第49話:巨大化した『アレ』(2) v0.0
_皇城、第三階層
「ど、どうします!?あれ!?」
隊員の一人が焦った口調で言う。
「あ、あれ気持ち悪すぎねぇか!?」
隊員達が見た物。あえてオブラートに包めば台所に巣喰い茶色の見た目をしたとても素早い雑食の大量に繁殖する生き物。ダイレクトに言えば、ゴキブリ。独自の進化を遂げたのか、そのサイズは既知のものと比べても数十倍・・・40センチくらいだ。しかも細部もそのまま巨大化し、もはやゴキブリを眼前で見ている気分になってしまう。それが数十匹、天井にくっついてカサカサと言う音を立てながら這い回っている。まさに地獄絵図だ。集合体恐怖症ならその気持ち悪さもあってイチコロだろう。
「あれ・・・大丈夫なんですかね?」
隊員が見てはならないものを見たような目で隊長に聞く。
「さっきの叫び声でも気づいていないみたいだからな・・・下手に手を出すとまずい」
隊長は動揺を隠せない声で静かに言う。
「お前ら!フラッシュライトを消して物音を立てずに進むぞ!」
「え!?イヤイヤ待ってください!他にも道あるでしょう!?」
まるで嫌がるような声で隊員が言う。
「だがもう時間がない!」
隊長はそう言うと、腕につけた腕時計を指差す。
「ですが!」
「ですがもこうもない!こうしている間にも、陽動部隊を殲滅した敵の援軍がやってくるかもしれないんだぞ!?」
その声で、隊員はやっと気づく。
「・・・わかりました。とっととあそこを通過して、目標を確保しましょう」
「わかってくれたか・・・。バスケス隊員!TB&PP-5を構えておけ!中腰で奴らの真下を通過するぞ!」
『了解・・・』
隊員達はあの不快害虫《G》に対する警戒を怠ることなく、中腰になる。
「た、隊長・・・あなたが先頭行ってくださいよ・・・」
「わかってるって」
第一陸戦隊は隊長を先頭に、不快害虫の真下通過《G》を開始した。
「う・・・うぇ・・・」
隊員達は頭上の不快害虫《G》達が発するひしめき音をこらえながら、ゆっくりと下を通っていく。
カサ・・・カサカサッ・・・
「よし・・・もう直ぐだ・・・もう直ぐ・・・」
不快害虫《G》嫌いの隊員がそう言った直後だった。
キュッ__ドサッ!
『ッ!』
よりにもよって不快害虫《G》のひしめく真下で、隊員が盛大に音を立てて転ぶ。その音を察知した不快害虫《G》達は一斉に捕食活動を開始。次々と天井から舞い降り、隊員達を喰さんとこちらへと向かってくる。
「全員応射ァッ!あの扉まで向かえェッ!」
バババババババババババッ!
隊長が出口があるであろう扉を指差し、隊員達は応射と並行してそこへと向かう。隊員達が銃のトリガーを引き、銃弾が発射されるたびに発生するフラッシュによって幻想的な空間と化していく。
「こ、こいつら予想以上に速いぞ!」
さすが巨大化した不快害虫《G》。速度も尋常ではないほど速く、銃弾をヒョヒョイと避ける。おそらく一般人なら一瞬で追いつかれるだろう。
「おい!バスケス!ドラゴンブレス弾を使えッ!」
「ほいほーい」
隊長が言った『ドラゴンブレス弾』とは、内蔵したアルミやジルコニウム(人口ダイヤ)などの発火性粉末を着火して発砲する銃弾である。発射時に花火のように火が尾を引くことから主に娯楽用として用いられれる。今回はあくまでも威嚇用として持っきただけで、建物を燃焼させてしまう危険性もあるため実際に戦闘に使うつもりはなかったがこの際仕方ないだろう。
「お前ら!バスケスの射線に入るなよ!」
『りょ、了解ッ!』
「ってお前何してんだ!?」
隊員が射撃の合間に叫ぶ。ドラゴンブレス弾入りのドラムマガジンを装填したバスケス隊員はなんと、予備のTB&PP-5を左手に、先ほど使用したTB&PP-5を右手に持っている。
「お、おい!早まるな!まだお前が死んじゃ」
ババンッババンッババンッババンッババンッ!
バスケス隊員は他の隊員の忠告を無視してまさかの合計2丁による同時射撃を敢行する。反動軽減装置を用い、驚愕の反動軽減率90%を達成したTB&PP-5でなければ不可能な技だ。
TB&PP-5の銃口から放たれたドラゴンブレス弾は綺麗な尾を引き不快生物《G》に着弾、油分を置く含んでいるのだろうか。あっという間に引火して数匹が燃え尽きる。
「よし!その調子で撃ち続けろ!」
先に扉についた隊長は援護射撃を続ける。それに合わせて隊員達は応射を止ませることなく、たどり着いた者から扉の中へと次々に飛び込んでいく。
「よし!これで最後だな!」
ドゴンッ!___ドンッドンッ!
不快害虫《G》との距離が数メートルほどしか空いていない最後の隊員が扉に入る。それを見た隊長は後続の隊員がいないことを確認すると、勢い良く木製のドアを閉める。減速が間に合わなかった不快害虫《G》たちは芋づる式に次々と扉や蔦のようなものが生えた石壁に大きな音を立てて衝突。石壁から少し石の粒が落ちる。
「これじゃ長くは持ちそうにないな・・・仕方がない!前進だ!前進しろ!急げ!」
苔の生えた石壁の様子を見た隊長はハンドサインを交えて言う。
『了解!」
隊員達はただただ不快害虫《G》から逃げるため、先の見えない真っ暗な一本道へとフラッシュライトを照らし進んで行った。