再会
ディックソンはとりあえず、目の前の
風景を見つめた
「おっ、君たちは確かあの時の...
わざわざ世界樹の森くんだりまで
来てくれたのか?」
あの時のウォーヘッドたちが円形に固まって
さらに円の中に、数人が背を向けて
立っている。
その向こうに、曲刀を持った魔族の戦士
さらに向こうにレッドドラゴン
そして、焼け焦げたまっすぐな幹が
何十本も天に向けそそびえ立っている
地上を照らしていた美しい枝葉が今や
炭となって地面を真っ黒にしている
「にしても酷い景色だぜちくしょう!
あっ、そういえば、あの、
激おこプンプン丸 (グラウンド.ゼロ)
はどうした?」
ディックソンはグラウンド.ゼロと
首を絞め合っていたのだ
しかし、流石に熱すぎてたまらずに逃げ出した
そして、気がついたら穴の中に飲み込まれて...
ちょうど、ディックソンの正面に立つ
エルフのリリーベルが答えた
「あ、あんさん、どこから出てきたんや?
つか、わしらをちょっと助けてくれへん?
決死の覚悟をした直後に言うのも
なんやけどな、あはは」
リリーベルはなぜか照れたように笑っている
彼女の隣のドワーフと弓矢の青年が
驚きに目を見張ってこちらを見ている
さっきから、ディックソンの背中に
矢が何本か刺さってきている
チクチクしてうざい...
後ろを振り向いて、飛んできた矢を掴んだ。
そして、正確に飛んできた方向に投げ返す
2回繰り返して、2回悲鳴が聞こえた
リリーベルは呆れ顔だった
「相変わらずけったいな...
一瞬にして、わしらを悩ましていた
竜騎士どもを片付けてしまいよったわ
あ、ちなみに、そこに居たらバジリスクに
喰われるで!はようこっちに来て、
戦っている子らを助けたりーな」
ディックソンは言った
「マジか?もう一匹居るのかよ、もう
奴の腹の中は沢山だぜ」
彼女たちの背後のウォーヘッドたちは
ディックソンに気がついていないようだ
必死になって、魔族の戦士と戦っている
あの、聖騎士の鎧を魔族の曲刀が突いた。
身をかがめる聖騎士の姿が目に焼き付き
瞬時にディックソンは怒りに我を忘れた
「許さ、る許さん!!俺の大切な、
クソ、絶対に許さねえ!!」
背後の脅威が一瞬にしてなくなったので、
横を向いて戦闘を眺めていたリリーベルが言った
「一体、リックはあんたの何やねん」
聖騎士リックは、魔族の戦士の曲刀を受け、
身体を屈めた
なんとか鎧が身体を守ってくれたが、
おそらくは刃を受けた部分はヘコみ、
打撲で肋骨が折れたかもしれない。
魔族の戦士たちの技は最高だった。
彼らは、円形になった自陣を囲むように
動いている
「ふん、相手に不足はない!
俺たちの散り様を一体誰が
語り継いでくれるのかは分からないが、
語られるに恥じぬ戦いを見せてやろうぞ」
しかし、自分の隣のリリーベルのほうに
向かった魔族の戦士たちが吹っ飛んだ
1体、2体、3体と、強力極まりない
魔族の戦士が次々と吹っ飛び続ける
リックは見た
鉄をも切り裂く曲刀の斬撃が、
その身体を切り裂くのをまったくモロとも
せず、ビンタをかまし続ける男の姿を
ドワーフのイルガと、弓騎士カールソン、
魔法使いルーティーと魔法使いマリアンヌ
僧侶エリーと聖女セリスが
仲間たちに加勢し、ついに形勢が逆転した
アジテーター.デーモンのイワノビッチは
ボケコラと対峙していた
その両手に悪魔のパワーを発し、
レッドドラゴンの巨体と対等以上に
渡り合っている
しかし、その背中をディックソンの
ドロップキックが直撃した
地面に倒れこむイワノビッチ
ディックソンは即座に、首輪から伸びて
異空間に消えている鎖を引きちぎった
「これで、異空間に逃げ込むことが
出来なくなったな告発者よ!
いや、この世界では扇動者だっけか」
ついに、地上の敵は全滅したのだった
捕虜たちをグルグル巻に縛ってから、
半ば呆然と立ちすくむウォーヘッドたち。
ちょっと前まで、玉砕する覚悟だったのに
一体これはどういうことなんだ..
全員が、一人のハイエルフを見つめる
服は所々破けていて血が滲んでいるが、
見たところ大して
ダメージは受けていないみたいだ
しばらく、気まずい沈黙が支配した
沈黙を破ったのはルーティーだった
ルーティーは苦笑いして、
頭をポリポリと掻いた
「あの、実はですね、テレポーテーションは
非常にうまくいったのでありますが
その、目的とは反対方向に
飛ばしてしまったのであります。
本来ならば、マックスは出発した村の
さらに南西に出現するはずが、
その...東西を間違えてしまったであります...
ほんとうに、サーセンっした!!!」
ルーティーは、皆の見ている前で
土下座したのだった
下手したら魔王軍の支配地のまっただ中に
マックスが現れる危険があったが、
マックスが飛ばされた地は、ここから
1000マイルほど南東の、俗に言う
「イーストエア」と呼ばれる地域だった
魔王軍とルーンの人間たちとも距離を置いている
まったく異なる文化圏の国々
戦士ティルクが呆れたように言った
「真東や真北ならばマックスは詰んでたな...
南西で安心したよ...
つか、普通、あんだけ命懸けの感動のシーン
ぶちかましておいて間違えるか?
まあ、玉砕覚悟でマックスを送り出した
俺たちがこうもあっさりと生き残ってしまった
のもなんつーか、カッコ悪いけどな」
彼らから離れたところにポツンと立って
にこやかに微笑んでいるディックソンに
リリーベルが言った
「ディックソン、ほんま、おおきに!
そいでな、早速で悪いねんけど
いろいろと聞きたいことが」
しかし、ディックソンの後ろに、ふいに巨大な
怪物が出現したのだった
完全に忘れ去られていたバジリスクだった
ついに痺れを切らして、地中から、彼らの
前にその姿を現した伝説の怪物
花びらのように幾枚にも別れて開いた口から、
幾本もの触手がディックソンを絡め取った
直径3メートルはあるであろう巨大な口内に
飲み込まれていくディックソン
「あああああ、また奴の腹の中は嫌だああああ」
ウォーヘッドたちがなんとかしようとする前に、
バジリスクは満足したのか、地中に戻っていった
前回で要領を得たのか、ディックソンが再び
バジリスクの腹を突き破って
地上に生還したのは、翌日だった。




