秘密のサービス。
何事もなかったような素振りをして、仕事を終えた。
なんだか体が重い。しんどい。
ノロノロと立ち上り、片付けをする。
「じゃ、行こうか。」
笑顔でさや先輩が私の手を握る。
手を引かれて歩くなんて去年酔っぱらって千鳥足になって以来だ。
しゃべることすら億劫で、手を引かれながらぼんやり歩く。
そうして、綾城さんの店にやって来た。
「いらっしゃい。」
「こんばんは。」
「カウンターどうぞ。」
席についたとたん、目の前にはフレンチトーストプレートが置かれる。
アイスや季節の果物、生クリームがふんだんにあしらわれていて、盛り付けがとても綺麗。
そして、『たいへんよくできました』のスタンプを真似たものがチョコペンで書かれてある。
「これは…」
「こちら、頑張る千佳ちゃんにさやちゃんからです。」
にっこりと綾城さんが言う。
ああ、だめだ。こんなのされたら…
「うええぇぇぇ…」
涙が決壊した。
「千佳ちゃん、一日お疲れ様。大変だったね、よく頑張ったね。」
「ほらほら、泣いてもいいからお食べなさい。」
泣きじゃくりながら食べたフレンチトーストのスペシャルプレートはものすごく美味しかった。
私が食べ終わって泣き止むまで、さや先輩と綾城さんはそっとしておいてくれた。
優しさが嬉しくて、またなんか泣けてきたけど、そこはグッとこらえたのだった。
「落ち着いた?」
「はい。」
おしぼりにくるまれたアイスノンを目に当てながら私は答えた。
泣きはらしたので、このままじゃ目が腫れて翌日大変なことになるとのことで緊急措置だ。
さや先輩はお手洗いに行っている。
「さやちゃんに感謝しなさいね、千佳ちゃん。
わざわざ仕事の合間に連絡をして私に頼み込んでさっきのプレート完成したの。」
「はい…ヤバイ、また泣きそう。さや先輩、神。」
「いつかさやちゃんが困ったときは助けてあげなさいね。
今日みたいなプレート、頼まれてあげるわよ。」
「ふふ、ありがとうございます。」
辛いこともあったけど、その分…いや、それ以上に力になってくれる人や頑張りを認めてくれたり励ましてくれる人がいる。
それだけで胸が一杯だ。
なんとか明日も頑張れそうな…そんな気がする。
「千佳ちゃん、目の腫れ大丈夫?見せてみて。」
さや先輩が戻ってきた。
アイスノンを取って見せると頷いた。
「大分ましになったわ。
じゃあ、最後にあれをお願いします。」
「ハイハイ。特製ローストビーフ丼よ。」
きらきらと輝かんばかりのローストビーフ丼が現れた。
宝がそこにいた。
「いただきまーす!!
うまー!!!なにこれうまー!!!お口でとろけるー!!!」
夢中で食べた。
すごい美味しかった。
ちなみにさや先輩はローストビーフ単体をつまみにハイボールを飲んでいた。
★★★★★
「ごちそうさまでした!!」
「いえいえ、どういたしまして。」
相変わらず外は蒸し暑いが、昼間よりはだいぶ過ごしやすい。
なんと今日はさや先輩のおごりだった。
何から何まで心尽くししてもらって感謝しかない。
神!!!!!
来たときと全く違って清清しい気持ちで私は帰路についたのだった。