教えてあげるっ!
「そーいや、穂積先輩お見舞いの品他のとこででよく受けとりましたね。遠慮しそうっすけど。」
無言の攻防に飽きた丹波がなんとなく言った。
「コツを水卜先輩に教えてもらったので、俺はミニブーケ押し付けることに成功したよ!」
ニコニコ磯崎が言う。
あ!戻ってきた時持ってた花はそれか!
というか水卜さん、どんなコツですか?!
「穂積さんは基本男性から何か受けとりたがらない人なのに…
ちなみにコツを教えてくれたりする?」
松本が尋ねると、磯崎は頷いて教えてくれた。
「絶対選ばなそうな選択と選ぶかなぁ?と思われる選択の二択を出して絶対引かなければ良いって言ってましたよ。
俺は受け取ってもらえなければゴミ箱行きですって言って押しきりました。」
「わぉ~水卜君えげつなーい!!
じゃあ秘書課か営業かで迫れば来てくれるかな~」
「させないからね?馬場君?」
「呼び方変えたときと同じパターンですねぇ…
あー、でも俺には無理そうかな。押し負けちゃいそう…その時は那珂頑張って!」
「難しいだろ、樋口部長すらはねのける人だぞ。」
「えっ、なになに呼び方って?!」
目をキラキラさせて聞いてくる馬場課長に、さやちゃん呼びじゃダメならさーたんって呼ぶよ~?事案を伝える。
「へぇ~…」
そう言ったきり、ニヤニヤして黙る馬場課長。なんか怖いんですけど。
そうこうしているうちに、蕎麦が来たのでカツ丼を頼んだ丹波以外は昼食を開始したのだった。
★★★★★
俺達の分は大神課長が、磯崎の分は馬場課長がそれぞれおごってくれた。
丹波すら恐縮している。大神課長効果すごい。
「みんな頑張ってるからねぇ。ご褒美だよ。
頻繁におごれないのは申し訳ないけどね。とりあえず元気に夏を乗りきってほしくてね。」
「や、優しい…
俺役に立てるよう頑張りますね!!」
「まず話を聞け、丹波。」
「基本を大事にしようか、丹波。」
大神課長の優しい笑みと言葉に丹波がキラキラした目を向けながら言うので、俺と水海道先輩とで釘を刺す。
「そーいえば、那珂さん達は水卜先輩と仲良しなんですね。
バーベキュー行ったり飲みに行ったりしたって聞きましたよ。」
隣を歩く磯崎が聞いてくる。
「仲良くさせてもらってるのかな。
お世話になってる感がすごい気はするけど。穂積さん関連とか、あーあと樋口部長に太刀打ちできるのがほんとすごいよ。」
「あー!樋口部長って高頭さんがよく顔だけクソ野郎って吐き捨てる人!!あの人顔は良いですよね!
なんか俺がここに来てからあまり活躍を耳にしませんけど…そんなすごい人なんですか…?まぁ部長だからすごいんでしょうけど…」
磯崎の素朴な疑問に俺と松本は顔を見合わせた。
昨年は難しい企画いくつか成功させたはいいけど、課の人間を死屍累々にする惨事になったけど特に労いもなく年度が切り替わったな。
前半戦は水海道さんと穂積さんが、後半戦は穂積さんと時々水海道さんと復帰した大神課長がフォローに駆けずり回って人望を集めた記憶しかない。
「……………」
「き、企画立案はすごいし、それをこなせるスケジュールや実力はあるんだけど、同じものを他にも要求する所はあるけど…ゆ、優秀な人だよ…」
黙りこむ俺の代わりに松本が答えてくれる。
「松本さんに那珂さん二人とも目が死んでるんですけど…?」
「そっとしておいたげて磯崎君。
昨年度のとばっちり業務の闇を思い出してるだけだから。二人はね、自分達は独身ですから先にどうぞ…って子持ちの先輩を先に返してくれたり色々してくれたんだよ。
その分、負担も大きくてね…最終日間近はほぼ終電とかタクシー帰りしてたんだよ…」
水海道さんの目も暗い。
「や~。実は松本と俺と穂積さんとで泊まり込みました、あん時…」
「クリスマス間近だったね…あー、穂積さんがご飯手配してくれたり給湯室で簡単な汁物温めてくれたりして…ほんとありがたかったです…」
しみじみ言うと一瞬静まりかえる。
「えっ、帰ってなかったの?!聞いてないけど?!」
「それは…私も把握してないなぁ。ちょっと詳しく聞かせてくれるかい。」
「うっわぁ~コンプラやば~い!!」
あっ、そういえば内緒にしとこうって言ってたんだった…
口を滑らしたのに気付いても遅かった。
目が笑ってない大神課長と水海道さん、そして馬場課長に松本と俺はすぐ目の前にせまった社に連行されてしまったのだった。
「俺らアイス食べてから帰るっす!」
「ではではまたー!」
空気を読まない新人どもは明るく手を降って逃げていったのだった。




