さや先輩、昼休み返上する。
「穂積さん、チェックお願いします。」
昼休みまであと数分。
そんな時に高橋君がデータを送ってきた。いや、きやがった。
ねぇねぇ、その仕事ってさ午後一番で別の課に渡すものだったよね?
昼休みでチェックしないと間に合わないって気付いてる?気付いてないよね。
しれっとした顔で言ってくる高橋君に淡々と了承の返事を返したが内心は怒りが渦をまいている。
こんなこと、前はなかったのになぁ…内心で深くため息をつき気持ちを切り替えた。
最終チェックを任されているもう一人の松本君の進行状況を確認して、昼休みとなった。
千佳ちゃんが手伝ってくれると言ったがお断りしておいた。
一緒にいたらおしゃべりに夢中になる自信がある。
すると千佳ちゃんはコンビニのサンドイッチを奢ってくれた。パシられてくれた丹場君にも感謝だ。
千佳ちゃんは丹波君、そして二人のお守りをしますからと言い残して那珂君、午後頑張りますと松本君も言い四人で社食に向かっていった。
これで千佳ちゃんは大丈夫だろう。
気合いを入れ直し、仕事に集中するのだった。
★★★★★
誤字修正などなど地味にケアレスミスが多かった。
普段なら無いようなミスばかりでいちいち頭にくるわ、高橋君。
なんとか修正は完了し、保存後印刷のボタンを押す。
ことり、と紙コップに入ったココアが机に置かれた。
「千佳ちゃん?ありが…」
千佳ちゃんだと思ったら、何故か水卜さんがいた。
お礼を言いかけながら顔をあげ、固まってしまった。
そんな私に構わず、水卜さんは流れるように隣の人の椅子に座り背もたれに頬杖をつきながらこちらを見てくる。
「鈴丼じゃないけどどういたしまして?
まーた尻拭いしてるのか、穂積さん。
しかもそれうちの課に渡すやつだろ?担当はもう一人いたろ。」
「水卜さんココアありがとうございます。」
事情をあまり話すのもなぁと思い、軽く礼だけを言ってく会話を切る。
水卜さんはため息をつきながら言った。
「…なんか手伝う。」
「もう終わりましたから。」
「馬場課長の為に紙にもしてるんだろう?
それのチェックする。」
「水卜さん、別の課のフォローまですることないですよ。」
「基本はな。
ただ、後輩にはちゃんと休憩しろ、飯を食えと言うヤツが自分の事を後回しにするのは見過ごせない。
それ、鈴丼が金を出して、豆っ子が買いに走ったやつだろう。
穂積さん、自覚ないだろうけど顔色悪いぞ。
頼むからちゃんと食べてくれ。」
いつになく強い口調と真剣な目で言われ、思わずたじろいだ。
「…すいません…ご心配お掛けしました…
その…今から食べますので…チェックお願いします…」
おのれ高橋…と思うあまり、せっかくのサンドイッチもお茶にも手をつけずにここまで仕事をしていた。
水卜さんに声をかけられなければ、千佳ちゃん達が帰ってくるまで食べずにいて、心配されたり悲しい気持ちにさせていたに違いない。
情けなさから、若干声が震えた。
「…まぁ、ちょい強めに言ったのは悪かった。
使えるもんは誰でも使うぐらいの気持ちでいてくれってことだ。コピー室に印刷したの出てくるんだよな?
あと少ししたらあいつらも戻って来るだろうから、それ食べろな?」
水卜さんがコピー室に行ったのを目で追いながらサンドイッチを開ける。
一口食べると、急速にお腹が減ってきた。
お茶はすっかりぬるくなっていた。先ほど置かれたあったかいココアにホッとする。
黙々と食事する隣では水卜さんが真剣に文字を目で追っている。
黙っていればチャラチャラさが薄れ、なんだか普通にイケメンだ。
モグモグしていると水卜さんが顔をあげ、問題ないと教えてくれた。
タイミングが悪く大口でフルーツクリームサンドを食べたばかりだったので、口元を手で隠しながら頭を下げる。
「ぶはっ、リスみたいで可愛いな穂積さん。
じゃ、俺は戻ります。」
人の顔を見てふきだしたあげく去っていく水卜さん。
…可愛いって目がやはり腐っていらっしゃる…