うたれる。
可愛い顔して大食らいの紫苑さんに驚愕したパン屋を出で、コストーコに開店と同時に滑り込むことに成功した。
まずは、お目当てのハモンセラーノを二つゲットする。
はじめに二個買うって聞いたとき多いんじゃないかな?なんて思ったけど、紫苑さんの食べっぷりを見るに妥当な判断だったことを思い知った。
「じゃあ、各自ほしいもん見て来るといいよ。
俺はカート押してゆっくり見て回るからそれぞれとってきたらかごいれてまた行くようにすればいいと思うぞ。
制限時間は40分な。」
水卜さんの一言で我々は各自欲しいものを求めて歩き出したのだった。
うわぁ、紫苑さんと田中がダッシュしたよ…
松本が慌てて追いかけ、穂積さんは水卜さんが欲しいものはないか聞いている。
田中が走るのは分かるが紫苑さんまで走るとはおもわなんだ。
意外にアグレッシブなんだなぁ…
俺も目指すワインを求めて歩き出したのだった。
★★★★★
ワインを決めて水卜さんに預けた後、今度はチーズを探しに行く途中に穂積さんを見つけた。
なにかを取ろうと必死に背伸びをして三分の一ほど取り出したはいいがそこまでしか動かせなかったようで、その状態でプルプルしている。
あ、いつもだと低いけどヒール履いてるのに今日はぺったんこ靴だから届いてないんだ。
とりあえず、救助に向かう。
「穂積さん、これでいいんですか?」
声をかけ、背後に回って穂積さんが必死に手を伸ばしていたものを持つ。
「え、あ!那珂君、ありがとう。助かるわ。」
そう言って半ば後ろを振り向きざまに見上げてくる穂積さん。
そしてにっこり笑う。
「……っ!ど、どういたしまして。なんですか、これ。」
「洗剤なの。ものすごく漂白されるって話題で!ずっとほしかったのよ。ありがとね~」
洗剤を受けとると、カートの方に去っていく。
その背が完全に見えなくなったのを確認して、俺は顔を覆ってしゃがみこんだ。
「那珂?どうした?」
「み、水卜さん…」
数分間はしゃがんでたのだろうか。
不意に声を掛けられ顔を上げれば水卜さんが心配そうな顔でこっちを見下ろしている。
「顔赤いぞ?体調悪いのか?」
「え?いや、その…穂積さんって可愛かったんですね…」
「どうした、急に?」
「いや、実はさっき…」
先程の洗剤をとってあげた件を話す。
なんだか振り返った穂積さんがとても可愛いらしくて思わずときめくというかなんというか…赤面してしまったのだ。
「ばっがだなぁ~那珂。
ずーっと同じ所で仕事してお世話になっといて…今ごろ気づいても遅いんだよ。」
水卜さんが心底楽しそうに言った。
「那珂も、さやちゃん本人もなんで可愛らしいこと気付かないのかなぁって俺は思ってたけどね。
あ、那珂チーズ見に行くって言ってたよな?カートが積載量の限界をむかえそうだからついでに取ってきてくれる?」
「あ、はい。分かりました。」
どうしてか、妙にもやっとしながら俺はチーズとカートを求めて歩き出したのだった。