第41話:歓迎されぬ訪問者達(1) v0.0
_帝都南部、1キロ地点 城壁
主に巨蟲や森に住む魑魅魍魎の魔物達を帝都に入れないために作られたここ南部城壁。数メートル近い厚さと、数十メートルもある高さが売りのここで働く警備兵はいつも何も起こらないので決まって仕事をしない。
「・・・はぁ」
城壁の上から森を眺める一人の警備兵もそうだ。
「お、どうしたのさ?」
「いやね・・・なんと言うか暇」
「そう言うことは言わない方がいいと思うがね?」
同僚は向こうに立つ黒いローブを羽織った人物を指差す。
「あー・・・あいつか」
昨日起きた帝都襲撃事件(仮)で帝都防衛施設が全滅。敵の本格的侵攻に備えてこの南部城壁には数万人が動員・即時戦闘可能の状態になっている。黒いローブを羽織った男はスパイや不穏分子の駆除のために派遣された者で、帝国に対して何か一言でも都合の悪いことを言えば理不尽にも瞬殺されてしまう。故に彼らは派遣された兵士からも、元いた警備兵達からも毛嫌いされた存在となっている。
「せめて仕事してるよー感は出さないとな・・・」
警備兵は長い槍を担ぐと、黒いローブを羽織った男の反対方向に向かうことにした。
「にしてもさ、聞いたか?」
「ん?」
「これって噂なんだけどな・・・あの帝国さ?ここ最近やばいらしいんだよ」
警備兵はピンときたかのような顔になる。
「第五文明大陸統一・・・か?」
ここ最近巷でも噂になっているヴァルティーア帝国による第五文明大陸統一計画。あくまでも噂なのでこれの出どころも信憑性もない。それでもあの帝国はダーダネルス帝国にとって点滴のような存在なので、一応国民達も警戒程度はしている。
「そうだ。まぁ、あそこは島国みたいなもんだしきっと島国生活に飽きたんだろうなぁ・・・」
「てことはここに増員されたのもそれが原因なのか?」
「いや、ここに増員されたのは違う理由らしい」
「違う理由・・・なんなんだろ・・・」
警備兵は頭を抱えて悩む。
パパパパパパパパパ...
「・・・ん?」
どこからともなく突然、奇妙な音が鳴り始める。
「なんだなんだぁ?」
警戒兵は目を凝らして辺りを見渡す。城壁の内側で待機している兵士たちもそれに気づいたようで、続々と壁の上に登って様子を見に来た。
「一体なんだろうな?」
同僚も目を凝らして辺りを見渡す。
バババババババババ...
「・・・あっちか!」
徐々に音が大きくなるにつれて、南から音が出ていることが判明する。
「うーん・・・ん?」
警戒兵が目を凝らして南側の森を凝視すると、何か違和感を覚える。
「あの木・・・浮いてる・・・」
林の上に幾つかの緑色の物体が浮いている。一体なんだろう、とさらに目を凝らす。
「・・・!?」
徐々に近づくにつれて露わになるそのシルエット。それを見た警戒兵は、驚愕した。
「ま、魔導師ィッ!帝都防衛部隊に報告ッ!敵、確認せりィッ!」
警備兵の目には、低空ギリギリを常識外の速度で飛翔する何かが見えていた。なぜだかわからないが危機感を感じた警戒兵は魔導師に魔導電信で報告を行うように伝える。その時だった。
ババババババババババババババババババッ!
「うわぁっ!」
城壁の上にいくつもの土埃と城壁を構成する石の欠けたものが飛散する。中にはそれに巻き込まれたのか、城壁の内側に血を撒き散らしながら落ちる者も発生した。
「ふ、伏せろぉっ!」
兵士の一人がとっさに叫ぶ。兵士たちはそれに呼応するかのように次々とうずくまる形で姿勢を低くした。
ババババババババババババババババババババババババババババッ!
その瞬間、頭上を何かが尋常ではない量通過する。
「な、なんだったんだ...?」
轟音がだんだん治っていくのを確認した兵士たちは顔を上げる。
「・・・!おい、あれを見ろ!」
兵士の一人が後ろを指差す。兵士たちは一斉に後ろを振り向く。
「・・・ッ!」
兵士たちの目には、土埃を舞い上げ轟音を響かせながら飛び去ったそれが一直線に帝都へと向かっていることのみが確認できた。