お茶くみしますけど。
令和初のお話は現代オフィス(ある意味)ラブでお届けです。
とある会社のとあるオフィスで働く私は就職して四年目の地味目のOLさんである。
私はいたって普通な地味女子であるが、周りは普通とは言いがたい。
ダンディな上司やかっこいい上司、先輩、同僚、後輩ー…キラキラ目に痛いほどの美しい男達に囲まれているのだ。
なにこの美形率。
しかも人員も男性に片寄っている。私の他の女性はさや先輩のみという男女率の職場で、私達は地味女子だ。
美形率も片寄っている。
そんな中にやってくる美青年の新人+普通の新人(顔はそこそこ整っている)達。もちろんどちらも男性だ。
オフィスに新たなる恋の予感ー…!!!!!
まぁ、勘の良い方なら分かるだろう。
恋の予感は、私やさや先輩ではない。
男性達に、である。
そう、この世界はー…
男性同士が愛を育む事に寛容な、BLになりやすい世界なのである。
★★★★★
六月に入ったとたん雨が降るというか、スコールなん?これ?というようなどしゃ降りの日、我々の部署に来客があった。
お客様にお茶だしてね、ああ、富久山くん、手が空いてるなら頼むよ~とダンディ上司が一言残して去っていく。
富久山くんこと新人の富久山 潤はお前モデルかなにか?俳優さんですか?と言いたくなるほどの美形さんだ。
「じゃあ、お茶の用意してきますね。」
「待て、富久山。
今日のお客は例の客だ…私が代わりに出す。」
「樋口部長、俺が。」
「いや、私自らの方がいいだろう。なにか粗相があっては困る。」
「大神課長は俺に頼んだんです、できます、やらせてください。」
「いや、だからな!今日のお客は…」
「大丈夫だ、富久山。
俺が代わりになるからお前は心配するな。」
「いや、高橋さん…頼まれたの俺なんですけど。」
「私は認めないぞ!」
なんか知らんけど揉め事が始まった。
とっとと茶を出せよ。遊びじゃねーんだよ、仕事しに来てんだよ。
おっと、口が悪くなりました。
なんか知らんが、富久山にラブな樋口部長と高橋先輩がバトルしているのだ。
ちっちゃいことで揉めてとばっちりは時々私、だいたいがさや先輩にいく。
今日のお客は…男性好きで知られる方で、富久山が目をつけられるのを怖れてのバトルだと思われる。
いや、お客来てるんだからさっさと茶を出さないとやばいやろ?
頭のなかでつっこむが、私も仕事の手が離せないので何も言えない。
「紅茶でいいですよね。いれてきましたので持っていきますよ。
先ほど手も空いたので。」
さや先輩が給湯室から出てくる。
手には紅茶とお茶うけを乗せたお盆を持っている。流石だ。
「いや、それはいい。」
「穂積さんの手を煩わすまでもありません。」
「穂積さん、ありがとうございます!
課長に頼まれたの俺なんで持っていきますよ。」
いきなりトーンダウンする樋口部長と高橋先輩。
おいおい、気遣いできるさや先輩が持って行くのに何が不満なんだ。
「女性を使うのは、その、な。」
「あのお客はその、選り好みもあるし、気難しいし。」
「とにかく、お茶を渡すのはこちらでやるから、お盆を渡せ。」
「いや、俺が。穂積さん、お盆ください。」
おっと、これは…
「だから…!!」
「富久山君、私のような顔で花もない女が運ぶより綺麗な人がお茶をお出しした方がいいみたい。
もうこのやり取りで時間を無駄にしてるんだから、申し訳ないけどあなたが持っていってくれる?
いいわよね、さあ早く行って。」
空気が凍った。
さや先輩はにっこり笑っている。
富久山はすぐに出ていってしまって、この気まずい空気に気付かなかったようだ。
「ほ、穂積…その、これは…」
「樋口部長、察しが悪くて申し訳ありませんでした、私のような顔面偏差値がお茶を出そうなんておこがましかったですね、
けれども今日のお客様はお茶の味にうるさいかたですので、僭越ながら私が入れさせてもらいました。」
「いや、その、穂積さん、あの…」
「高橋君、気を使わなくてけっこうですよ、ふふ、これからは私はお茶入れだけに専念します。
持っていくのは他の男性社員の方にお願いしますね。
樋口部長も高橋君もお茶を出すことも自分の仕事としてみてくださるなんて素晴らしいですね。
他の所は女性社員が任される事が多いのですけど、ありがたいことです。」
ほうほう、樋口部長と高橋先輩はようは自分の思い人である麗しの富久山が男好きのお客にお茶を出して目をつけられるのは困るけど、地味女子がお茶を出すのも花が無さすぎて嫌ということですな。
ふざけんな、クソ野郎。
社内というか社外でも話題になるらしい美形率を誇るといわれる部署でお茶を出すのが地味女子じゃあ格好がつかんということですね、そうですね。
自分の地味さは知ってるけど本気でふざけんなよ、クソ野郎。
空気は凍り、口が回る樋口部長も高橋先輩も黙りこんでいる。
さや先輩はスッゴイ笑顔だ。なんか黒い。ステキ!!
仕事をしている他の社員の手も止まっていた。
「ついでにみんなのお茶もいれましょうか。紅茶でいいですよね。私はお茶入れるのわりと得意なんですよ。
欲しい方手をあげてもらえます?」
穏やかな声と黒い笑顔でさや先輩が言うと、みんな手をあげた。
気まずい雰囲気の中の救いは、お茶がべらぼうに美味しかった事だった。
私は益々さや先輩の事を尊敬したのだった。
★★★★★
ちなみに…
さや先輩のお茶に感動したお客は、シェフを呼んでちょうだい!的なノリでさや先輩と対面を果たし、大変気に入られたのだった。
四話まで作成してあるので、とりあえず四日間は毎日更新です。