別れ
マックスの目前に、高さ100メートル以上は
あると思われる、巨大な焼け焦げた幹が
何十本も突き立っている
その幹の下と上空に、魔族の戦闘部隊が
こちらと対峙していた。
そして、背後にはバジリスクが、地中に空けた
穴の底で待ち受けていた
戦士ティルクが言った
「魔族の戦士と、竜騎士か...まあ、
結局は、空と地中からこちらを追撃できた
わけなのだな
世界樹の幹に阻まれて、竜騎士たちは
有効な空中攻撃ができないだろう
マックス、ここに戻った決断は正しかった、
気を落とすな」
地上では、6体の魔族の戦士が、ジリジリと
こちらににじり寄ってきている
上空では、6体の魔族の竜騎士が、飛行竜に
乗って隙を伺っていた。
有り体に言えば、彼らはとてつもなく強かった
魔族の中位種族の中でも、
よりすぐりのエリートなのだろう
チームブラボーの騎馬の3人は、
すでに馬から降りている
敵の竜騎士の3体も、飛行竜から降りて
地上で戦っていた
馬たちは、世界樹の幹の奥へと走っていった
....無事でいてくれるといいが
こうして、地上では、
前衛に、勇者マックス、戦士ティルク、
聖騎士リック、重騎士ドン、
エルフのリリーベル、ドワーフのイルガの6人、
後衛に、弓騎士カールソン、
魔法使いマリアンヌ、聖女セリス、
僧侶エリー、魔法使いルーティーの5人が
位置している
上空では、レッドドラゴンのボケコラと、
竜騎士ストゥーカが、
醜い平べったい飛行モンスターの上に乗る
アジテーター.デーモンのイワノビッチと
戦っている
対する魔王軍は、地上に、魔族の戦士が9体、
ウォーヘッドたちの背後にバジリスクと、
その上空に3体の魔族の竜騎士がいた
前衛では激しい斬り合いが繰り広げられている。
魔族の戦士が持つ曲刀は、
ウォーヘッドたちが持つ、黒っぽい鍛造の武器に
まったく引けを取ることはなかった。
火花を散らしながら、それぞれの刃が
ぶつかりあっていた。
後衛では、前衛に対して補助魔法や回復魔法を
かけているが、背後の竜騎士たちの攻撃が
彼らを邪魔していた。
魔族の竜騎士のクロスボウから次々と矢が放たれ、
それらはなんとか
マリアンヌの魔法のシールドに跳ね返されていた
隙を見たカールソンが放った矢が、
魔族の竜騎士の乗る飛行竜に命中した。
バジリスクの元に落ちていく飛行竜、
信じられないことに、バジリスクは
味方であるはずの飛行竜に向かって触手を伸ばし、
その体を絡め取って
地中に引きずり込んだのだった。
なんとか脱出した魔族の竜騎士が、こちらに
向かって落下してくる
そして、ルーティーによってフルボッコにされた
カールソンが叫んだ
「背後の竜騎士が2体に減ったぞ、
前衛もなんとか持ちこたえてくれ」
前衛の6人は、9体の魔族の戦士と斬り合っていた
彼らの横に、ふいに、
ストゥーカとイワノビッチが落下してきた
ストゥーカの槍を、両手で受け止めながら、
イワノビッチはそのまま背中から
地面に叩きつけられた
しかし、イワノビッチは、槍を離すことなく、
上に乗っかかる形のストゥーカを蹴り飛ばした
槍を失い、吹っ飛ばされるストゥーカ
幸運にもストゥーカは、味方たちの所に転がった
何事もなく立ち上がり、
ストゥーカの槍をグイっと曲げて投げ捨てながら
イワノビッチが言った
「ふむ、人間の竜騎士よ、恥じることはないぞ
並の人間が相手ならば、
デーモン族である吾輩は
その指一本動かすことなく、
魂を抜き取ってしまうことが可能なのだ。
それが出来ぬだけでも、
貴様らは人間の水準をはるかに超えておる。
しかし、越えられぬものは越えられぬのだ
それは種族の壁と言ってもいい
確固たる事実なのだ」
上空では、ボケコラと、
醜い平べったい飛行モンスターが
お互いの首を噛み合いながら、
きりもみ状に世界樹の幹の中に落下していった
イワノビッチが言った
「さて、貴様らは明らかに劣勢であろう
どうだ、降伏せぬか?悪いようにはせぬぞ。
仲間たちが無意味に死んでいくのを
最後のひとりになるまで
眺め続けるつもりなのか?」
しかし、セリスが言った
「最後のひとりは、私たちが倒れていくのを
眺める必要はないわ。
私たちの中で、絶対に欠けてはならないのは
たったひとりだけ、
そのひとりさえ無事ならば
私たち人間は、何度でも立ち上がるでしょう」
マックスはハッとした
「セリス、何を言っている?」
そして、立ち並ぶ幹の間から
ボケコラが凄まじい勢いで突進してきた。
前衛と相対する9体の魔族の戦士の動きが乱れる
ボケコラは彼らに向けて炎を吐いた
そしてそれを合図に、ウォーヘッドたちは
マックスの周囲を円状に取り囲んだのだった。
戦士ティルクと、聖騎士リック、重騎士ドン、
弓騎士カールソン、竜騎士ストゥーカ、
エルフのリリーベル、ドワーフのイルガ、の
7人が円を作って、さらにその内側に、
聖女セリス、魔法使いマリアンヌ、僧侶エリー、
魔法使いルーティー、の4人が、
1人の勇者マックスを取り囲んだ
ルーティーが言った
「マックス、無事に生きのびて再び
人々の元に帰ってくるのであります!
新しい仲間たちとうまくやって
さらに強くなるでありますよ。
これから、テレポーテーションの魔法を
かけるであります!
私たち4人の魔力を結集すれば、かなり遠く、
安全なところに飛ばせると思うであります」
エリーが言った
「救世主のご加護があらんことを...
マックス、あなたは自分では
信心深いとは思ってないでしょうが、
私は、あなたは最高のメシアの前駆者だと
思っております。
願わくば、信仰の道に
安らぎを見出されんことを」
マリアンヌが言った
「私たちは替えが効きますけれど、マックス、
勇者であるあなただけは失うわけには
いかないのですわ。
それに、これはジェネラルもご承知なのよ。
でも、命令だからではなく、
私たちは喜んでやっているということを
理解してくださいませね」
セリスが言った
「マックス、今までありがとう...
あの時、故郷の村で助けられた時から、
いや、ほんとうはずっと前から
あなたは私の勇者だった。
そして、これからも人々の勇者で
有り続けてね、絶対、約束だからね」
前衛で、魔族の戦士の猛攻を受け止めている、
ストゥーカの叫びが聞こえた
「マックス、ボケコラと出会わせてくれて
ほんとうに、ありがとう!
ボケコラと一緒なら、何の悔いもない。
あなたに秘密にしていたジェネラルを
恨まないでね
でも、本当に、みんな、なんの疑問もなく
ジェネラルの秘密の命令を受け止めたのよ、
それじゃあ元気で!」
マックスを囲む4人が手を繋ぎあった
魔力がルーティーの元に集結してゆく
マックスはその時、何を叫んだのか
まったく思い出せなかった
眩い光に飲み込まれ、
身体が浮遊していくような感触だけが、
くっきりと記憶に刻まれていた
そして、直後、バジリスクのすこし隣の
地面から白い手がニョキっと伸びた
まるでゾンビのようにディックソンが地中から
湧き出たのだった。
「ぐああああ、やっとバジリスクの腹を
突き破って地上に生還できたぜ!!!
一体、何日経っているのだ?それとも何年か?
もう時間の感覚すらねえよ」
...そう、バジリスクは二体いたのだ
ディックソンを飲み込んだバジリスクは、
腹を壊して地中で寝込んでいたため、
ウォーヘッドたちを襲ったのは
一体だけだったのだ!




