那珂 宏は混乱する。
バーベキューは色々あったが概ね平和で楽しかったといえる。
穂積さんがあんなに酒が強いとは思わなかった。
飲み会に誘わないでほしいと言っていたので今後、なにかお礼がしたいと思ったら酒を渡そうと思う。
朝と同じ席順で帰りも座って、車が走り出したのだがしばらくして丹波がうとうとしたあげく隣の穂積さんの膝を枕にするという出来事があった。
隣に居た鈴木がすぐさま離れろと騒いだが、酔っぱらい丹波がヤダヤダーとただをこねしがみつく事態となった。
が、しかし俺が立ち上がる前に高橋さんの隣に座った水卜さんが、信号待ちで停車したタイミングですぐ動き丹波を力ずくでひっぺがした上で容赦のない一撃を入れて昏倒させ田中と席チェンジを依頼することで事なきをえた。
ちなみに…その後に鈴木が穂積さんの膝枕で眠り、田中が穂積さんの肩を枕に寝て、穂積さんも田中の頭にもたれ掛かり眠っていた。
「え?料理教室??」
高橋さんは爆睡しており、樋口部長と富久山は二人の世界状態だったので必然的に水卜さんと松本と俺でなんとなく会話しているととんでもない話を聞いた。
「会場には俺の住んでるとこなんだが…あ、那珂も来るか?
材料費割り勘で片付け要員になれるならだけど。」
「水卜さんって実家暮らしですか…?」
「いや、賃貸。
あー、あんまり他には言わんでほしいんだが…那珂達なら口が固そうだから言うけど、資産家の叔母のタワマンを借りてるんだ。身内価格で。」
「は?!」
「たしかすごいキッチンなんですよねー!
いつかマンション買いたいなって思ってるから参考の一環にしたいし、ちーちゃんがお料理作ってくれるならどこにでも行くから俺もお伺いするんだ。」
「…よく穂積さんオッケーしましたね…」
なんか、警戒心がどっかいってないだろうか…?
知り合いとはいえ、ややチャラチャラしがちに見える水卜さんの家にホイホイ行く人ではないだろうに。
「千里ちゃんがどうしても料理覚えたいって言って、なおかつ鈴丼も来るからだと思うけど…?
あれ、もしかして俺相当信用ない?」
「………………」
「いや、二人ともなんか言って。」
「信用ないというか、穂積さんと水卜さんってあまり合いそうにない感じがすごいあるとおもってしまって…今日、二人が普通に話しててびっくりしたくらいです。」
「穂積さんは一見、真面目そうなので水卜さんみたいなタイプは苦手なんだと思ってるんですが。」
「おーおー、言うねお前ら。
まぁ、チャラチャラしがちに見えるのは自覚してるけどね。
だからって、遊んでるわけじゃないからね?休みは大抵家だよ、俺。今日みたいに誘われれば出るけど。」
なんか意外だな。
遊び回ってるイメージがすごいあった。
「あ、叔母がワインセラーに入った高いワイン飲んでもいいって返事来た。
どうする?那珂も来る?」
「おうかがいします。よさげなチーズ探して持ってきますから!」
高いワインなんてそうそう飲めないからな…
ワインそんな高いの飲めないけどめっちゃ好きなんだよな!!
★★★★★
そんなわけで、チーズを買って保冷バッグに入れて水卜さんの住みかに向かっていたら丹波に捕まった。
タワマンの狭間に林と古い建物があるなーと思ったら丹波の住まうアパートだった。クラシックといえばクラシック。あと少しで倒壊しそうな雰囲気のある木造立てだ。
洗濯を干してたときに俺を見つけたらしい。
視力いいな。というかかなりの距離から大声で名前連呼するのは勘弁してほしい。恥ずかしいから。
「水卜先輩の家で料理教室とか聞いてないんですけど!!」
「丹波は誘われてないからな。後、穂積さんに無理矢理膝枕してもらってたから後で土下座しておけな。」
「え゛!???????」
「覚えてないのか?水卜さんに一撃をくらってたろう。」
「どうりで頭ずきずきしたと思った…」
丹波はしょぼんとした後、顔をあげて言った。
「それはお詫びに高めのカットフルーツ買ってうかがわないと!!そんなわけでしたくしてくるので待っててください!!」
止める間もなく走り出す丹波。速いな、おい。
というかお前…おこぼれにあずかる気満々だろう。とりあえず水卜さんに電話してみた。
「…って言って家に行ったんですけど…追い返します?」
『ちょっと待ってな………あ、追加も大丈夫だって。
ちゃんと材料費かかるって伝えてな。今スーパーで、帰りに鈴丼拾って来るからそんなにはやく来ても俺家に居ないよ。丹波の家は…那珂が潔癖気味なら行かない方がいいよ。』
「なんか穂積さんに膝枕の件でお詫びの高いカットフルーツ買ってくって丹波言ってたんで買い物してから向かうので大丈夫かと。」
『お詫び?あー、何がいいか聞いてみるな………………マンゴーがいいってさ、伝えといてくれ。』
「…?水卜さん、穂積さんと一緒なんですか?」
『うん。材料買うのに二人でスーパーで買い物中。那珂、なにか食べたいものあるかって。』
「え、あ…シーザーサラダはあるとうれしいです…」
二人で買い物とかってなにそれ?!
混乱しつつ、希望はきっちり伝えたのだった。




