戦闘2
テレポーテーションの魔法をかけ続けながら、
マリアンヌは、背後の麦畑を見て言った
「この村の生活の糧である麦畑を
傷つけてしまうのは忍びないわね、
でも、敵を迎え撃つには
この開けた場所しかない、
許してくださいませ」
白目を剥いて回転しながらセリスが答えた
「村の中に被害が及ぶよりかはマシよ。
それに、戦いで被害を受けた村には
王国から援助が与えられるわ。
後で、ちゃんと村の人たちに
説明しておかないとね」
麦畑の向こうに、村が見える
鐘の音はすでに鳴り止み、皆は村長の家に
集まっていることだろう
ティルクが言った
「人間同士の戦いとは違って、
俺たちは人類の希望として戦っている、
そして、彼ら村人たちは
俺たちを信じてくれている
できるだけ麦畑を傷つけないように
ここで敵を抑えようではないか!
あのアホドラゴンが
麦畑を焼き払わなければいいが」
アホドラゴンとは言え、
チームブラボーのボケコラは、
れっきとしたレッドドラゴンなのだ
その吐き出す炎は凄まじく強力なのだ
3人の目の前では、勇者マックスが、
その場を走り続けている
ふと、ウォーヘッドたちの背後に
人の気配が現れ、
マリアンヌとティルクが振り向いた
麦畑に囲まれたあぜ道を走ってくるのは
村長と男たちだった。
全員が弓矢で武装している
「御一行よ、私たちも微力ながら
助太刀いたしますぞ!
こう見えても、私たちは長らく自力で
魔王の手先の侵攻を防いでいたのです」
しかし、ティルクが言った
「ああ、しかし、今回の襲撃は違うぞ!
今までみたく、魔王の影響で増長した
ゴブリンのような低級モンスターたちの
散発的な襲撃とはわけが違うんだ。
目的は、俺たちウォーヘッドさ、
だから、敵も対ウォーヘッド用の戦力で
攻撃してくるんだ
つまり、君らが想像しえない次元の戦いが
これから展開されるんだ」
マリアンヌも言った
「そのとおりです、今までと違って
この周辺は、魔王軍と我々との
戦いの最前線となっています。
もはや、ウォーヘッドでなければ
対応できない強力な敵が侵攻してくる
のです、だからあなた方はどうか
村に戻って、人々の側に居てあげて
ください、
しばらくしたら私の仲間たちもこちらに
集結してきますので、安心して
私たちにお任せくださいな」
ウォーヘッドと村人たちの前で、
走り続けていたマックスが急に立ち止まった
そして腰に下げた剣を抜いた
黒っぽく艶のない刃は、
ここでは見えない何者かに向けられていた。
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鬱蒼とした森の中をマックスは走っていた
横では、川の流れる音が微かに聞こえてくる
研ぎ澄まされた五感が、敵の気配をキャッチする
まったく音を立てることもなく
こちらに向かってきているのだろう
聞こえてくるのは、水の音と鳥の鳴き声だけだ
!!!居たぞ!!!
森の木々の間から、恐るべき姿が見えたのだった
...大きな鎌を持つ巨大な
昆虫のような節足動物の上に
魔族の戦士が乗っていた。
動物の毛皮のようなものをまとっていて
それはまるで蛮族のような出で立ちだった。
マックスは剣を抜いて構えた
数人の魔族の戦士は、昆虫のような乗り物を
止めた。
「おっ、いきなり勇者っぽいの発見~、
逆に言えば、俺たちが発見されたってこと?」
魔族の顔は異様だった。
青い肌に、尖った耳、大きな口と
小さく丸い鼻があった。
目があるべき部分は、大きく横に
一直線の切れ目が走っていて、
それは糸のように細長い瞼のように見える。
切れ目の中はピンク一色だった
「もうすでに捕捉されてるって俺ら!
逆に言えば、奴らの歓迎を
受けにいくっていうか」
「まあ、俺たちって超ツエェから上等じゃん、
逆に言えば、俺たちこそ歓迎っていうか」
次々と軽口を叩く魔族の戦士
マックスはすぐに、彼らが大嫌いになった
「今まで会ってきた中で最悪のルックスと
一番ムカつく喋り方だな
魔王軍の新型か?
とりあえず挨拶をしておくよ」
魔族の戦士が言った
「あん?とんだ物言いだな、
逆に言えば、そういうお前こそ
人のこと言えるルックスかよ」
明らかに目の前の勇者は、人間基準で
言えば人のことを言えるルックスなのだが
この異形の魔族にとっての
美的基準は不明だ
「てめー、勇者ならどうせ分身なんだろ?
時間を稼ぐつもりなのかよ、
逆に言えば、瞬時にてめーを倒せば
何の意味もねーってこと」
「いいじゃん、時間なんて気にすんなって
どうせ勝ち確定だし
逆に言えば、ウォーミングアップに
ちょうどいいんじゃねーの」
昆虫の上で、魔族たちは背中に背負った武器を
取り出して構えた
大きな肉切り包丁のような荒削りな武器だ
顔に横一文字に開いた細い瞼がさらに細められ
大きな口から牙を見せながら笑う
昆虫の上に乗った5体の魔族が、マックスを
取り囲んだ。
ブロードソードを構えて微動だにしない
マックス
...しかし、次の瞬間、マックスは地面を蹴って
飛び上がると、身体を一回転させた
マックスが着地する前に、5体の魔族の
首が、ニタニタ笑いを浮かべたまま
宙を舞ったのだった。
ドサリッと昆虫の上からずり落ちる
首なし魔族たち
「弱すぎる...てことはこいつらは
ダミーか、本体はお前さんたちか」
乗り主をなくした、鎌を持つ巨大な昆虫を
睨みつけながら、マックスが言った
マックスを取り囲んだ5体の昆虫は、音もなく
後ずさると、恐るべきスピードで
マックスの前から姿を消した
遠ざかっていく5体の昆虫たちを眺めながら
マックスは念話を使って言った
「こちら、チームアルファのマックスだ!
敵は魔王軍の新型が5体だ、
巨大な昆虫タイプ、
俺をスルーして村に向かった、
音もなく高速移動ができる、手ごわいぞ!」