飲み会
村長の肩を抱いて、大声で怒鳴り散らしながら
食料庫から出てきたのは
エルフのリリーベルだった
「おっさん、何、こんなにいい酒を
隠しとんねん!
今日こそ、ワシラと楽しまんかい、
近隣がすっかり一掃されてもうて
もう、敵もおらんやさかいに、
ケチケチせんと景気よく
パーとやったろうやないか!!」
村長のハゲ頭を自分の胸に
押し付けるように引き寄せ、
片手で年代物のワインの樽を抱えていた
人間たちには理解不能のエルフ語で
がなり立てるリリーベルは、
傍目から見たら酔っ払ったチンピラだ
村の広場には村人たちとウォーヘッドたちが
集結しており、巨大な焚き火を中心に、
ドンちゃん騒ぎのまっただ中だった。
夜中にも関わらず、
子供たちも大勢参加していた
酒樽と村長を両手に抱えたリリーベルの勇姿に
戦士ティルクが歓声をあげる
村人たちですら、秘蔵の名酒を見て
歓声をあげた
「いいぞ、リリーベル、さすがエルフ、
旨い酒を嗅ぎ分ける能力はピカイチだぜ」
僧侶エリーが顔をしかめた
「まるで、山賊の略奪です!
ウォーヘッドがこのような行いを
するなんて、なんと恥ずかしい!
普段は、不信心者とは言え、
落ち着いて品行方正なあなたが、
なんで、酒が絡むとこうも
性格が変わるのですか!」
兜を脱いだ聖騎士リックは、
銀髪に青い目のイケメンなのだが、
普段は眉間に皺のあるカタブツな表情だった。
しかし、今や眉間の皺は消えて、
その顔には満面の笑みを浮かべており、
見た感じ、ノリの良さそうな普通のにーちゃんだ
「いいではないですか、エルフ族というのは
本来は、酒と歌と踊りが大好物の陽気な種族。
命懸けで戦い、仲間の死を悲しんだ後は、
気晴らしをする必要もあるのですよ」
聖騎士リックは、切り替えができる性格なのだ
酔っ払った村人たちが、
巨大なビールの樽の上部をハンマーで叩いて壊し、
その樽を数人がかりで
ボケコラの開いた口の中に押し込んでいた
巨大な口の中に、巨大なビール樽を咥えた
レッドドラゴンは、長い首を持ち上げ、
クイッと頭を上向きにした。
ビールが樽の中から一気に流れ落ち、
ボケコラの長い喉を長く潤し
長い喉ごしのすっきりさを実現させた。
今まで村人たちが見たこともないであろう
究極の飲みっぷりに、
割れんばかりの拍手が鳴り響く
ボケコラの背中や尻尾の上に、
大勢の子供たちがまたがっており、
竜騎士ストゥーカが側について監視していた。
勇者マックスは、一人、ワインを飲みながら、
そんな光景をぼんやりと見ていた
「俺のまったく理解できない次元で、
色々なことが起こっている
キオミが言っていた。
あっちの世界からこの世界に来るのは
容易になってしまったと..
マナがどうこういう話は、
俺には理解できなかったが
とにかく、あの昆虫のようなとんでもない
モンスターがさらにどんどんと
こちらに来られたんじゃあ
ウォーヘッドであろうと手に余る
あっちの世界の連中も、それに関しては
対処してくれているらしいが」
隣に座っている聖女セリスが答えた
「ハイエルフのほとんどと、神人、
ヴァンパイア.ロード、そして魔人や
魔族の上位種族、デーモン族、
とてつもなく強力な種族が
あっちの世界にいると
伝えられているわね。
そういった強力な知的種族たちが
あっちの世界でどういう社会を
作っているのかは知らないけど、
少なくともハイエルフたちは
なんとかしようとしてくれているみたい
ねえ、マックス、
あのハイエルフのキオミは
なんか言ってなかったの?」
マックスが言った
「ああ、キオミはこの世界の出身で、
まだ若く、あっちの世界については
あまり知らないらしい...
もしも知っていたとしても俺たちには
話さなかったのかもしれない。
あっちの世界出身のディックソンとは
意思の疎通ができなかったしな。
どのみち彼は、この世界の者たちに
あまり関わりたくないような感じだった
その割には、リックが攻撃されたときに
意味不明に激昂していたがな」
セリスが言った
「ええ、一体、あんたはリックの何なんだ?
と、心の中で突っ込んでしまったわ...」
座り込む村長のハゲ頭を、リリーベルが
馴れ馴れしく撫でている
ティルクとドンとリックとカールソンが、
秘蔵の酒をガブ飲みしている
目の前に並べられた料理と酒を、無限の胃袋に
どんどんと放り込んでいるイルガを、
エリーが呆れた目で眺めていた。
ふと、マックスとセリスのところに、上機嫌の
魔法使いルーティーがやってきた
「ちょっとちょっと、何を二人でコソコソと
真面目そうな話をしているでありますか!
今夜だけはややこしいことは忘れて
頭を空にして楽しむであります!
ジェネラルもそう命令したでありますよ」
茶色のふんわりとした長髪の、
年少で小柄な魔法使いは、セリスにとって、
マックスの妹キャラポジションを脅かす存在だ
密かに目つきを鋭くするセリスを横目に、
ルーティーは馴れ馴れしくマックスのすぐ隣に
座った
マックスは顔をしかめた
「うわ、酒臭っ!!ルーティー、君はまだ
おこちゃまだろう、こんなに
酔っ払ってしまってまったく!」
ルーティーの大きな目の、茶色の瞳は
酔いでトローンとしていた
「ええ~、マックスだって自分を
おこちゃま扱いできるほど
年長者でもないでありますよ!
自分の故郷では、赤ん坊は
ワインボトルを持って
生まれてくると言われております
全員が飲兵衛なのであります」
ルーティーの故郷は、ルーンの内海の
ど真ん中の半島に位置している。
要するに、人間たちの王国に囲まれ、
平和そのものの小国だった。
マックスは思った
(でも、ルーティーは、セリスと同じく、
ほんの小さい頃にウォーヘッドとなって
訓練所に入れられた。
本来は無邪気に野原で遊んでいる年頃に、
厳しい訓練に明け暮れていたんだ)
そのおかげか、ルーティーの口調はその
可愛らしい外見に似合わず、ガチガチの
軍人口調になってしまっていた
もしかしたら、早くに家族と離れ離れにされて
家族愛に飢えているのかもしれない
マックスは、ルーティーのふんわりとした
茶色の髪の上に手を置いて、ナデナデした
まんざらでもなさそうなルーティーの顔を
見て、セリスは口をヘの字に曲げていたのだった
そんな、三人の姿を、後ろからマリアンヌが
無言で眺めていた