手の鳴る方へ
「…ただいまもどりました…」
物凄く不機嫌そうな顔をして我が部署のエース様が帰還した。
へらへらしているとチャラい感じがしないでもないが、表情が無かったり不機嫌だとその顔の綺麗さが際立つ男である。
「おかえり~、水卜。
穂積ちゃん止めなかったでしょ?良かったじゃない。心置きなく旅立てるでしょ。」
「それ旧姓ですからね?高頭さん。
お土産ねだられましたよ。キラキラした顔してね…!可愛いけど嬉しくない…
普通有り得ねーでしょうが。入籍した日に『入籍祝いだよぉ』って北海道行の出張費とチケット渡されると思いますか?!」
「まぁ、水卜は強い子だから大丈夫、大丈夫。
ほら入籍後に話持ってきただけ思いやりを感じてあげてよ。」
こいつの破局理由って長期短期の出張に関わらずその間に寂しくて相手の女が浮気するってのが一連の流れってのを聞いたときは笑ったわ。
仕事と私、どっちが大事なの!的な女を選ぶからそうなるのよ。
まぁ、幼少期から身近な女性があの姉と真城だったことを考えるとついつい守ってあげたくなるようなうさぎちゃん系女子に行ってしまうのは分からなくもないけど…
寂しいと死んじゃいそうになる系は、かまってあげられる余裕や囲い込めるような環境にないとうまくいかないもんよねぇ。
それでも懲りずにそっち系と付き合って、ふられてを繰り返し…最後は取引先の令嬢と婚約までしたのに浮気相手の子を身籠られて破談はかわいそうになぁって思うけど。
それで漸く懲りたのか、それ以来恋人作ってなかったと思ったら結婚するんだもの驚きよね。
相手が穂積ちゃんってのは…う~ん、もったいない気はするけどね。
穂積ちゃんが。
水卜は穂積ちゃんが嫁になってくれた幸せを噛み締めて生きていくがいいわ。
「さやちゃん一人残すの心配だったから鈴丼つけましたけど…何かあったら恨みますからね…?」
「穂積ちゃんはしっかりしてるから大丈夫よ。」
「しっかりしていて大抵のことはこなせちゃうから逆に心配なんですよ…」
「最大の懸念は樋口のことよね?」
「いや、別にあれは勝手に自滅ルート入ってるんでどうでもいい。
むしろ逆俺と結婚したことによりさやちゃんの魅力に気付いたあほどもに言い寄られないか心配。
あと他部署への引き抜き。他の所いかれるとさやちゃんの日中の動向がつかめない!」
「水卜って顔はいいけど思考が変態よね。」
「失礼な。夫として妻を案じてるんですよ!」
こいつ思考がストーカーよりすぎてるわ。こっわぁ。