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暖簾に腕おしって知ってる?

私の攻撃を受けて、声もなくうつ伏せでぶるぶるする磯崎君…いや、君付けしてやる義理ないな。

丹波と一緒で呼び捨てで十分だ。



「磯ボン?社会的に抹殺されたいか?」



ミトサンが笑顔で磯崎の胸ぐらをつかんで起こす。

うん、笑ってない。目が笑ってない。怖いわー、いくらなんでもあんな顔されたら明日から出社できないよ!!



「た、他意はありみゃへんでしたっっっ!!

転がりついたところで見上げたらお二人が居て…中身見えなかったし…!ゆ、ゆるしてくだしゃいいいぃぃ!!!」



カミカミで磯崎が懇願する。

見ようと思っても見れないはずだよ。

私はストッキングの上に黒の夏仕様のスパッツはいてるし、さや先輩も下着の上に毛糸のパンツはいて出社後更に膝上丈のスパッツもしくはハーフパンツはいてるからなぁ。



「とりあえず、お前の親父さんには報告しておくからな?

ほら、土下座で二人に謝れ。」



「まぁ、うちら下にちゃんとスパッツとかはいてるんで今回は許しますよ。」



「土下座されても正直困るのでけっこうですよ。」



ナチュラルに土下座を要求する過激モードなミトサンを一応被害者の私達二人がなだめる。なんだこりゃ…?意味わからないや。



「穂積さん、これスーツです。お願いしまーす!」



そこへやってくる給湯室で着替えた富久山。

さや先輩に脱ぎましたーって状態で引き渡す。おおおおーい!!!!!



「分かりました。」



流れるように受け取りざっと綺麗に畳むさや先輩。



「え?!!」



磯崎が驚いた顔をして尋ねた。



「なんで富久山君が着たのにこのお姉さんに俺のスーツを渡してるの?しかもたたみもしないってどうなの?」



「え?だって貸してって言ったの俺じゃなくて穂積さんだよ?

それに指導したのは全部正親さんだって言うなら引き受けるって言ったの穂積さんだし。今、たたんでくれたんだから別にいいじゃないか。」



富久山の答えに磯崎の目がつり上がった。

それでも可愛らしい顔は相変わらずだな。美形ってすごい。



「は?!

なに言ってんの?お前?!そもそもとして、そんな服着て来るのがおかしいだろう?

新人研修ではちゃんとしてたじゃないか!!

常識的に考えてお前がクリーニング出すのが当然だろう!!」



「そんなこと誰が決めたの?!

だいたい一晟さんだって俺と似たような服の系統だけど何も言われてないよ!

それにスーツもそんな好きじゃないし。

あと、この格好似合うって言われてるんだから良いじゃないか。」



なんでうちに入社したんだよ、お前…

あと、高橋先輩も道連れありがとうございます。やーいやーい!

ビクッと席の方で肩を震わせたのがここからも見て分かった。



「水卜先輩!!」



磯崎が助けを求めるようにミトサンを振り返る。

あー、そうだよね研修の頃は普通だったろうね。ここ最近すごい勢いでおかしくなってるから初期状態しか知らない人にとっては宇宙人だよね。



「別にいいんじゃないか?責任被るの樋口部長一人で済むシステムになったってことだろう?

何かやらかしても責任は全て樋口部長が引き受ける…すごいよなぁ~

今度何かあったら遠慮なく樋口部長にぶつけることにするよ。

何があっても樋口部長が守ってくれるってことだな。良かったじゃないか、富久山君。」



明るく朗らかにミトサンが言う。こわっ!!

穏やかすぎるのが逆に恐ろしいわ!!!富久山、ミトサン優しい口調だけど全然優しいこと言ってないからな?



「正親さんと一晟さんが味方で居てくれるから、何だって乗り越えられるんです…俺。」



なんか変なスイッチ入ったかのようにそう言ってキラキラ笑顔を浮かべる富久山。大丈夫かこいつ?

あ、さや先輩が無の表情過ぎる。すっごい冷たい顔してるよ!!!珍しく!!!レアだけど見たくないよ!!



「那珂、眼鏡かして。」



いきなりミトサンが那珂先輩に言った。すぐ返してくださいね、と言いながら那珂先輩が手渡す。



「さやちゃん、ほら」



何故か眼鏡の中央部分を人差し指で押さえて、片手は腰にして決めポーズと顔をするミトサン。



「IT社長。」



そう言われた瞬間、さや先輩が吹いた。

いや、それだけでなく富久山with連中以外大爆笑だった。



「ほい、那珂ありがとな。」



「水卜…さん…!いきなりなんですか!」



那珂先輩が笑いを噛み殺しながら抗議する。



「みんな顔怖くなってたから、和ませようと思って。

最近の十八番なんだよ?なんかいそうなモノマネシリーズ。」



細かすぎるモノマネかよ!

でもほんといそうだよ!!シリアスモードぶち壊したよ!!そしてさや先輩、スーツを抱えながらうずくまって笑っている。

笑いのツボに入ってしまったようだ。



「水卜先輩って営業の成績も良いのになんか面白いことも平気でしちゃうからほんと困るんですよね…」



一通り笑い終えたあと呟いた磯崎の言葉にほんとそれな…!!と思うのであった。









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