勇者の剣
限りなく続く不毛の大地
容赦なく照りつける太陽
マックスはただ、当てもなくトボトボと
歩き続けた
水分を失った肉体は、涙さえ流さなくなった
やがて太陽が傾き始めた頃、乾いた大地に
ひび割れが出来ているかのように、谷が
出現した。
小さなせせらぎの音に、マックスは反応した
植物の数が多くなっていく
そして、水の流れを見つけたマックスは
谷を駆け下りると、
倒れこむように、川に頭を突っ込んだ。
(永遠にこのままでいたい...)
しかし、肉体に生気が蘇ったとたん、
再び罪の意識がマックスを蝕んだ。
ふと頭をあげたマックスの目の前に、
岩に囲まれた洞窟の入口があった
何かに導かれたようにフラフラと
洞窟の中に入っていくマックス
すぐに奥にたどり着いた
そこまで深い洞窟ではなかったため、
微かな光が入口から届いている。
その薄暗い中、
盛り上がった土の上に突き刺さっている
一本の剣を見つけた
マックスは、その剣を抜いてしみじみと
観察した
「何の変哲もないブロードソードに見える、
でも、俺の剣は折れてしまった。
何も持たないよりはマシか...
俺は、皆が願ったとおり、生きて
戻らなければならない。
せめて、それだけは果たしたい」
特別に鍛造されたマックスの
ブロードソードは、
魔族の戦士の曲刀と切り結んでいるうちに
刃こぼれを起こし、
剣としての寿命を終えていた。
しかし、戦いの最中にその役目を
放棄することはなかったのだ。
そして、戦場から離脱したとたんに
折れてしまったのだ
鞘もその時に捨ててしまったので、
マックスは片手に剣を持ったまま
しばらく川沿いに歩き続けた
やがて、すっかり日も落ちて周りは急速に
暗くなった
ウォーヘッドであるマックスにとって、
月と星の明かりさえあればいい
日中とは打って変わって肌寒い
ふと、目の前にゴソゴソと動く
巨体に気がついた
このあたりで、グールと呼ばれている
人食い鬼だ
死体のような不気味な色の肌に、牙の並んだ
巨大な頭、目は不気味に光り、マックスを
見つける
背を屈めて、両手両足を使って
マックスの元に走ってくる
「このブロードソードで保つかな?
奴の巨体を斬る前に折れてしまいそうだが」
マックスはブロードソードを構えて待ち受けた
グールは、その体のバランス的に著しく巨大な
腕で、マックスを捕まえようとした
しかし、グールの体は、腕だけでなく
上半身ごと切断され、地面に崩れ落ちた
「なんだこの切れ味は...まさかこの剣は」
川下へ進みながら、数体のグールを切り倒し
マックスは確信した
「これは、伝説の勇者の剣で間違いない...
まるで、身体の一部のように、いや、
むしろ新しい身体の器官であるかのように
自分の意思どおりに動く
なんで、あんなところにあったんだ?
ルーティーたちが意図して
こんな場所に飛ばしてきたわけでは
ないだろうから、俺は何かの
導きによってここまで飛ばされたのか?」
かつての勇者たちは、最後には必ず、
勇者の剣と言われる剣を持って
魔王に挑んだと言われている
世界一有名な剣であるにもかかわらず、
勇者たちがどのような経緯で
それを手に入れたのか
そして、どのような外見なのか、
その後にどうなったのか、
それらはまったく伝わっていなかった
しかし、勇者マックスは、直感によって
このみすぼらしい見た目の剣が、
勇者の剣であることを理解したのだった。
夜が明けるまで、マックスは襲ってくる
グールを一瞬にして葬り去りながら
川を下り続けた
たどり着いたのは、湖だった
やはり植物は多く、椰子の木が沢山生えている
ルーンの南方の国々にある椰子とは
少し種類が違っているみたいだ
幹は巨大でまっすぐで、四方に開く葉の根元に
いくつもの小さな実がなっている
マックスは、レビテーションを使って
空中を浮遊し、無我夢中で椰子の実を採集した
そして、その姿をバッチリと一人の少女が
目撃していた
マックスはその少女を見つめた
青い布を頭に被り、その衣装も風変わりだ
綺麗な大きな目を驚きに見開き、
ウェーブのかかった黒髪に、
薄い褐色の肌だった
マックスは空中に浮遊しながら、
その少女を追った
自分が剣を片手に持っていて、しかも
空中を浮遊しながら小さな女の子を
追いかけているという光景を、
客観的に見れるほど
マックスは落ち着いていられなかった
「待ってくれ、俺は怪しいものじゃない
少し話を聞いてくれ」
必死で逃げ惑う少女、剣を片手に、空中を
浮遊してそれを追いかける
身なりがボロボロの男
数発の石が、マックスに向かって飛んできた
剣で石を跳ね返し、マックスは
目の前を見つめた
髭面の数人の男たちと、女たちだった
全員が、色とりどりの布を頭に被り、
薄手のローブに、派手な帯を巻いたような
風変わりな衣装だ
少女が、一人の女の懐に飛び込んだ
マックスは、自分がしていたことに気がつき、
地面に降りると、剣を下において
両手を上げて、頭を左右に振った
「すまない、別に危害を加えるつもりでは
ないんだ、勘違いさせてしまったみたいだ。
ただ、ここがどこなのか聞きたかっただけだ」
モジャモジャの髭面の男が口を開いた
「イデ、アッサーム、ディ、カルダーン」
マックスには何を言っているのか不明だった
「そうか、おそらくここはイーストエアだ。
ルーンの南方からさらにはるか東の
異文化圏か、言葉が通じないのも仕方ないな」
うなだれるマックス
マックスの前方にはいくつかの
テントが張られており、
砂漠地帯を旅するために使用される、
ラクダと呼ばれる動物たちが木々に繋がれている
人々は、マックスを警戒しながら、
テントを片付け、出発の準備を始めていた。
ぼんやりとその光景を見つめていた
マックスの元に、
一人の女性が近づいてきた
女性の後ろに隠れながら、
あの少女もついてきていた
少女と似ているので、母親だろう
母親は、パンや干し肉や果物を入れた
小さなカゴをマックスの目の前に置いた
イーストエアの人々は、
困っていそうな人に対し
無償の施しをするという習慣を持っている
....加えて、マックスは、
金髪碧眼の美男子だった...
言葉は通じないので、マックスは女性たちに
向かって微笑んで頭を下げた
彼女たちは、しばらく
マックスの顔を見ながら後ずさっていたが、
背を向けてそそくさと去っていった
人々はラクダに、片付けたテントや、
多くの荷物をくくりつけ、出発の準備を終えた
(おそらく、荷物からして旅商人たちだろうな
彼らの後をついていけばやがて大きな町か
ルーンの南東部にたどり着けるかもしれない)
カゴの中の食物を貪り食いながら、マックスは
旅商人たちの出発を見送っていた
しかし、ふいに大勢の騎馬の男たちが、
こちらに向かって突撃してきた
どちらかといえばマックスが見慣れた服装だ
先の尖った兜を被り、
丈の短い鎖帷子を羽織っている
槍を装備しており、槍先に、
星のマークが描かれた旗をつけていた
そして、マックスにも理解できる
ルーンの共通語で
誰かが大声で叫ぶのが聞こえた
「偉大なる救世主の思し召しだ
異教徒どもを皆殺しにせよ、その持ち物を
奪って我らのものとするのだ」
騎馬兵たちは、一直線に、旅立とうとしている
旅商人たちのところに向かっていた
マックスは電光石火の勢いで、走り出した