ネメシス
スオムは過去の思い出に浸っていた
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それは肌寒い季節、真夜中の大都市はまるで
真昼のように煌々と光り輝いている。
まさに建設ラッシュの最中であり
いくつものタワーが高く
天を目指さんとしている
市庁舎の長い廊下を市長のスオムは
静かに歩いていた
ドアの隙間から明かりが漏れている部屋の前で
立ち止まると、そっとドアノブを回した
立ったまま広い机に向かって背を丸めて
一心不乱に書類の束を確認している
タジマコヘイ
そう...私のタジマコヘイ
彼の目の前の大きな窓から、巨大なドーム状の
マナ圧縮炉が見えている
「スオムさん、この大都市に集まってくれた
賢者たちが編纂してくれた
タジマコヘイ憲法の原案だ」
振り向いたタジマコヘイは、緑っぽい色の
髪に、同じ色の髭を伸ばしている
「ジーマさん、もう夜も遅いわ
それに、この寒さで暖炉もつけずに...」
しかし、タジマコヘイのその深い緑色の瞳は
喜びに輝いていた
つい、そのイケメンに見惚れそうになる
「このタジマコヘイ憲法によって、
あの、目の前の無機質なマナ圧縮炉に
温かい血が通うことになるだろう」
スオムとタジマコヘイは同時に、窓の外の
巨大なマナ圧縮炉を見つめる
「ええ、かつて私たちが歴史上、
手にしたことのないほどの巨大な力が、
あそこから生み出されているわ。
それは、無限の可能性と、限りない幸福を
もたらすもの。
でも、同時に大きな破壊と争いの元になり、
その力の恩恵を受ける者と
そうでない者との間に
絶対的な断絶が生まれるかもしれない。
このタジマコヘイ憲法を
手に入れたことによって、
私たちはそのような事態に対して
抗い続けることができるのね」
言いながら、スオムは
そっとタジマコヘイの側に歩み寄り、
着ていたガウンを広げて
タジマコヘイを包み込んだ
一つのガウンに身を寄せ合って
包み込まれた二人は
しばらく無言で外を見ていた
「暖かいな、いつかこの暖かさを
隔離界のすべての種族が
享受することができるといいな」
スオムは返事をする代わりに、さらに強く
身体をくっつけた
タジマコヘイはその後も、まるで
自分に残された時間に追われるがごとく
大都市のために働き続け、そして
性犯罪を犯して大都市を脱走したのだった
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王城の屋上では、
様々なエネルギーが集中して
起きた大爆発が収まり、
もうもうとした煙もようやく晴れてきた
そして、何事もなく
宙に浮かんだノヴァが現れた
タジマコヘイの外見を纏ったノヴァは、
切られた右手首を見つめながら、
何やら考え込んでいる。
その断面からは、淡い緑色の輝きが溢れていた
「ふむ、この私に攻撃を仕掛けてきたとは
あくまで抵抗するつもりなんだね
うーん、そうだな...
まあ、事が終わった後で
地上に降りたときに回収すればいいし、
この手は君達の遊び相手として貸与するよ」
屋上には、勇者マックス、戦士ティルク、
聖騎士リック、ハイエルフのキオミ、
魔法使いマリアンヌ、弓騎士カールソン、
重騎士ドン、チームエクスレイの4人
上空には、2匹のフーセンドラゴンの背中に
聖女セリス、魔法使いルーティー、
僧侶エリー、
エルフのリリーベル、ドワーフのイルガ、
ハイエルフのディックソン、
フーセンライダーA、フーセンライダーB
レッドドラゴンのボケコラと、
竜騎士のストゥーカ
がいた
ノヴァの言葉に、ウォーヘッドたちが戦慄する
勇者マックスの目の前で、巨大な右手が
手のひらを上に向けた状態で、
5本の指をヒクヒクと動かしている。
やはり断面からは、淡い緑色の光が溢れている
ウォーヘッドたちの背後では、
屋上への階段の付近にお偉方が集まって
事の成り行きを見守っていた
仕方なく、ジェネラルが彼らを護衛している
ちなみに、クラウディア姫と、小国の女王が
どこかキラキラした目でマックスの後ろ姿を
眺めていた
ノヴァが言った
「この右手には、ネメシスとでも名付けよう
せいぜい、楽しんでくれたまえ!
それじゃあ、私はおさらばするよ、
善は急げというだろ?
君たちに関わっている場合ではないからね。
もう会うことはないだろう、さようなら」
マックスは苦々しく言った
「まるで神にでもなったかのようだな...
あんたが外見を纏っている人物は
聞いたところによると、神のような力を
宿しながら、最後まで人間であろうとして
そうあり続けた。
あんたに彼の外見を纏う資格はない」
ノヴァは爆笑した
「おいおい、君らはこの外見を散々、
キモイだの言ってたくせに、
それはないだろう?
実際に、タジマコヘイは
性犯罪を犯したキモい最低の
人物であることには変わりはないけどね
でも、私は、やはり
この外見を纏うことにした。
やっぱり、今に一番ふさわしいのは
この外見だよね」
そう言いながら、ノヴァは
上空に昇りはじめたのだった
そして、ウォーヘッドたちの目の前の
巨大な手がくるりとひっくり返ると
5本の指を曲げて、ブルブルと震え始めた
天罰と名付けられたそれは、
全身を光り輝かせながら、
変身をはじめたのだった
マックスの隣の、ハイエルフのキオミが
小声で言ってきた
「ねえ、タジマコヘイって性犯罪者だったの?」
マックスは小声で答えた
「ああ、ディックソンは言葉を濁していたが
まあ、俺はそういうことだと確信していたよ」
巨大な右手がどんどん変貌していった
王城の麓の裏通りにあるこじんまりとした
宿の屋上で、スオムは眼鏡を外して
涙を拭った
隣を見ると、マリーも手の甲で目を拭っている
2人は同時に頷いた
背後で、エーリスとへリントンとキャサリンが
待機していた




