パーソナルスペースおかしいです。
「ジェラード、どれがいいですか?早い者勝ちですよ。」
驚く男性陣をさや先輩は全く気にせずジェラードを並べはじめたので、私と千里子さんは素早くお目当てのものをゲットする。
「さや先輩、ナナ先輩ありがとうございます!」
「七瀬さん、さやさんごちそうさまです!!」
お礼を言って食べはじめる。
富久山達は愛の劇場を展開している。
「どうしよう、どれも美味しそうで選べない~」
「潤、ほしいのどれだ?半分こしよう。」
「俺は甘いものもそんなに食べないから一口二口食べたら十分だ。残りをやるから好きなの選べ。」
「二人ともありがとう!じゃあ俺が選ぶね!!」
おいお前ら、キャッキャするのはいいがお礼を言えよ。
なに当たり前のようにさや先輩の気遣いをスルーしてるの?ほんとそういうとこ、直してほしい…
「なぁ、樋口さん達…
取るのはいいがさ、ちゃんと穂積さんと七瀬さんにお礼を言ってからにしたらどうだ?
金を出したのはその御堂筋さんだろうけど…動いてくれたのはその二人だろ?」
ミトサンがにこやかに、しかし否とは言わせない圧をかけつつ声をかける。
さすがです!我々下っぱでは樋口部長と高橋先輩にタッグを組まれると立ち向かいずらいからなぁ。
「も、もちろんだな。
穂積、えー七瀬さんだったかありがとうございます。」
口元をややひきつらせながら、樋口部長が言う。
おらおら、普段礼儀だなんだと五月蝿いくせに自分はどうなのさ!
樋口部長に続いて富久山と高橋先輩もお礼を言う。
「で、穂積さんと七瀬さん先に食べたいの取って。
それから俺ら選ぶから。レディファーストだな。」
「私は余り物でも…」
「いや、いいから。ね。ほら七瀬さんも。」
遠慮するさや先輩にも有無を言わせないミトサン。さすがですな。
「あらー!ミトちゃん気が利く!!
ほら、さーたん!選ぼう。ほら、さーたんの好きなブルーベリーとチーズの組み合わせ残ってるよ。ほらほら取って!
私はベーシックにミルク!!」
ナナ先輩が心得たとばかりにチョイスして渡す。
フムフム、さや先輩ってベリー系やチーズ系が好きなんだな。しっかり覚えておこう!
「…水卜さん、ありがとうございます。」
「いえいえ、美味しいデザートありがとうございます。
さ、樋口さん達どーぞ。」
「えー!俺も選びたい!!」
酔っぱらい丹波が赤い顔で手を上げた。空気よまなさがパワーアップしてる…いいぞもっといえ!!
「ばーか、こういうのはな先に女性陣や買ってきた人をまず優先して、それから偉い順にとっていった方がもめないの。
豆っ子、呪文のような味名を見て瞬時に取れるならいいが無理だろ。
ほらほら、樋口さん達気にせずどーぞ。」
気のせいでなければ、丹波に言い聞かせるようなそぶりを見せつつ富久山も選ぶのは最後にしろよ、とのメッセージがこめられている気がする。
ミトサン、何気にお怒りなのかなぁ。
富久山は全く感じてないようだが、高橋先輩は分かったみたいでものすごく気まずそうな顔をしていた。
気まずいって感覚残ってたんだなぁ~
なんやかんやあったが、ジェラードが行き渡りみんなで食べる。
ちなみに、残り物をあてがわれたのは丹波でなく御堂筋さんだった。
女性陣とナナ先輩は、一口ちょうだい♪ハイどーぞ♪をしあって他の味も堪能できた。
「さーたん!一口ちょうだいな。」
御堂筋さんが並んで食べるナナ先輩とさや先輩二人の肩を後ろから抱き、口を開けて催促するがさや先輩はガン無視で食べている。
「ハニー!さーたん反抗期みたいや。口きいてくれへん!」
「さーたんは食事邪魔されるの嫌いなの知ってるでしょう。
あと、おとくんにあーんしたことなんて今まで一度も無いでしょう。というか重い!あっちいってて!!」
「ひどいわぁ…」
ヨヨヨ、と泣き崩れるふりをする御堂筋さん。
それを何となく眺めてから那珂先輩が言った。
「さっきから思ってたんだか…穂積さんのパーソナルスペースおかしくないか…?」
「スキンシップが激しすぎる気はする。」
松本先輩も頷く。
あー、確かに…女性やナナ先輩だと抱きつかれようが頬スリスリされようがかまわないさや先輩だけど、男性に対してはそんなこと無かったはず。
「学生の頃から仲良しなんでしょ、まして異性愛者でないなら感覚麻痺してるんじゃない?
絵面的にはアレだけど、御堂筋さんのさやさんへの可愛がり方って父親とか叔父さんが娘や姪っ子可愛がる感じだし。」
千里子さんが松本先輩のアイスを半分強奪しながら言う。
そして那珂先輩のも狙っている。
なるほど。
「この前、糸屑髪についてたのを取ってあげようとしたら、ものすごく驚かれたんだが…」
ミトサンが不意に言った。
「それはミトサンだからしかたがない。」
「水卜さんはその、なんと言うかちょっと…そのチャラいので穂積さん苦手なタイプかと…」
「なんなのお前ら…ひどくない?」
私の率直な意見と松本先輩の遠回しな言い方にミトサンはため息をついたのだった。




