身から出た錆。
それからは普通に仕事が再開された。
ミトサン所の営業部は今頃てんやわんやであろうけど、うちは元々関係ないしな。
ちなみにメールチェックした樋口部長は既にさや先輩が言ったことを繰り返すのみだったので、しらっとした空気が流れたのを付け加えておく。
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「失礼します。ご協力ありがとうございます、クライアント帰りました。」
「皆様、ありがとうございます。」
三時近くになって、ミトサンと、営業の新人がやって来た。
わー、ミトサンが髪をオールバック風にしてかっちり固めている。相当な案件だったんだなぁ。
スーツもあれ…とっておきの時のやつだ…!値段聞いてヒッってなったやつ。
ビシッとしたスーツでそんな髪型してると、ほんとにかっこいいんだけどなぁ…ミトサン。
性格がああじゃなければなぁ。惜しい!!
「お疲れ様でした。
そしてスーツ、ありがとうございます。ご迷惑お掛けせずに済みました。」
出入り口付近に移動になったさや先輩がすぐさま頭を下げる。
「協力感謝だよ、さやちゃん。
あ、スーツ貸してくれたのはこの磯崎な。豆っ子と同期だ。」
「ありがとうございます。」
ふんわり笑顔でさや先輩が言う。
磯崎君はさや先輩を見て、そしてキラキラ~っとした顔になった。
富久山程ではないが、那珂先輩級の美形君だ。方向性は違って可愛い系だ。
「この前の資料室のお姉さん!!!
その節はお世話になりました!丹波の配属先の方だったんですね!
これは運命だと思うんです!どうです、僕と付き合ってみま…」
「磯ボン黙れな。」
バッとさや先輩の両手をつかみ、片膝ついて口説きかけた磯崎君の脳天をミトサンが容赦なく叩く。
「いだあああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
頭を押さえて、床をごろんごろんする磯崎君。
そんなにか!そんなに痛いのか!?それともリアクションが激しい子なのか…!??
「まぁ、この通り女子ならだいたい口説くやつなので挨拶と思って流してくれ。」
にっこりと笑って言うミトサン。痛みに転げ回る磯崎君に対してガン無視だ。
流石である。
「はあ…」
さや先輩がなんとも言えない顔で頷きつつ首を傾げている。
「さや先輩!」
とりあえずかけよりさや先輩の手を握る。そうして恋人繋ぎをしながら手をにぎにぎ動かしていく。
「…ん?どうしたの?千佳ちゃん。」
「消毒ですよ!さや先輩!!これで上書き完了です。」
「あらあら、ありがとう。」
ふと視線を感じると、磯崎君が我々の足元に転がってきていた。そうして我々の方をガン見している…正確にはスカートの中を。
とりあえず私は力いっぱい磯崎君の脇腹にめがけて教育的指導をぶちかましたのだった。




