夜
夕暮れ時も過ぎて、空は
薄暗くなってきている。
魔法で生み出した柔らかな光が
男たちの肉体を照らしていた。
チームブラボーは、戦いが終わった沼地において
割と水が綺麗な場所を見つけ、男たちが水浴び
をしていた。
さすがにBANされる危険性があるので全裸では
ないのだが、短パンに上半身裸の男たちの
肉体は美しい。
チームアルファから即座に駆けつけてくれた
戦士ティルクも混ざっている。
竜騎士ストゥーカは、一人、離れた場所で
腰を落ち着かせ、その光景をぼんやりと眺めていた
「こちら本部、どうやらそちらでは
男たちがイチャついてるみたいだな、
困ったもんだな、まあ、勝利の喜びに
水を差すような無粋なことはすまいが」
本部から、将軍の通信が入った。
ストゥーカはいやいや返答する
「こちらチームブラボー、お察しのとおり、
自分を除いた全員と、アルファからの
客人が水の中ではしゃいでおります。
今回の待ち伏せは、沼地とそこに
住むスワンプドラゴンを用いた
ローカルトラップということで、
自分を除いた全員と、アルファからの
客人がすっかりと気を緩めておりますが
自分は警戒を怠っておりません!
以上」
ゴツゴツした鎧を脱ぐこともなく、
長い赤毛を後ろで結んでたなびかせた
女騎士は、うんざりしたような表情で
再び男たちの戯れを見物した
「おい、見ろよ、この傷はな
レッドドラゴンの爪で抉られた傷だ、
触ってみるか小僧」
チームアルファの戦士ティルクは
下半身を下向きに走る大きな傷跡を誇示しながら
若き弓騎士カールソンに言った
「え?いいんすか、じゃあ遠慮なく
触らせていだだきまーす」
つまはじきものにされたストゥーカは
大きくため息をつきながら
そんな光景をただ眺めているばかりだった。
彼女の上空では、一羽の小鳥が旋回していた
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チームアルファは、確保した村において、
歓待を受けていた。
アホみたいに豪華な料理が並ぶ中、
勇者マックスは、魔法使いマリアンヌの
魔法を浴びながら、
翼を羽ばたかせるような動作をしていた。
そして、独り言をつぶやいていた
「ブラボーの連中、また、ストゥーカを
放って、イチャついてやがるぜ!
うちのティルクも喜び勇んで参加してやがる。
いっそのこと、ストゥーカとティルクを
交換してくれねーかな」
聖女セリスと魔法使いマリアンヌの表情は
微妙だった。
聖女セリスは真面目くさって言った
「ストゥーカは竜騎士だから、
騎士たちのパーティーである
ブラボーに居るべきよ。
それに、彼女のクールさは
あのチームには必要不可欠なのよ
もしもあなたの言うとおり、
ストゥーカが抜けてティルクが
入ってしまったらどうなると思う?
まるで、神話で語られる全ての者が
幸福に満ちていた春の時代のように、
男たちが全裸になって無邪気に戯れる、
神の楽園のごとき
光景を見ることになるでしょうね」
魔法使いマリアンヌは全身をブルブル震わせた
「想像したくない光景ですわね、
ブラボーの男どもや、ティルクだって昔は
ああじゃなかったですのに...
ストゥーカみたいなクールな美人が
パーティー内にいて、なんでああなって
しまうのかしらね、
ティルクの馬鹿に至っては私たち二人が
居ながら...」
それは誰にも分からないことだった....
ようやく、勇者マックスは料理と
村長のほうを向いた。
村長はにっこりと笑って言った
「まことにご苦労さまです、王国に属しておらぬ
辺境の民である我々ですらもお守り頂けるとは
感謝感激でございます。
心ばかりのお礼でございます、
ごゆるりと料理をご堪能くだされ」
金髪碧眼のさわやかな勇者は頭を少し下げると
言った
「我々、ウォーヘッドは人間種族全てを
守護するために、神々から賜った恩恵を
数多く発現させているのです。
この際、王国だの辺境だの関係ありません
それはそうと、我々の人数としては
少々、豪勢すぎる料理ですね、
あなたたちの村に、傷ついて弱っている
人たちはいませんか?
その人たちにこちらの料理を分けてあげて
ください。それと、こちらのデザートは
子供たちに」
勇者マックスは、さっきから窓越しに
村長の家の中を覗き込んでいる子供達に向けて
ウインクしてみせた。
勇者マックスの隣りでは、聖女セリスが
微笑んでいた。
二人は顔を見合わせると、お互い
同じことを思い出していた。
.........それは、二人が
ウォーヘッドとなった日のことだ......
ロックフォール公の領地内にある小さな村、
二人はそこで生まれた。
そして、マックスが14歳、セリスが12歳の
ある日のこと、
「おじさんに歯向かったらダメだよ、
これから納屋に行って、しっかりと
そのことを身体で覚えてもらうよ、
逃げられないよ、これから
納屋に行くんだよ、歯向かうとダメなんだよ
おじさんは代官だよ、だからこれから
納屋に行って、そのことをしっかりと
覚えてもらうよ、おじさんに歯向かえない
よ、これから納屋でそのことを知ってもらう
からね、おじさんは代官なんだよ
歯向かったらダメだってことをこれから
納屋に行って身体で覚えてもらうよ」
小太りのちょび髭の役人が、
セリスに詰め寄っていた。
12歳のセリスは必死で抵抗した
「オラ、おじさんにぶつかっちまったけど
ちゃんと謝っただよ、だから許してくんろ、
はやく帰んねえとおっかあが心配するだ、
この薪をはやくもってかねえといけねえだよ」
セリスは、地面に散らばった薪を拾おうと
身体をかがめた。しかし、代官はその肩を
掴むと、無理やり立たせた
「許さないよ、おじさんは代官なんだよ、
ぶつかって痛かったよ、だから
今から納屋に行って、しっかりと
反省してもらうからね、歯向かったらダメだよ、
逃げられないよ、そのことを納屋で
しっかりと知ってもらうよ、今から
納屋に行くんだよ、おじさんと納屋に
行くんだよ」
代官は額に一筋の汗を流しながら、セリスにさらに
詰め寄った。
黒髪を後ろで無造作に束ねた少女の緑色の
瞳には恐怖の色が浮かんでいた。