。


そして代官は信じられない光景を目にした



肩の傷がみるみる塞がっていく



「うあああ、何者だ?なぜ傷が塞がるのだ?

 お前は悪魔だな、だからおじさんを邪魔

 するんだな、わかったぞ、おじさんは

 悪くないのにお前が悪魔だから

 邪魔をするのか

 おじさんは悪くないからね、お前が

 悪魔だからおじさんを邪魔するんだね

 おじさんが納屋に行くのを邪魔するのは

 お前が悪魔だからなんだね

 これからおじさんは悪魔を倒して

 正義を成した達成感と

 自己肯定を丸出しにして

 納屋に行くんだよ、邪魔をさせないよ 

 これから納屋に行くからね」



代官の背後では、立ち上がったセリスが

片手を掲げて、治癒魔法を使っていた。

唐突に目覚めた能力ながら、その使い方は

すでに知っており、当たり前のように

マックスに向けて治癒魔法を放つ


そして、立ち上がったマックスは

代官が再び振りかざしたブロードソード

を片手で掴んでいた。


その手は青い光を微かに放ちながら、

掴んだ剣を握りつぶした。


砕け散った刃が空中に飛び散った



「そこまでじゃ、どうやら

 二人は選ばれし者だったようじゃな」



彼らの背後には村長が村人たちを引き連れて

駆けつけてきていた。









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