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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
20/114

甘草飴

燃え盛る炎の壁がようやく消えていき、

2匹の昆虫は、丸まった姿勢を解いた



「あっ」



チームアルファの面々は、つい、

小さく叫んでしまった

2匹の昆虫が、目の前の外人に向かって

攻撃を仕掛けてきたからだ


しかし、外人は、目の前の昆虫の

大きく振り上げられた鎌を両手で掴むと、

そのままぐいっと簡単にひねりあげた。


昆虫の巨体がひっくり返った。



しかし、無防備な外人の背中に向けて、

もう一匹のほうの鎌が振り下ろされた


ウォーヘッド用に特別に鍛造された剣すらも

受け止めるその鎌が、

少し焼け焦げた茶と緑色のマントに

突き刺さった


チームアルファの面々は誰もが思った



...やられたと



しかし、様子がおかしい


外人は、彼らに理解できない言葉で

悪態をつきながらも、

鎌を背中に突き刺されたまま、黙々と、

地面に転がった昆虫を

銀色のワイヤーで縛っている


結局、2匹とも、外人によって縛られ、

そのままひょいっと放り投げられた。


ことが終わり、外人は、直立不動で

チームアルファのほうを向いた。


彼の後ろでは、

同じく茶色と緑色のマントを羽織り、

フードを深々と被った二人が、

5匹の縛られた昆虫たちを一箇所に集めていた



外人は深々とフードをかぶっていて、

口元しか見えない


その口元には、

爽やかな笑いえくぼができており、

白く綺麗に並んだ歯がキラリと光った


眩しいほど白々しい作り笑いを浮かべ、

片手をあげて、手のひらをこちらに向けて言った



「アリガトサンネ~、ソレデハ、サヨウナラ」



外人は背が高かった。横幅は及ばないものの、

おそらくは戦士ティルクと同じくらいだろう。


少し血が滲んだ背中を向けて、

立ち去ろうとする外人に向かって、

チームアルファの4人の声がハモった



「ちょっと、待って!!!」



外人は背を向けたまま言った



「ワタシ、コトバ、ワカラナイ、サヨウナラ」



そのまま足早に去ろうとする


ティルクはグレートソードを両手で構えて

言った



「待ちな、一体、お前さんたちは何者だ?

 勝手に俺たちの獲物をぶん取りやがって

 クソ、一体、なんなんだよ」



セリスとマリアンヌも、ティルクに釣られて

攻撃姿勢を取った


マックスは、息を飲んで立ちすくんでいた


外人は、振り向くと、大げさな動作で

肩をすくめた。

4人には理解不能な言葉で、何やら

ブツブツと言っている


外人の背後で、昆虫たちをまとめていた

二人のうちの、小柄なほうが

急いでこちらに駆け寄ってきて言った



「私たちとあなた方は、敵と違う。

 戦う理由ない、この昆虫は、訳あって

 私たちが貰う、そして、速やかに

 私たちは去る、だから、武器を

 向けないで」



かなりたどたどしいが、ルーン周辺から東方に

かけて広範囲で使われる共通語だ


ティルクとほぼ同じ背丈の大柄な二人のほう

と比べると、こちらは、小柄で、そして

やはり声からして女性らしかった


マックスは言った

敵意がないことを示すために、剣を地面に向ける



「しばらくしたら、刈り取り部隊と思われる

 魔王の部隊がこちらに到着するぞ、

 当然、昆虫たちを取り返そうとするだろう

 

 昆虫たちを生け捕りにしたってことは

 君らも魔王軍と敵対しているってことだ

 だから、俺たちと一緒に戦わないか?」



並びあった小柄なほうと大柄なほうが

小声で何やら話し合っている

そして、小柄なほうが言った



「いいでしょう、移転魔法陣で

 私たち撤退することができる、

 でも、降りかけた船

 この村を救うために、協力するね」



マックスは少し笑うと言った



「それを言うなら乗り掛かった船だ

 協力してくれるなら感謝する」



小柄な女性のほうの外人が、マックスのほうに

歩んできた

フードを深々と被っていて顔は見えないが、

その口元は形の良い唇が笑みを作っている。

かなり美人そうだった



マックスの目の前に来たその女性は、

マントの内側からゴソゴソと

何やら黒っぽい飴のようなものを

取り出し、自分の口の中に入れた。

そして、モグモグと噛みながら、もう一つ

取り出して、マックスのほうに差し出して言った



「あっちの1人は、移転魔法陣で

 昆虫たちを運びだすから

 私たち2人が、あなた方に協力する

 この飴、旨いから食ってみ」



マックスは恐る恐る、その飴を受け取ると

ひょいっと口の中に入れた



「あ、ありがとう、無力な村の人たちを

 守ってあげよう、って、マズっ!!!」



マックスは、あまりもの不味さに、口の中の

飴を吐き出してしまった


隣の大柄な外人が笑っている


ティルクは剣を下ろすと、こちらにも

くれとジェスチャーをした



女性は、結局、ティルクとセリスとマリアンヌに

飴を渡した


ティルクとセリスは吐き出してしまったが、

マリアンヌは口をモグモグさせながら

言った



「この飴、もしかして東方に生育する甘草を

 煮詰めて作ったものではないかしら?

 濃い目のお茶と一緒なら食べられないほど

 不味いものではないわよ」



彼らの後ろでは、チームチャーリーと

チームブラボーのボケコラとストゥーカが

バーサーカー相手に死闘を繰り広げていた


そして、前方では、もうひとりの大柄なほうの

外人が、黙々と昆虫たちを移転魔法陣に

運んでいたのだった



外人の女性は、マントの内側から小さな袋を

取り出してこちらに見せた


マックスはまじまじとその袋を見つめる


口を細い紐で縛った、麻袋のようだ

袋の表面に、何やら陽気な感じの絵が描かれている

いくつかの果物っぽいものに、顔がついており

その顔は目と口が誇張して描かれていた



女性は言った



「お嬢さんの言うとおりだよ、よく知ってるね

 この飴は賛否両論あるから

 苦手な人のために、フルーツフレーバーを

 加えた商品も開発された。

 いわゆるお土産用だね、あんたにあげる。

 これならイケるだろ?」



マックスは袋を受け取ると、口を縛っていた

紐を解いて中身を観察した


様々な色彩の飴が見える。


ふと隣を見ると、セリスが大柄な外人の背中に

治癒魔法をかけてあげていた


外人はニヤリと笑うと、セリスの長い黒髪の上に

ぽんと手を置いてナデナデした

セリスが一瞬、ピクリと身体を震わせた



「アリガトウゴザイマス」



「どういたしまして...」



マックスは、袋の中から、赤い飴を

取り出して口の中に入れた


最初の黒っぽいのと違って、

独特の苦味っぽさが抑えられていて、

スースーするような清涼感そのままに

ベリーのような甘い風味が追加されている


今度は吐き出さずに口をモグモグさせるマックス



「うん、これならイケるかもしれない

 苦手な人がいるであろう

 独特の風味が抑えてあって

 親しみのある果物の味を追加したことで

 弾力性のある歯ごたえと、清涼感を

 引き出してるね、これなら売れると思うよ」


 

マリアンヌがおずおずと言った



「あなたたち、もしかしてハイエルフかしら?」



茶色と緑色のマントを羽織って、フードを深々と

被っているその外人の女性が答えた



「そうだよ、ちなみに飴の袋は、

 世界樹の繊維からできててね、

 食物の風味を損なわない効果があるんだ

 

 お兄さんが言ったとおり、売れ行きは好調だよ」



ティルクは、マックスの持っている袋のほうに

手を伸ばして、中から白っぽい色の飴を取り出した


マックスには、ティルクの手が緊張しているように

見えた


そして飴を口の中に放り込んで、しばらく

モグモグしてから、ティルクが言った



「うん、これは旨い!...そら売れるわ」 

 




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