迎撃2
目の前の森の中から、有象無象の
モンスターどもが現れた
まるで溢れ出す水のように次々と木々の間から
湧き出してくる
一直線に並んだウォーヘッドとハイエルフたち
チームチャーリーのドワーフのイルガは
巨大な戦斧を構えている。
僧侶のエリーは、鉄杖の先端の
メシア教のシンボルの星を前方に掲げて、
敵たちにブツブツと呪詛の言葉を投げかけている
魔法使いルーティーは、杖をクルクルと
器用に振り回してやる気を出そうとしている
エルフのリリーベルは、二本の曲刀を
クロスして、低い姿勢で構えている
ハイエルフのディックソンは、目の前の敵に
動じることなく、両手を腰に当てて
直立不動で待ち構えている
ハイエルフのキオミは、クレイモアを
両手で持って舌なめずりしている
チームアルファの勇者マックスは、
ブロードソードを目の前で数回振って
ウォーミングアップしている
聖女セリスは、ショートソードを構えている
魔法使いマリアンヌは、杖を構えて
呪文を詠唱している
戦士ティルクは、グレートソードを
肩に担いで前方を睨みつけている
チームブラボーの竜騎士ストゥーカは、
レッドドラゴンのボケコラの上に乗って
姿勢を低くしている
弓騎士カールソンは馬上で弓を取り出し
矢を番えている
重騎士ドンは馬上でランスを構えている
彼の馬は、前足で地面を蹴って
いきり立っている
聖騎士リックは、馬上でロングソードを
持った手を胸のところに持って行って、
目前にまっすぐに立った剣を望む格好で、
メシアに祈りを捧げている
マックスの目の前に、コボルトと呼ばれる
無毛の犬のような人型の醜いモンスターが
迫ってきた
他のモンスターたちに先駆けて一匹だけ
先行してマックスに向かってくる
そして、何を考えているのか、コボルトは
マックスの目の前で飛び上がると、
空中で回転しながらこちらに向かってきた
スピードスケートの回転ジャンプかよ!!
「生涯をかけたギャグでもかましているのか?
それともヤケクソなのか?」
なんとなく殺意を削がれたマックスの剣が
その腹で、回転しているコボルトの頭を殴った
そのまま勢いよくコボルトは
地面に叩きつけられ気絶してしまった
そして、それを合図に、
目の前の木々の隙間から
数本もの矢がこちらに放たれた
ウォーヘッドたちにとって、コブリンのような
低級モンスターの放つ矢なぞ、脅威ではない
矢の気配を感じたウォーヘッドたちは
安々と矢をかわした。
ディックソンだけが、目の前に飛んできた矢を
素手で掴んだ
そして、そのまま正確に、飛んできた方向に
矢を投げ返す
木々の隙間から悲鳴が聞こえ、
弓を持ったゴブリンが前のめりに倒れた
巨大なオーガ数匹を先頭に
こちらに突っ込んでくるゴブリン軍団
オーガは、2メートルを超える身長に、
先端が尖った容量の小さい頭蓋を持つ
人食い鬼だ
腰ミノを巻いただけの筋骨隆々の肉体と
手には、凶悪なメイスを持っていた
そのメイスの先端は、長いトゲが数本伸びた
丸い金属だった。
キオミが言った
「ディックソン、あなたは
あのオーガを頼むわよ
私は雑魚を片付けるからね」
ディックソンの返事を待つことなく、オーガが
彼に向かってメイスを振り下ろした
しかし、ディックソンはオーガの手から
スポンッとメイスを取り上げた。
何が起こったのかわからず、何も持たない
両手を空虚に振り下ろすオーガ
ディックソンはそのまま、
オーガの頭頂に向けてメイスを振り下ろし、
その先端をめり込ませた。
脳天を長い金属のトゲに貫かれたまま、
オーガは何が起こったのか知ることもなく
フラフラと後ろ向きに倒れ、絶命したのだった
エルフ語で、リリーベルが驚嘆の声をあげた
「ほんまけったいな御仁やで~
オーガが瞬殺されるの、はじめてみたわ
そら、あんたには戦闘スキルだの技だの
必要あれへんがなしかし」
続いて、人間の共通語でチームチャーリーの
仲間たちに言った
「皆、大物はディックソンに任せよう、
私たちは雑魚どもをなぎ払う!
ルーティー、腰が引けてる、
あなたは強い、頑張れ!!
イルガは前に出過ぎ、抑える!
エリーはブツブツうるさい、
お祈りしながら戦わない!!」
リリーベルの激励に、チームチャーリーの
3人のメンバーが答えた
「ウーラー!!」
勇者マックスの横で、頭にメイスをめり込ませた
オーガーがヨロヨロと後ろ向きに倒れた
しかし、もう一体のオーガが、
マックスの目前にいた。
振り下ろされたメイスを
黒っぽいブロードソードで受け止める
マックスの足が、地面にめり込むほどの衝撃、
しかし、マックスはそのまま高速で
筋骨隆々の胴体を剣でなぎ払いながら
オーガーの横を通り過ぎた
真っ黒な血を胴体から吹き出しながらも、
オーガーは振り向いて、
再びメイスを振り下ろしてきた
マックスはひょいっと飛び退いてメイスを避けた。
トゲの生えた鉄球が地面に深々とめり込んだ
「くっ、こんなに力が強くしぶとい鬼を
一瞬で倒せるなんてな!
なんか意味不明の強さだなあのハイエルフは」
オーガーは地面にめり込んだメイスを
持ち上げようとしたが、
横からニョキッと出てきた手が
そのメイスを奪った
マックスの目に、まさにオーガーの頭頂に
メイスを打ち込むディックソンの姿が
映ったのだった
「デタラメすぎるだろ!」
まったく同じ方法で、二体ものオーガを瞬殺した
ディックソンに、ツッコミを入れるしかない
マックスだった。
魔法使いマリアンヌの爆裂魔法が炸裂し、
チームアルファの目の前のゴブリンたちが
一斉に吹き飛んだ
マックスはちらりと横を向いて戦況を見てみた
チームチャーリーの女性たちが、ゴブリンを
次々と葬っている
ハイエルフのキオミは、巨大なクレイモアを
横一文字に振りかぶって、数体のゴブリンを
一度に倒していた
ディックソンは、なぜか、膝をついた姿勢で
一体のゴブリンと首を絞め合っていた
「お前をヤらないと俺がヤられる
分かるな?
じっとしてろ、楽に死ねる...」
首を絞められて、苦悩の表情を浮かべながら
ディックソンは、エルフ語でブツブツ言いながら
ゴブリンの首を絞める手に力を込めた
首を絞められたゴブリンは、白目を剥いて
悶絶してしまった。
ディックソンの首を絞めたゴブリンの手が
力なく垂れ下がり、そのまま地面にドサリと
崩れ落ちた
しばらく、倒れたゴブリンに覆いかぶさるように
四つん這いになってハアハアと肩で息をしていた
ディックソンは、ふいに立ち上がると
叫んだ
「なぜだ、なぜ戦うんだ!知らない者同士で
なぜ殺し合う!!!なぜなんだ」
戦場のど真ん中で、立ち上がって天を仰ぐように
絶叫するディックソン
「もう、彼にツッコむのはやめておこう」
マックスは諦めの境地に至っていた




