祭りの前。
「おはよーございます…」
生気の無い声に振り返ればそこには鈴木が居た…のだがげっそりした顔をしている。
「どうした鈴木、顔色悪いぞ?調子悪いなら無理すること無いと思うが…」
「はは、あー、いや疲れてるだけです…もうしばらく二つ折りとホチキス止めしたくない…」
「なんか知らんが、お疲れ様。倒れないようにな?」
「夢と希望と萌のために私は働きますよ…」
鈴木、とても遠い目をしてるが大丈夫なんだろうか。さすがに心配になったのだった。というか、萌って何だ?
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「おはようございます…」
「おはようございます。」
「おはようございます。」
オフィスに入れば出入り口すぐに移動になった穂積さんが笑顔で迎えてくれる。後ろから朝日が射し込んでるのでなんだか後光がさしてるみたいになってる。
「千佳ちゃん、二日間お疲れ様。朝御飯は食べたの?」
「あー…食べる時間なくて、ゼリー飲料買ってきました…」
しょぼんと鈴木が言う。
お前、大丈夫か?朝ごはんは食べないと死んじゃう系って自己申告してたよな?
「あ、それなら昼にと思ってたんだけど…これ食べる?」
穂積さんのデスクの上に鎮座していた大きいかごのランチボックスが開かれると…
「うっわあぁぁぁ~!!」
「すごい…」
クロワッサンサンドが沢山入っていた。
「ほら、前に千佳ちゃんコストーコのクロワッサン食べたいって言ってたでしょ?
土曜日に行ったときクロワッサンを買って冷凍しておいて、朝作っておいたの。一緒に昼に食べようと思って。まだあったかいと思うわ。」
「さ、さや先輩!!好き!!!」
「ハイハイ、ありがと。ハムチーズと、卵とツナ、ブルーベリーのクリームチーズの三種類。どれが良いかしら?」
クロワッサンサンドって自宅で作れるもんなのか…
ちゃんとフィルムまでしてあるので、お店のものって言われれば信じてしまいそうなほどだ。
「えー!えー!?ええー?!!!ハムチーズ!!!」
「那珂君もよければ食べる?」
「え、いいんすか?じゃあ…卵とツナもらいます。」
思いがけずおこぼれにあずかった。
めちゃめちゃ美味しかったです。
「おはようございます…って二人とも何してるの…?」
俺達が食べ始めると、丁度出社してきた松本が不振そうな顔を向けてくる。
「ほら、鈴木お前女子としてその食べ方はどうかって言われてるぞ。」
「那珂先輩こそ、無駄にイケメンなのに台無しですよ。」
「いや二人とも、家じゃないんだからそういう食べ方はやめた方が良いと思います。社会人として。」
個人で所持しているゴミ箱を抱えてクロワッサンサンドを食べていた俺達は珍しく松本に軽い説教を受けたのだった。