幹事くらい、喜んで譲りたいですよ。
「そろそろ新人さんも慣れてきたし、歓迎会がてら部署の皆でご飯でも食べに行こうか。」
ダンディ上司こと大神課長が朝礼の最後に爆弾を落とした。
終業後に富久山をめぐる愛の劇場見せ付けられたり、恋のスパイスにされたりしちゃうのかしら。
憂鬱ダワー。
そんなことを思っていたのがいけなかったのかー…
「今回は幹事は女子二人に頼んでいいかな。
穂積さん美味しい店知っているだろう。頼んだよ。
ああ、別に呑み屋じゃなくていいよ。
ごはんを食べて解散の流れでかまわないし、曜日も皆が空いている日ならいつでもいいから。」
「は、はぁ…」
「わかり…ました…」
なんの因果か幹事に指名されてしまうさや先輩と私だった。
★★★★★
「おい、鈴木。」
「なんでしょうか、樋口部長。」
会議用の資料を運んでいた私は、いきなり樋口部長に行く手を遮られた。
邪魔だよどけよ、何気に重いんだよ。
内心悪態をつきながら澄まし顔で告げる私に樋口部長は偉そうに言った。
「歓迎会の場所、決まったのか。」
「…先程言われたばかりで業務もあるのに調べて決定しないといけないとおっしゃるんですか。」
課長にお話をもらったのはつい二時間ほど前。
さや先輩と私はランチの時にでも話そうと言って仕事に邁進していた。
「あ、そ、その別にに責めてるわけではない。
参考になればといくつか店の案内カードを渡そうと思ったんだ。たまたまデスクの中にあったからな。
この中の店に行くなら富久山の席の隣にしてくれ。
彼とはなかなか色々話したりできていないからな、交流したいんだ。」
樋口部長はそう言って私の持つ資料の上にお店の案内カードを乗せ去っていった。
乗せるなよ!
てか手伝えよ!!!
レディファーストや優しいフェミニストなど居ない。
いても、ただし綺麗な人に限るとかなのだろう。
案内カードを破り捨てたい気持ちを必死に抑えながら私は仕事に集中したのだった。
★★★★★
「やってられないですよ、さや先輩。
俺様パワハラで訴えたい。なにあの変に自信満々っていうか高圧的態度。
私のようなか弱いモブには辛すぎる。」
「ふふふ、パワハラで訴えたらアレに横恋慕して気を引きたくてやってると言われそうだから無理ねぇ。
訴えたら敗訴。
あと、千佳ちゃんはか弱くはないわ。大丈夫、センパイあなたが強い子だって信じてるから!」
「か弱いは否定されたけどモブには否定がなかった!」
「大丈夫、私もだから!
はぁ、モブならモブらしく私達の事はスルーで歓迎会してくれたらいいけど、それこそある意味いじめとか嫌がらせの類いに周囲から見えるからハブられることもないし…」
「俺様はともかく大神課長は人格者だから…」
はぁ…と二人でため息をつく。
今日は会社近くの小さなカフェの隅で私達は小声で作戦会議をしていた。
本当は社内で食べようか…と思ってたんだけど、富久山潤目当ての男達の鞘当てやら横槍が五月蝿そうな予感がしたので昼休憩開始と共にスマホと財布を持って逃げたのだ。
「千佳ちゃんのとこには俺様が行ったのね。
私のところは高橋君が来たわ。」
「えっ、この前の件で気まずくて近づかないと思ってたのに。」
先日…地味女子は美意識高い男好きのお客様にお茶出すのはちょっと事件が起きて以来、樋口部長と高橋先輩はさや先輩に対して及び腰対応だった。
さや先輩は開き直って仕事をしていたのに情けない奴等である。
「ほら、高橋君の今の仕事私通さないと終わらないじゃない。
普通に連絡事項のみ会話してたらなんか許された的な気持ちを持ったみたいで、穂積さん幹事大変だろうから俺が変わりますから~って言ってきたから貴方がちゃんと仕事をしてくれれば大変にならないから仕事をよろしくお願いいたしますって言ったら落ち込んで去っていったわ。」
「やっちまったな、ですね。」
「ふふ、富久山君にお熱で仕事に支障をきたしてとばっちりを私が被ったあげく矢面にたたされたことを忘れるわけないじゃないのよね~」
「しかし有象無象が富久山の隣またはすぐ側で食事したいがために色々言ってきたりするのは正直まいりますね~」
明るく笑って、そしてまたため息。
丁度、ランチプレートが運ばれ一気にテンションが上がる。
しばし、幹事の件は彼方にやって私達は楽しく食事をしたのだった。
美味しいランチおかげで気力が回復した私とさや先輩は、店を決めるのはとりあえず新人達に何が好きか、何を食べたいかを聞いてからにして席順はくじ引きにしようと決めたのだった。
★★★★★
ちなみに、さや先輩は普通にかっこよさげな新人に、私は富久山にそれぞれ好物や何が食べたいかを聞いた。
さや先輩が聞いた方…丹波は肉とか美味しいものをとにかくお腹いっぱい食べたい!で、
富久山はケーキとか甘いものがたくさん食べたい…だった。
女子か!!!
お前はゆるふわ系可愛い女子か…!!!!!
美青年な上、お酒は甘いのしか飲めないし弱く、お菓子が大好きな可愛らしい富久山に、生物学上女子として敗北しか感じずにはいられないのであった。
あー!!もー!!!
幹事やりたくなーい!!!!