ハイエルフ
マックスの頭の中に、本部からの念話が届いた
「チームアルファ、聞こえているか?
現状報告を求む、繰り返す、現状報告をせよ」
マックスは、片手を口元に持っていくと答えた
「こちら、チームアルファ、魔王軍の昆虫5匹を
3名のハイエルフが捕獲して無力化した
彼らのうちの2名がこちらに一時的に協力
してくれるそうだ、戦闘を続行する、以上」
口をモゴモゴさせている6人の前方には、
移転魔法陣で次々と昆虫たちをどこかに
移転させているハイエルフがいた
やがて、5匹の昆虫を全て移転させると、
ハイエルフは手を振りながら、自らも
移転魔法陣の中に入って消えてしまった。
マックスは振り返って左右を見た
「チームチャーリーが2つに分かれて、それぞれに
チームブラボーのストゥーカとボケコラが
支援をしているな、よし、俺とティルクで
加勢してやろう、セリスとマリアンヌは、
ハイエルフの二人と一緒に前方を警戒してくれ」
こうして、マックスとティルクは二手に分かれて
バーサーカーたちの迎撃に向かった
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甘草を煮詰めて作った飴は、口の中でゆっくりと
溶け、口内に心地よい苦味と、
スースーした清涼感が長く持続する。
そして、しばらくしたら優しい甘さが滲み出て
苦味をほどよく中和してくれる
フィニッシュに近づくにつれ、苦味は無くなり
口内を癒しの甘さが支配してくるのだ
「フルーツフレーバーを加えてしまったら
甘草の良さを相殺してしまうよね
本来は、時間経過によって刻々と変わる
味覚を楽しむもののはずなのに、
こうしてミーハーな観光客向けの商品を
開発してしまった。
でも、そちらのほうが売れるなんて、心外だわ」
地上界出身のハイエルフ、キオミは独り言のように
ブツブツとつぶやいた
そんなキオミを、ディックソンは横目で見ながら
言った
「俺の妻も同じことを言ってたよ、
でも彼女にとって甘草飴は、
地上界での貧乏だった頃を
思い出してしまうものらしい
まあ、俺たちの世界と繋がる前は、
地上界のハイエルフたちは爪に火を灯して
細々と暮らしていたからな」
キオミは言った
「ディックソン、私は、孤立して貧しかった頃を
知らない若い世代、
でも、あなたの奥さんのおかげで、
あっちの世界と容易に
行き来できるようになって、
確かに私たちは貧乏ではなくなった。
しかし、甘草飴は地上界のハイエルフたちの
ソウルフードなのよ、
彼らは全員がミトの店の甘草飴を
食べて育つのよ」
ディックソンが言った
「ああ、キオミ、そういえば君は
ミトの娘だったな。
だからといって、出会う者たちに見境なく
飴を宣伝して回るのはやめてくれ」
キオミは舌をペロリと出して答えた
「いつか、ここの彼らも世界樹の森に
たどり着くことでしょう、
その時にミトの甘草飴を大量に
購入してくれるに違いないわ
あちらのお嬢さんは、オリジナルのほうの
良さをちゃんと分かってくれてるみたいだし
甘草飴信者を獲得ね」
マリアンヌは、キオミの視線を感じて
バツが悪そうにモジモジした
さっきから、こちらには理解不能な言葉で
話し合っている二人のハイエルフを、
マリアンヌとセリスは少し警戒しながら
見ていたのだ
マリアンヌは小声で隣のセリスに言った
「一体、何をしゃべっているのかしら?
私たちウォーヘッドのことを分析している
のかもしれませんわね
でも、あの大柄なハイエルフのお方の戦い方
ご覧になったでしょう、
私たちとはまったく異質の強さを感じましたわ」
セリスも小声で答えた
「リリーベルが話すエルフ語だと思うけど、
ちょっと違う感じもするわ
そうね、確かに、戦闘に特化した
恩恵を発現させた私たちウォーヘッドは、
彼らにとっても興味深いでしょうね
そして、あの、ゴリ押しな、やけくそなやり方は
確かに異質な強さね」
ふいに、キオミが会話に入ってきた
「彼は、ハイエルフの中でも
変質者のカテゴリーに入る、
一般のハイエルフとは違う
私たちはさすがに火の中には入らないし
背中を刺されて平気ではないね
君たちのほうが戦闘のスキルは優れている
と思うよ」
地獄耳なハイエルフに対して苦笑いを浮かべる
二人だった
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レッドドラゴンの鋭い尻尾の先端が
一体のバーサーカーの身体を貫いた
同時に、マックスの剣が、その頭部を一刀のもとに
撥ねた
「ふう、これで最後だな
ようやくバーサーカーを片付けたか
それにしても、ドラゴンって全身が武器だよな
心強いぜ」
ボケコラが言った
「うむ、我の力にいたく感心しておるようだな
あの時、実は我にその力を試されていた
戦いに勝利を収め、
我を仲間に加えることを選んだお主の判断は
間違っていなかったことが証明されただろう」
マックスが答えた
「うん、俺たちの出会いがどんどん美化されて
捏造されていくね
どうせ、俺たちの力を計るためにわざと負けた
ことになってるんだろ?
まあ、別にそっちが満足なら
俺たちは否定しないぞ」
最近になってキャラを作り始めた
レッドドラゴンに
調子を合わせてあげているマックスだった。
やがて、チームブラボーの騎馬連中が
到着したのだった。
僧侶エリーが前に進み出てきて、鉄杖の先の
メシア教のシンボルの星を高く掲げて言った
「メシアの前駆者たちよ、よくぞ参られました
その厚き信仰心に恥じぬ戦いを期待します
メシアもやがてご覧になられるのですから」
聖騎士のリックと、重騎士のドンが、それぞれの
馬から降りて、エリーの前に跪いた
「救世主の御心のままに」
白く光り輝く甲冑に全身を包んだ二人の騎士と
僧侶が、メシアに祈りを捧げている風景を
馬上の弓騎士カールソンが
ソワソワして見つめていた




