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那珂 宏の憂鬱。




「なんか失敗したな~」



頭をかきながら水卜さんが戻ってくる。

いやいやいや、なに穂積さんの事を口説いてんですか?

あれが口説いてなくて挨拶だとすれば穂積さんにとっては大変刺激が強いのではなかろうか…




★★★★★



穂積さやさんは入社して配属された先の教育係だった。


大学までそこそこの成績できて、さして苦労もなく内定をもらえ自分は優秀だとあの頃は思っていた。天狗になっていたといえる。

新人研修もそつなくこなしており、教育係なんてつけてもらわなくても良いとさえ思っていたので、内心地味な先輩なんぞうざったいなんて考えてた。

そこそこにモテてきた事もあって惚れられたらめんどくさいな、なんて…今思い返すと羞恥心で穴に埋もれたい事を思ってたりもした。


むかうところ敵なし!と勘違いしていた俺は、ある時…とてつもないポカをやらかし、そのせいで取引先を失いかけた。

あまりの失態に、怒鳴られなじられ、沢山の迷惑を色々な人にかけてしまった。

鼻っ柱は折られ、プライドや自信はボキボキに折れて崩れて粉砕された。史上最大の挫折だった。


そんな中、当時部長だった大神課長が何度も俺を叱りとばしながらではあるものの最後までフォローし、各所に頭を下げて回りなんとか事なきをえられるように尽力してくれた。

取引先関係は大神課長が主に、そして社内の対応では穂積さんが矢面に立って対応したり一緒に頭を下げてくれた。

理不尽ななじりを俺でなく穂積さんにぶつける人間も中にはいて、俺の方が逆にくってかかりそうになり止められる場面もあったりもした。


謝罪行脚の途中、少し休憩しようと言われて自販機でコーヒーをおごられたのにもかかわらず、俺は穂積さんにくってかかった。



『なんで言い返さないんですか!

あんなのってないですよ!俺はともかくなんで穂積さんが…!!』



『那珂君、私の事は気にしなくていいんですよ。』



静かに穂積さんが言った。

困ったように、少し笑って続ける。



『社会に出るって、そういうことなの。

学校とは違う。理不尽な事も沢山あるし自分に非がなくても謝らないといけない事も沢山あるものだから。

今回、まぁ…ものすごく痛い思いをしたでしょう。

酷いことを言う人も居たけど、逆に力になってくれる人も居たでしょう。それを忘れないでね。

自分に余裕があったり、後輩を持った時には今度は那珂君が力になってあげてね。』







なんとかトラブルは回避でき、まぁその後も大なり小なり大変なことはあったが大神課長達に支えられながらなんとか仕事を続けていられる。


いつか大神課長を支えられるようになるのが今後の目標だ。



陰日向なく助け導いてくれたのは大神課長だが、つかずはなれず必要なときに必要な分だけ、もしくはそれ以上に助けてくれたりフォローしてくれるのはほとんど穂積さんだった。

樋口部長が来て、色々ごたついてしまったときも穂積さんがしっかり意見をしてくれたお陰で大神課長の手を煩わす事なく樋口部長の無自覚な威圧が解除され、良い流れで仕事ができるようになったり…

繁忙期で地獄絵図状態になった課がなんとか乗りきれるよう細やかな気配りをしてくれたり…

ギャル感が抜けきってなかった鈴木を一週間で手懐けてTPOをわきまえた格好に変えさせたり…

思い返すとほんとすごいな穂積さん。


色々あったけど課の雰囲気は良かった。

良かったはずだった…



新人のうちの一人、富久山が来てから少しずつおかしくなったように思う。

必要以上に富久山を構う人や、丹波とあからさまに対応が違う人も居るのだ。

富久山は秘書課の美女軍団に匹敵するぐらいには確かに綺麗な顔をしてる。

だが、あれはない。

なんだろうか、あいつおかしなフェロモンでも出てるんだろうか。

魅了状態ってやつかなぁ…一番酷いのは樋口部長と高橋さんだ。

まぁ、誰が誰を好きになろうとそれが同性だろうと別に勝手にしていれば良いと思う。

恋に浮かれることもあるだろう。

それは別にかまわない。

かまわないんだが…仕事に悪影響が出るのは困る。


一番被害を受けているのは穂積さんと鈴木だった。

鈴木はこの課にも大分なれたし、スキルアップを図れることも期待されて富久山の教育係を任されたんだか…他がちょっかいや変に庇い立てし過ぎて悪役に仕立てられかける事態になっている。

昨日の一件を穂積さんから聞いたときは驚いた。


丹波が孤立しないようそっちのフォローにかかりきりだったり、飲みの席で二人が変に悪く言われないよううまく立ち回ったつもりだが…結果、全然ダメだった。

けれども、そんな俺にも、



「あまり私達のフォローし過ぎたり無理に飲み会参加すること無いからね。飲み会は楽しく参加するのが一番だし。」



と、フォローをいれてくれる。

ほんとかなわないなぁと思う。











「水卜さん、パーソナルスペース狭すぎです。

あんなに近づいて可愛いねなんて言うのはよくないですよ。」



仕事以外で少しでも穂積さんが煩わされないように水卜さんに釘を刺す。



「ときめかせちゃうかな?」



なんでそこで言いながら嬉しそうな顔になるんですか、水卜さん。



「…すごい迷惑がるとおもいますけど?」



眼鏡をくいっとあげながら答えると、丹波が無邪気に言った。



「穂積先輩、こんな顔でしたよ!

ほら、チベスナ顔!!」



画像を見ると、確かにさっきの穂積さんと同じ様な表情だ。



「これがときめいてる顔ですか…?」



「…ない…かな?」



「害虫見る目じゃなくて良かったですね!」



丹波はもっと考えてから言葉を発するべきだと思う。

水卜さんは若干ひきつり笑顔で去っていったのだった。



とりあえず、鈴木は穂積さんがフォローするだろうから俺は丹波が暴走しないようにと、水卜さんが余計なことしないように見守る事を静かに誓うのだった。












そういえば名前を出してなかった寡黙系眼鏡男子の那珂(なか) (ひろむ) さんです。


表情に出ないだけでやや心配性で真面目な性格。





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