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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
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鎮魂歌

顔面を血だらけにした指揮官の隣で、

魔族の魔術師の女性はビビっていた。


しかし、マックスは、地面にヘタりこんでいる

その女性の側に膝をかがめて座り込んだ


世界樹の繊維で作られた小さな袋から

カラフルな色の飴を取り出すと、

その女性に差し出して言った



「君の横のドアホのように、

 人を舐めた態度でも取らない限りは、

 君に指一本でも危害を加えるつもりはないよ

 どうか、君のことについて話してもらいたい」



魔族の女性は、マックスの手から

飴を受け取ると、口の中に入れた。

モグモグとしているその頬に、マックスは

治癒魔法をかけてあげた


みるみると、頬の腫れが引いていく


ちなみに、ウォーヘッドたちは、

基本的な治癒魔法や身体強化魔法を

全員が使える

デフォルトの装備みたいなものだ


長じるにつれて、それぞれが

専門的に特化していくのだ


女性は口を開いた



「わ、私はギニエルと申します、

 ダーグバード出身、

 第五界位の魔術師です...

 一族の名誉に誓って、

 協定に定められた以上の略奪や

 残虐な行為はやっておりません...

 私にとって自らの腕を磨くことのみが

 喜びであるが故。


 魔王様に直接お会いできるような

 身分でもないので、

 お役に立てるような情報はほとんど

 持っておりません」



頬に飴を含んだまま、女性はおずおずと

自己紹介をした


マックスは言った



「ああ、信じるよ、君も俺たちと同じ

 戦争の為の道具に過ぎないんだね

 いや、俺はこの戦争によって

 未来のない貧しい村人から、選ばれし者

 になった...

恩恵を受けたのさ、戦争の恩恵を...」



村人たちの監視の元、捕虜たちが、倒れた

モンスターの死体を運んでいる。


数体のバイティングドラゴンは、昨夜の

スワンプドラゴンと共に、村にとって

有難い食料となるであろう


ウォーヘッドたちは、村人たちが持ってきた

水や食べ物を受け取って、一息ついていた


マックスは、柑橘類を漬けてある清涼飲料を

村人から受け取って喉を潤した

もう一本、村人から受け取ると、ギニエルにも

渡した。



//////////////////////////////////////////////



D集団のウォーヘッドのチームが現れ、

魔族の二人の捕虜を受け取って、帰っていった。


そして本部のジェネラルの念話で皆は知らされた



「諸君、残念な知らせだ。B集団とC集団の

 ウォーヘッドから一人づつ犠牲が出てしまった

 スピンとレフラーだ...

皆、二人の冥福を祈ろう」



戦士ティルクは、肩にグレートソードを

抱えたまま座り込んだ。


僧侶エリーは、聖騎士リックと重騎士ドンと共に

救世主メシアに祈りを捧げた。



「メシアよ、いずれあなたの元に、忠実なる

 二人の下僕しもべが召されます

 永遠の安らぎを彼らに与え給え

 やがて訪れる終末の日に

 光り輝く天上にて彼らと再会できることを

 祈りましょう」



祈りの輪に、弓騎士カールソンと聖女セリスと

魔法使いマリアンヌと、魔法使いルーティーと

竜騎士ストゥーカと勇者マックスが加わった。


ドワーフのイルガと、エルフのリリーベルは、

それぞれのやり方で戦死者を弔った。



そんな光景を、二人のハイエルフが

離れて眺めていた


肩の辺りでバッサリと切った柔らかに輝く金髪を、

そよ風に靡かせながら、キオミがつぶやいた



「あの人たち、心から強くなりたいと

 願っているわ

 いえ、強くならなければいけない、

 仲間たちの為に、守るべき人々の為にね」



櫛で、七三分けにした金髪を梳かしながら

ディックソンが答えた



「君は、そして、彼らもおそらくは俺のことを

 とてつもなく強いと思っているのだろう?

 でもな、大きな力を持つ者は、

 さらに大きな力によって潰されるのが世の常だ

 あっちの世界で俺は腐るほど見てきたよ

 

 でも、本当に最強の力を得た人たちを俺は

 知っている

  

 一人は俺の大切な友人だ、もはや崇拝に

 近いほど、俺は彼女を大切に思っている

 その人は、真に最強の力を得ながらも、

 自らの意思でその力を手放した。

 

 もう一人は、その力を自分の為にではなく

 世界の為に使うことに成功した

 

 自分だけが強くなることで、何かを成そうと

 することには、常に危険が伴うのさ。

 もしも、彼らがそのことを

 知っているのならば、彼らは俺なんて

 足元にも及ばないくらい強いはずだ。


 それに気がついていないだけさ」



初夏の柔らかい日差しの元、黄金色に染まる

麦畑が波のようにその頭を揺らしていた


風に乗って、ウォーヘッドたちの奏でる

鎮魂歌の美しい響きが聞こえてくる


村人たちは、その歌声を聞いて、

立ち上がって頭を低く下げて黙祷したのだった。



/////////////////////////////////////////



村の外れの移転魔法陣の側で、

マックスは二人のハイエルフを見送っていた


キオミが言った



「この移転魔法陣は、私たちが去ったあとで

 消滅するね、あなたたちは

 自力で私たちの故郷にたどり着くべし

 その時には君も、もっと強く

 さらに凛々しく男前になっていること願う

 私が持っている甘草飴を全部あげるよ、

 故郷に来たら、ミトの店に売ってるから

 買ってね」



ディックソンは白々しい眩しいばかりの

作り笑いを浮かべていた



「アリガトサンネ、ソレデハ、サヨウナラ」



マックスは、キオミから大量の袋を

受け取りながら言った



「ああ、きっと君たちの故郷である  

 世界樹の森にたどり着くよ

 その時に、君の実家の飴屋にも寄るからね

 是非とも君たちをジェネラルに会わせたい

 ところだが、そうなると

 ややこしくなって君らはしばらく

 帰れなくなるだろうから仕方ないね

 複雑な話は正規のルートで頼むよ

 それじゃあ、さようなら、また会おう」



キオミは、金貨の詰まった袋を

高く掲げた


マックスから謝礼として受け取ったものだ


おそらくは彼らが来なかったら、A集団も

戦死者を出していたかもしれない

当然の金額だった。



そのままの格好で、キオミは光の中に

消えていった

ディックソンも消えていった


 

 

 

 

 


 

 




 

 

 

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