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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
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最前線

通信、移動速度、攻撃力、これら3つの要素が

桁外れが故に、ウォーヘッドの布陣は

とてつもなく広域である。


昔の人間同士の戦いのように、大軍が一箇所に

集まって決戦することはほとんどない。


王国の支配から外れた辺境の地、

最前線となっているその地において


広域に広がった人間と魔族のパーティーたちが

まるでチェスの駒のように

お互いの動きを探りあいながらゆっくりと

歩を進めているのが今の状況だ。



「こちら、チームアルファ、人間の村を確認した

 これから確保に向かう」



即座に指令部が通信を返した



「了解、チームブラボーとチームチャーリーが

 両翼20マイルを並行している。

 敵の動きは無し、警戒を続ける」



勇者マックスは通信を終え、一息ついた。


改めて眼下の村を見渡す。

盆地にひっそりと佇むその村は、周囲をムギ畑に

囲まれ、真ん中を小川が通っている。



聖女セリスが言った



「数日ぶりの人里ね、お風呂に入りたいわ」



魔法使いマリアンヌも同意する



「そうですわね、でも、チームブラボーの

 現在地が気になりますわ

 挟み撃ちされたら危ないですわよ」



戦士ティルクはやれやれと肩をすくめた



「ブラボーは全員騎士だぜ、

 逃げ足だけは早い連中だ、安心しなよ」



ふいに、全員の頭の中に通信念話が鳴り響いた



「アルファ、聞こえてるぞ!

 誰が逃げ足だけは早いって?

 それにしてもお前さんたち、

 村に着きやがったのか

 羨ましいぜ!

 こちらと鬱蒼とした湿地帯だってのによ」



勇者マックスは笑いながら言った



「俺たちが代わってやりたい気持ちも

 山々だけど

 これから俺たちは久しぶりに

 うまいものを食って

 フカフカのベッドで寝るつもりだ、

 恨むなよ」



山を下っていく勇者一行を、

村の住民たちが出迎えていた。


彼らにとって、ウォーヘッドたちは

まさに天使のごとき存在だ。

自分たちを守るために存在し、

一人の戦力は兵士100人分とも言われている。


それが何を意味するのか?


いかに100人力であろうと、

食う飯の量も100人分ではないということだ。

数百人分の兵士たちの寝床や食事を

用意する必要もなく、

たった数人を接待してやるだけで、

この村は、数百人の兵士に

守られているのと同等なのだ。


しかも、王国から十分な給与と名誉を

与えられている彼らは

略奪や狼藉とは無縁の存在、

まさに光り輝く希望なのだ。


あっという間に、村民たちの目前にまで

迫ってきた勇者一行たちを

彼らはおずおずと見守る


全員が、片手を耳元に当てながら、

独り言のようにブツブツつぶやいていた。

時々、笑ったり怒ったりしている。



「あ、あのう...」



話すタイミングが掴めずに、

村長がとりあえず話しかけた。


しかし、目の前の金髪碧眼のさわやかな青年は、

片手を村長の前に突き出し、

手の平を向けて止めようとするかの

ごときジェスチャーをしたまま、話続けていた。



「なんだと!敵襲だって、

 伏兵が潜んでいたのか畜生!!」



いきなり勇者マックスが大声で叫んだ。

他の三人にも緊張が走る



「こちらブラボー、

 トーロンマン数十体に囲まれた、

 ああ、なんてこった、

 あれはスワンプドラゴン!

 クソ、待ち構えてやがった」



チームブラボーの報告に、

勇者マックスは即座に

隣に立っている聖女セリスに指示を出した



「セリス、聖眼を使うんだ!遠距離索敵を」



美しい黒髪をなびかせた聖女は、即座に

聖眼レーダーを発動させた。


両手をまっすぐに広げ、

直立不動の姿勢になる。


そして、澄んだ緑色の瞳が上向きになって、

やがて白目を剥いた。


そのままの表情でその場を

クルクルと回転しだす。



戦士ティルクが肩をすくめて言った



「やれやれ、世話の焼ける連中だ、

 ちょっくら加勢しに行ってやるわ」



勇者マックスの返答を待つこともなく、

戦士ティルクは片腕を天空に向かって伸ばすと、

そのままスポーンと飛んで行った


まさにスポーンと。



勇者マックスの隣では、

聖女セリスが白目を剥いたまま

ひたすらその場をクルクルと回っている。


そして、勇者マックスは

魔法使いマリアンヌに言った



「俺の分身をテレポーテーションしてくれ」



サラサラとした栗色の髪を肩口で切りそろえた

お嬢様っぽい魔法使いは、勇者マックスに向けて

魔法を放った



勇者マックスは、テレポーテーションの魔法を

浴びながら唐突に、地面に倒れると、

まるで水をかき分けるような、

水中を泳いでいるかのような動きをした。


苦しげな表情で息継ぎをしながら地面を泳ぐ勇者、

やがて、まるで水中から飛び出るかのごとく

唐突に両手両足を広げて全身を使って

バネのごとく飛び上がると

ドヤ顔で地面に着地した。



村人たちはしばらく勇者の一人芝居のごとき戦いを

見つめていた。

夕日が空をオレンジ色に染め、村の女たちが

食事の用意をしようといそいそと家の中に帰り始めた



真剣な面持ちで、話しかけるタイミングを見計らう

村長と、目をキラキラと輝かせて

勇者一行を見守る子供達が残されたのだった。









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