戦闘3
マックスはふと気がついて、目の前の木々を
注視した。
暗い広葉樹林は、太い枝を張り巡らせ、
陽の光を遮っている
しかし、しばらくして、マックスの身体が薄れ、
消滅してしまった。
「...あぶねー、気がつかれたと思った!
人間のくせに私の気配を察知しかけるなんて
これが、ウォーヘッドなのね」
ふいに、一本の広葉樹の太い枝の上に、
マントをバサリと翻した何者かが出現した。
緑と茶色の混じったようなマント、深々と
フードをかぶっていて顔はよく見えない
小柄なその身体を木の幹にもたれかけ、
腕を組みながら、さらに独り言を続ける
「さっきの昆虫、明らかに
この世界のものじゃないよね、
まあ、どっから持ってきたのかは
容易に想像できるけどさ
だけど、この世界の種族にああいうのに
対抗できる力はあるのかな?心配だよね」
木の上の何者かは、
衣服をゴソゴソとまさぐって、ポケットから
黒っぽい飴を取り出すと口の中に放り込んだ
そして、口をもごもごとさせながら
しばらく物思いに耽った
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村の外れ、マックスとティルク、セリスと
マリアンヌは、目の前に広がる森林に
目を凝らしながら、敵を待ち構えていた
勇者マックスが言った
「音もなく獲物に忍び寄り、鎌で瞬時に
捉える。まさに捕食動物だ
強力な魔力を感じた。
ダミーを乗せてたが、弱すぎて
その手は失敗した、
彼らを操る何者かが存在するのか、
それとも、彼ら自身が優れた頭脳を備えて
組織的に行動できるのか
それは確認できなかったが、恐るべき
相手だぞ」
戦士ティルクが、
巨大なグレートソードを前につき出して構えた。
魔法使いマリアンヌも、杖を構える。
聖女セリスが言った
「来たわよ、確かに恐るべき捕食者のようね」
目の前の木々から、5体の昆虫が姿を現した
そして、昆虫は、大きく跳躍すると
背中から羽根を伸ばし、空中を滑空したのだった
一直線にこちらに向かってくる
セリスは、まず、右腕をまっすぐ上につき出し、
左腕を右に向かって交差させ、
今度は、左腕をまっすぐ上につき出し、
右腕を左に向かって交差させた
そして、まるで、力自慢の男が自らの腕の筋肉を
誇示するかのごとくポーズを取ると、
飛び上がり、両足をさらにガニ股風に開いた
瞬時に、4人の目の前に見えない壁が出現した
しかし、昆虫は鎌で空中を切り裂き、
見えないバリアは簡単に破られた
間髪入れず、マリアンヌの発した
巨大な炎の奔流が、
空中の5体の昆虫を一気に飲み込んだ
透明で薄い羽根が、炎に耐え切れず溶けてしまい、
昆虫は地面に着地し、
そのまま4人に向かっていった
戦士ティルクが大きく
グレートソードを振りかぶると、
一体の昆虫が大きな鎌で、それを受け止めた
勇者マックスのブロードソードも、
同じく一体の昆虫の鎌に捉えられ、
二人の戦士は膠着状態になった
マックスは叫んだ
「セリス、マリアンヌ!!クソ、3体だ!」
ティルクは、鎌に捕まったグレートソードを離すと、
瞬時に、セリスとマリアンヌの元に飛びついて
二人を抱えたまま、スポーンと上空に飛んだ
3体の昆虫が、ついさっきまで二人が居た場所に
群がっていく
鎌で掴み取ったティルクの
グレートソードを投げ捨て、
昆虫がマックスの元に向かう
ブロードソードを正面の一体の昆虫に
つかみ取られたまま、
もう一体の昆虫の鎌が、マックスを襲った
しかし、マックスの剣が光輝き、
凄まじいエネルギーが満ちた。
耐え切れずに、昆虫がマックスの剣を離した
マックスは飛び退いて地面を転がると、そのまま
もう一体の昆虫の鎌の攻撃を避け、
地面に落ちたグレートソードを蹴り上げた
一直線に、蹴り上げられたグレートソードが
上空のティルクの元に向かう
ティルクは、抱えていたセリスとマリアンヌを
後ろに放り投げると、
飛んできたグレートソードをキャッチした
放り投げられながらも、
マリアンヌとセリスは魔法を唱えて
攻撃を放ったのだった
...一瞬ですら無駄にしないウォーヘッドたちの攻撃
しかし、その攻撃を受ける昆虫たちも
恐るべき強さだった
なんとか体制を整え直して、5体の昆虫と対面する
ウォーヘッドたち
マックスが言った
「おいおい、なんなんだこいつらは...
強いなあ、魔王軍もどこからこんなもんを
持ち出してくるんだろうな」
ティルクが言った
「あっちの世界からじゃねえかな、
前の魔王との戦いの時もそうだったが、
あっちから来られたら、
この世界の種族はたまったもんじゃねえわ」
ふいに、4人の背後の村から、
人々の悲鳴が鳴り響いた
念話によって、それが敵襲でないことを
知っていたので、4人はニヤリと笑った
しかし、村人たちにとって、
上空からこちらに向かってくる
レッドドラゴンの姿は恐怖以外の何者でもなかった
数本の矢がレッドドラゴンに向かって飛んでいく。
村人とは言え、その弓の腕は確かなもので、
それらは命中した。
しかし、レッドドラゴンの赤い鱗を突き破る矢は
一本もなく
命中した矢は、跳ね返され、力なく落下していった
「毎回こんな反応だな、まあ、気持ちはわかるが
あまりいい気分ではない...」
ボケコラのボヤキにストゥーカが答えた
「だから、下腹に王国のマークを大きく
ペイントすればいいのよ、
私に任せてくれれば、可愛くデコレーション
してあげるのに」
結んだ赤毛をなびかせ、
ゴツゴツした鎧を身につけた
背中のストゥーカに、ボケコラが言った
「下腹に落書きしたレッドドラゴンなんてお断りだ
さて、いつもの歓迎を受けたことだし
チームアルファの連中を助けに行くとしよう」
矢の雨をかいくぐったボケコラは、村を通り過ぎ
まっすぐに麦畑の上を滑空してやがて、
口を大きく広げながら、急降下していった




