戦闘
翌日、早朝...
「こちら本部、敵に大きな動きが見られた
B集団とC集団に集中的な攻撃が発生中、
”噛み付き戦術”だと思われる
A集団は臨戦態勢を取れ!」
本部のジェネラルの声が
チームアルファのメンバーの頭の中に鳴り響いた
基本的に、広範囲に散らばりながら進軍する
ウォーヘッドは、切先の尖った
両刃の剣のような展開で敵地に侵入する。
今回では、A集団が切先、B集団とC集団が両端の
刃の部分、D集団が剣の厚みとなるように
A集団の後方からついてきている感じだ
A集団は、チームアルファ、チームブラボー、
チームチャーリーの3つのパーティーから成る
敵が彼らに対抗するには、同じく剣の形となって
剣先同士でぶつかり合うか、
もしくは剣を包み込む鞘のように包囲するか
盾のように厚みを作って防御に徹するかいくつかの
パターンがあるのだが、
今回は、両端の刃の部分を攻撃する、いわゆる
噛み付き戦術だった。
マックスは、ベッドから飛び起きて服を着ながら
部屋を飛び出して言った
「人間の村にいる俺たちは、ここを見捨てて
退却はできない、
敵もそんな俺たちの行動パターンを知っていて、
噛み付きをやっているんだ」
片足を引き寄せて、ブーツを履きながら、
もう片足でピョンピョンと飛ぶように
部屋から出てきたセリスも言った
「ええ、チームブラボーとチームチャーリーも
ここに集結して私たちと共に
この村を守る必要がある。
敵の目的が私たちA集団だとしたら
おそらく、この村に対して強力な攻撃があると
見ていいわね」
すでに身支度を済ませたマリアンヌも
部屋を飛び出してきた
「両顎が主力なのか、舌先が主力なのか
どちらなのかしらね?
セリス、わかってると思うけど、
はやく靴を履いて聖眼レーダーを展開してね、
あの筋肉馬鹿はまだ寝てるのかしら?」
と、マリアンヌの側の部屋のドアが開いて
戦士ティルクが大きなあくびをしながら出てきた
「おいおい、若者たち、落ち着くんだ!
人間の村を確保した時点でこのような攻撃は
予測できただろう?俺たちができることは、
いつでも敵に対応できるように休むべきときは
しっかり休むことだけさ」
このような小さな村には、宿屋がないために
村長の家が来客用の宿泊施設も
兼ねているのがほとんどだ。
この村もその例に漏れず、
数人が余裕で泊まれるほどの
広さの離れ家があって、
チームアルファのメンバーたちは
それぞれ個室を与えられて休みを取っていたのだ
訓練の成果なのか、
一瞬で服を着て戦闘準備を終えた
マックスとセリスとマリアンヌ
しかし、ティルクは未だに
短パン一枚で余裕の構えだった
その筋骨隆々の巨体は、至るところに
生々しい傷跡がある
なんだかんだと、敵の攻撃の矢面に立ち、
聖女と魔法使いを
身体を張って守ってきた戦士なのだ
戦士ティルクは、ウォーヘッドとなる
以前からも含めて、踏んできた場数においては
他の3人とは桁違いだった。
無理もない、
彼はルーンの内海周辺部の国ではなく、
西海に面する商業都市の出身なのだ
「むしろ、ウォーヘッドとなって
恩恵を発現させた今のほうが安全なくらいだ、
ちょっとやそっとでは死ねなくなったからな」
と、常に言っている。
色の褪せた金色の髪と、堂々たる体躯、奥まった
灰色の瞳、日焼けした肌、
それは常に荒波とモンスターに揉まれる
西海の民の姿だった。
商業都市の暗黒街で育った彼にとって、
常に死と隣り合わせの日常だった
むしろ、ウォーヘッドとなって、
十分な支援体制の元で戦いに身を投じる
今のほうがよほど安全な暮らしなの
かもしれない
そんなティルクの存在が、若い3人に
精神的な安定をもたらしているのだ。
村長の奥さんが、離れ家の玄関のドアを開いて
入ってきた
白目を剥いて身体を回転させているセリスと
鉢合わせして、驚いている
「あ、あのう、朝はようからどうなさったのです?
えらく慌ててらっしゃるみたいで、何が
起きてるのですか?」
アワアワと慌てふためく奥さんにセリスが言った
「この村から4マイルほどの地点に敵がいます
移動速度からして、地上性のモンスターです
10分そこらでこの村にたどり着くでしょう
数はそこまで多くはない、しかし、強力な
魔力を感じます、村の人たちは一箇所に集まって
隠れていてください
私たちがこの村を守るので安心してください」
奥さんは即座に離れ家を飛び出していった
やがて、村の外れまで移動したチームアルファの
背後で、鐘の音がカンカンと鳴り響いた。
彼らの後ろには麦畑が広がり、さらに
向こうに村があった
セリスは再び、聖眼レーダーを発動させた
「敵は前方3マイル、数は、5体を確認、
川沿いの平地を18マイル毎時で移動中
さらに、ここから6マイルほど後方に新しい
敵を確認、数は多いわね、
刈り取り部隊かもしれない。
やや低速で移動中、この村への
到着には数十分ほどかかるわ」
本部からの連絡が入った
「B集団とC集団は、強力な敵集団の攻撃を受け、
膠着状態だ。
A集団は、チームアルファの村へと集結せよ、
D集団をそれぞれの
支援へと向かわせるよう準備をする、以上」
マックスが目の前の、山に囲まれた
森林を見つめながら言った
「この森の奥まで、分身を転送させてくれ、
いつもどおり頼むぜマリアンヌ、
ちょいと敵に挨拶してくるわ」
ティルクが、巨大なグレートソードを肩に担いで
言った
「俺もスポーンと飛んでいって
挨拶に加わりたいがやめておこう。
マックス、敵に会ったら
俺たちがいかにお前たちに会いたがってたか
よく伝えておいてくれ」
マックスはニヤリと笑った
「ああ、しばらくは平和が続いてたからな、
昨日のスワンプドラゴンでは物足りなかった
ところだ、よく敵さんに伝えておくよ」
マリアンヌがテレポーテーションの魔法を
発動させた。
マックスの分身は、
鬱蒼とした森の中で目が醒めたのだった