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ウォーヘッド  作者: グレゴリー
13/114

世界樹の葉

「う、うん、ボケコラに無理やり

 連れてこられたとはいえ君たちを

 覗いたのは俺の意思だ、本当に

 申し訳なかった」



セリスとストゥーカの二人の少女からなる

人間玉座に寝そべりながら

神話的人物風のマックスが真剣な

表情で詫びた



「そして、俺は自分の意思で

 崖を登り、覗いたってわけ」



禁断の果実を齧っている神話的人物風の

カールソンはそっけなく言った


二人とも、全身に金粉を塗りたくり、

黄金色に輝いている


それは、まるで、全ての罪を許される

神話的超越者といった趣だった


二人の少女から成る玉座がもぞもぞと動き

形を変え、マックスをすっぽりと心地よく

包み込む。



「それにしても、いい椅子を持ってるよね

 さすがは大公爵家だね」



マックスは、絡み合う

肉体椅子のパーツと化しているセリスと

ストゥーカの地肌を勢いよく両手で

パアンと叩いたのだった。

マックスの玉座が一瞬ビクンと震える


南国からもたらされた背徳感溢れる

果実の先端を軽く口に含みながら

マリアンヌが言った



「正直者はすばらしいわね!

 二人の罪を許しましょう、

 そして、こうしてお互いが分かり合える

 場に私たちが存在することにも

 感謝しましょう」



マリアンヌは、真摯な目でこちらを

見つめるマックスを真っ直ぐに見返しながら

白く細長く湾曲した果肉の

先端をゆっくりと吸い込むように味わった


そんな光景を見て、マックスは

何故、今まで彼女との間に壁を作ってしまって

いたのだろうと後悔したのだった。


そして、マリアンヌはバナナを食べながら

ニッコリと満足げに微笑んだのだった


若者らしく、さっぱりとした

和解を成し遂げた5人は、

やがて清廉な水の中で戯れ、

ルーンの内海からはるか離れた遠方から

やってきた香辛料をふんだんに使った

料理を楽しみ、談笑しあった


再び、男性のテノールと女性のソプラノの

素晴らしいデュエットが、美しい弦楽器の

音色とともに昼下がりの湖に響き渡る


5人は、湖のほとりの草地にそれぞれの

頭で円を描くように仰向けになって寝転び、

空を眺めた


髪も含め、全身が黄金色のマックスが

言った



「魔王によって人類は危機を迎えている、

 俺たちはこれからそれに立ち向かわなければ

 ならない

 どれだけ辛い道が待っているのだろう?

 でも、今、俺の胸の中は背徳感にまみれた

 想いで一杯なんだ!

 その想いとは、もしも、魔王が現れなかったら

 俺たちは出会うこともなかっただろうという

 ことだ」



茶色のロン毛以外は同じく全身が黄金色の

カールソンが言った



「ああ、でも背徳感なのだろうか?

 俺たちの出会いは必然であり、

 魔王に対する答えなのだ。

 魔王という脅威に立ち向かうには

 力だけじゃ無理なんだ、俺たちの間に

 芽生え、大きく育つであろう愛、

 愛の力こそ、魔王に対する答えなのでは

 ないだろうか」



栗色の波打つ優雅な髪、切れ長の瞳の

マリアンヌが言った



「愛、もしかしたらそれこそが

 私たちウォーヘッドの最大の力の源

 なのかもしれませんわね

 メシア教の教義も、ルーン帝国の哲学も

 人類の幸福は愛によって成し遂げられる

 と言っていますわ

 それはおそらく私たち人類だけがもつ

 概念、そして最大の武器なのでしょう」



赤い長髪、気高くも力強い顔の

ストゥーカが言った



「私たちの友である長命のエルフ族にとって

 愛とは、執着や独占を

 喚起させる危険なものらしいけども、

 短い生を生きる私たちにとっては違うわ。

 一瞬で燃え尽きる炎のごとく 

 その生の中で生み出される愛は

 激しくも儚いもの、だからこそ

 その輝きを私たちは大切にするのよ」



その名のとおり、絹のような黒髪、

緑色の澄んだ瞳に憂いを秘めたセリスが言った



「今、私たちがこうしているこの瞬間、

 水の流れのように過ぎ去っていくこの瞬間を

 永遠に私たちの中に焼き付けるもの、

 それこそが愛の力なのよ

 ここでの思い出は美しくも鋭い刃と

 なって、魔王を貫くことになるでしょう

 

 だから、皆、これから何があっても

 いつでもこの場所に戻って来られるように、 

 この場に満ち溢れている愛を

 心に刻み込みましょう」



円になった5人は手を取り合った

そして、瞳を閉じて、この瞬間を心に

刻み込んだのだった


湖の奥から一艘の船が近づいてきた


5人はハッと気がついて身体を起こして

湖のほうに注視した



数人の漕ぎ手がオールでその小舟を漕いでいる

そして船の真ん中に立つ一人の人物が居た



それは、股間に世界樹の葉を一枚だけ貼り付けた

裸の親父だった

 

 

カールソンが驚きの声をあげた



「クローディス大公、まさか

 おいでになられるとは!」



マリアンヌは眉をしかめてつぶやいたのだった



「...父上、美しい思い出の一ページにあなたが

 書き加えられることになるなんて...」



 


 









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