さや先輩、タイミングを掴む。
ああ、重い…
内心ため息をつく。
資料を戻しに行ったはずが、逆に返却資料やらちょっとした用事を頼まれてしまった。
まぁ、別にぎちぎちにやることはつまってないし、今までも何度かこんなことはあった。
さほど手間では無いが地味に疲れる雑務である。
波風立てたくないし、後々助けられたりするのでよっぽどの事がない限りは引き受けるようにしている。
できれば、終業前に水卜さんに千佳ちゃんの件で遭遇したかったがそれも難しそうだ。
終業後だと丹波君が側に居たり、千佳ちゃんが気にしそうだからできないしなぁ…
そんなことを考えながら歩いているといきなりドアが開き、思わず立ち止まる。
「あ、申し訳ない!」
抱えていたファイルがひとつ落ちるのと同時にドアを開けた主が謝罪する。
「いいえ、大丈夫です。
ファイルだけ拾って乗せてもらえませんか?」
「あれ、穂積さんじゃないか。
もつもつ。貸して。」
ごっそり荷物を引き受けてくれたのは、まさかの水卜さんだった。
なんという引きの良さ!!
この引き具合がゲームガチャでも発揮されればいいのに…!!!
「え、あの、大丈夫です、持ちますよ。」
「いやいや、いーって。一昨日豆っ子が失礼した詫びと思ってくださいよ。」
「はぁ…では、よろしくお願いいたします。」
譲る気配が無いのを察して、頭を下げて落ちたファイルを拾う。
那珂君も紳士だけどこの人もけっこう紳士だなぁとぼんやり思う。
チャラチャラ系は入ってはいるけど…
「あの、水卜さん…千佳ちゃんの事でご相談が…」
「やらかしたときはためらわず鉄槌下してください。」
「え…?
ああ、いや、千佳ちゃんが何かしたとかじゃなくてですね…」
鉄槌下せってアドバイスが出る千佳ちゃんの新人時代がものすごく気になったのだけど、あえて無視をして今日の一件などをなるべく淡々と伝える事に成功した。
「うっわぁ…なんだそれ…
ちょっと高橋どついてきていいですかね、いいですよね。」
「水卜さん落ち着いて。
手を出したら負けです。まぁ、急にキャンセルする方が面倒くさいのでバーベキュー参加はします。
なるべく樋口部長、高橋君、富久山君が千佳ちゃんの側に寄らないよう見てあげてもらえませんか?
お礼は酒でどうですか?水卜さん何飲まれます?」
「なんでもいけるかな。
いや、そんなお礼とか考えなくていいですって。
課は違うけど、一応大事な後輩ですからね。」
「お礼にかこつけて、ハンドルキーパーで酒の飲めない樋口部長や気まずくて声をかけられない勢に見せつけながら美味しい酒を飲もうと思ってるだけなので、お気になさらず。」
「ぶふぁっ!!
穂積さん、あんたイイ性格してるな!
それなら遠慮なくもらうから楽しみにしてる。
っと、ここの課だよな?じゃあ、また。」
「はい、ありがとうございます。
では、また。」
おつかいミッションをクリアした私は化粧室に飛び込んだ。
今の引きの強さなら、いけるかも…!!!!
十連ガチャは全部期待はずれであったー…