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ちょっとは考えろ、頼む。

「遅れてすいませんでした、チェックお願いします。」



今日は憂鬱な月曜日。

朝から湿度が高く不快指数がとどまるところをしらないそんな週始め。

一応、新人の富久山の指導係的な私の所に午前中に終わっていなきゃならない仕事が午後に提出された。午後イチではない。

二時過ぎ…後数分で三時になる頃に、だ。

そりゃね、時間内に終わらない事はあるよ。新人だもん。

初めての仕事や内容、覚えることもたくさんあってパニックになったことだってある。

ミトサンをはじめ、先輩方にはたくさん迷惑かけたりフォローをしてもらって現在がある。



『いいか、鈴丼。

何も聞かないで、最終段階でできませんじゃ取り返しがつかない。どうしようもなくなる。

叱られると分かっても躊躇うな。分からないことが分からないでもいいからとにかく相談しろ、聞け。

途中経過を評価してもらえるのは学生までだ。

ただそれまでの頑張りも周りのヤツは見ていてくれる。

間違いは活かせ。そんで余裕が出てきたら手を貸すことも覚えろな。』



…と、よくミトサンに言われたものだ。

社会人としては当たり前の事で、入社したその日から実行しなきゃならないことなのだろうけど私はできが悪くすぐに身に付かなかった。

だからこそ、寛大ではありたいと思うし、フォローもしたいと思ってる。



思ってるんだが…



「富久山さん、午前中に間に合わない時はその旨を伝えるか相談してもらえませんか?

午後になるならなるで何時までにできそうか等目安を伝えてください。」



「そうですね…申し訳ありませんでした。」



「今回提出が遅れた理由は分かってますか?

それを理解して次に活かしてもらいたいんです。」



「……」



理由ね~

隣のデスクの高橋先輩と楽しくおしゃべりしてたからでしょうね。

手がすっかりお留守でしたもんね。

それで無意味に樋口部長にコピーを頼まれて、コピー室で仲良くおしゃべりしてましたもんね。

昼休みの十分前くらいからそわそわしながら時計やスマホチェックして、時間になったと同時に高橋先輩と仲良くご飯を食べに行き、休憩時間終了五分前にアイスクリームトリプル食べつつ席につき、食べ終わる頃には休憩時間オーバーしてましたもんね。


私は、午前中に富久山からの仕事が回ってこない事に嫌な予感しかしなかったので出来る限りの仕事を終わらせるため、デスクに張り付き、昼ごはんはさや先輩がコンビニにおつかいしてくれて仕事してましたよ。

ほんとはこんなことしたくないんだよ!!



富久山はだんまりだ。

私も無言で答えを待つ。



「鈴木さんさ、そんなカリカリしないでもっと優しく教えてあげれば良いと思うけど。」



高橋先輩がやって来て言った。

正直、お前が言うなである。わざわざ離れた所からやって来て、ナニ言ってるの?である。



「カリカリしているつもりは全くありませんが。

報告、連絡、相談、そして反省と見直しは大切であると教わってきましたのでそのように対応しているんですが。」



「だからさぁ、その言い方。

なんか感じ悪いよ?聞いていて富久山がかわいそうになるよ。

なんでそんなカリカリなの?

富久山が綺麗だからって僻むのよくないよ?」



その瞬間、この人達とは分かり合えないな、と静かに思った。

高橋先輩はそれなりに仕事に関しては富久山登場以前は尊敬してたがその気持ちも吹き飛んだ。

侮蔑しか感じない。



「…鈴木さん?

なに黙って。もしかして図星だった?

…なーんて…え…と…あ…冗談に決まってるだろ?ははは…」



なにか言い返したいのに、不快感で言葉が出ない。

ただ、高橋先輩の顔を黙って見るしかできない。私がなにも反応しないので、ちょっと焦ってるが知ったことじゃない。



「千佳ちゃん、はい、お茶。

あったかいのだからゆっくり飲んで、座って。ね。」



目の前に私のマグカップが差し出された。

自分の席に座るとすかさずマグカップを握らされた。

中身は抹茶オレだ。備品で置いてないから多分さや先輩の私物。



「害虫見るみたいな目をしてたわよ?まぁ、仕方ないとは思うけど。」



マグカップから目をはなせなかった。

高橋先輩を見たくない。富久山も見たくない。



「高橋君、言って良いことと悪いことがあると思うわ。

はじめに言っておくけど、鈴木さんも私も富久山君が綺麗だからって僻んでないし、仕事がまわるなら正直相手の顔とか美醜なんてどうでもいいの。

それだけは覚えておいて。二人とも。」



「は、はい…」



「す、すいませんでした。」



すごすごと去っていく二人の気配がした。



「さや先輩、ありがとう…ございました…」



「なにいってるの。当然の事をしたまでよ。ふふ。

頑張ってるの、ちゃんと見てるから。大変かと思うけどそれ飲んでもうひと頑張りしよう。今日、月曜だけど綾城さんの所行こうね。」



「はい。」



顔をあげたら久々に涙がこぼれそうだった。

俯いたまま返事だけさや先輩に返す。


なんとか堪えて少しずつ、抹茶オレを飲む。

甘くて優しくて…




そしてちょっとしょっぱい味がした。










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