魔法使い。
丹波は七分前に戻ってきた。
さや先輩が昨日のうちに仕込んでいたという水だしのアイスティーを試飲していた時に駄菓子を献上してくれたので、さや先輩が丹波にもご馳走してあげた。
丹波よ、味がわかるんか?
「うっまっ!!!!
なんかよくわかんないすけど!!!俺の中のアイスティーの常識が覆った…!!!」
丹波は感動した。
丹波の舌のレベルが1上がった!!!
うんうん、そうでしょうそうでしょう。
私も初めてさや先輩に紅茶をご馳走になって文明開化した感じになったよ!!初めて牛鍋食べて感動した感じ!!
「丹波よ、ちょっと違いがわかる感じになったな。
さや先輩に感謝を捧げるんだ。」
「鈴木先輩はさておき、穂積先輩はまじ尊敬するっす!!!」
「おいおい、丹波。私も尊敬しろよ、さや先輩の次に。」
「俺の中の一位は断然水卜先輩ですが、次点で穂積先輩っす!!
鈴木先輩は先輩としてそこそこに思ってるです。」
「おいおい、丹波…
上等だ、表に出ろ、ナンバーワンはさや先輩だっつーの!!」
「ハイハイ、どーどー。
二人ともそろそろ朝会始まるし移動しましょうね。」
さや先輩の一言で我々のいさかいは終了した。
★★★★★
朝会後、さや先輩がこの前買ったプチプラ化粧品を差し出してきた。
「さや先輩、なんですか?これ?」
私の手には今夏流行色のアイシャドウが手渡された。
さや先輩は眉間に皺を寄せながら言った。
「今日…ほらあの、お茶くみ事案の時のお客様が来るのよ。
あの後、何回か指名されてお茶くみしてたんだけど最近は本題の前の雑談接待を任されてて…
色々あって連絡先を交換して、今日来るって聞いてたからあのアイスティー準備したんだけど、前回地味すぎだからワンポイント化粧頑張りなさいって言われたの。
自分じゃうまくできなくて…千佳ちゃんお願いします。」
「そんな理由でも大歓迎ですよ!
大変身させます!?もりもりにします!?」
「控えめでお願いします。
今すぐ控えめで。」
さや先輩は眉間に皺を寄せながら目をつぶる。
ちょちょいとつけてさりげなくグラデーションもつける。
一分もかからず終了する。
「どうですか?!」
「さすがだわ、千佳ちゃんありがとう。化粧室行ってる暇無かったから良かったわ。」
オフォスの隅で人目につかないようにサッと済ませたが本来なら化粧室にでも行くべきだった。珍しく焦るような勢いだったので受けてしまったけれど…
「さや先輩、それってどういう…」
「失礼するわよ~ぉ。
穂積ちゃんいるかしらぁ?」
私の問いかけに被せるようにオネェ口調なバリトンボイスがオフィスに響いたのだった。