第40話:(物理的に)眠らぬ帝都 v0.0
_帝都襲撃事件(仮)が起きた日の夜
「お前ら。準備はいいか?」
周りが本格的に暗闇に包まれだした頃、帝都の南側の森で延々と待機して居た海兵隊員達は、やっと訪れた出番に興奮を抑えきれなくなって居た。
「おう!」
2つの突起から放たれる目のような2つの黄緑色の光___ナイトビジョンゴーグルをつけた彼らは皆一斉に呼応する。
「よぉし!総員発射準備ィッ!」
ある海兵隊員は手に空砲用弾薬を持ち、ある海兵隊員は迫撃砲の発射準備を整える。
「・・・発射ァッ!」
_帝都ディオニス、皇城
ポンッ!・・・ポンッ!
突如として帝都中に響いた異質な音に、先ほどやっと眠りにつけた寝間着姿の皇帝は瞬時に目が覚める。
「な、何が起こった!?」
あまりにも突然の出来事だったので、寝室の外で警護をして居た兵士にとっさに状況説明を求める。
「こ、皇帝・・・私達も何が何だか・・・」
兵士たちもさっぱりな様子で、どうやら彼らがしたことではないのだろう、と皇帝は思う。
ポンッ!・・・ポンッ!
その矢先又しても先ほどと同じ異質な音が辺りに響く。
「く、くそっ!伝令兵!」
皇帝は思い出したかのようにそばで待機していた伝令兵を呼びつける。
「はっ、ここに」
伝令兵は敬礼をすると、無言で皇帝の前に立つ。
「新総合司令官を呼べ!今すぐにだ!わかったか!?」
伝令兵は「わかりました」とだけ言うと、石造りの松明が壁のいたるところに立てかけられた廊下の向こうへと走って行った。
「一体何が起こっているのだ・・・」
状況を理解できていない皇帝はただ、そう呟くことしかできなかったのだった。
_夜が明けた頃、帝都ディオニス
結局伝令兵に新総合司令官を呼ばせに行った後も奇妙な音は延々と続き、皇帝はあの後一睡もすることができなかった。警備兵達に帝都の周辺を捜索させたが、まるで警備兵達の行動を手に取るがごとく知っているかのように音は止み全くの無駄足だった。
「糞・・・帝国が・・・帝国が弄ばれてはならん!そう!ならんのだ!わかるか!?総合司令官!?」
玉座に座った状態で皇帝は総合司令官に対して怒鳴る。
「誠に申し訳ございません・・・ですが、私自身、こんなことになるとは予想だにしていなかったのです」
「言い訳はいい!行動で示せ!」
「は・・・はい」
「・・・下がってよいぞ」
皇帝が『あっちいけ』と言わんばかりに手を振る。
「・・・ここ最近は、おかしなことばかりが続く・・・」
皇帝はそう呟いた後、昨日してやられた敵による謎の攻撃の被害を各方面軍の司令官から聞くことにした。
_その頃、帝都南数キロ地点
帝都南に延々と広がる大密林。その上を超低空で高速で飛行する総勢50機もの迷彩塗装を施されたティルトローター機が大爆音を放ちながら帝都に接近している。
「よし!機器の最終チェックだ!」
ティルトローター機のキャビンで待機している迷彩服で身を包んだ屈強な男達はそれぞれの持つ武器の最終チェックを行う。
「姿勢制御装置・・・問題なし」
ほんのりと光る赤いライトに身を包まれた屈強な男達の中で一人、痩せた風体の男が座って迷彩柄の荷物がたくさん積み込まれたある機材の点検を行なっている。
「脚部・・・問題無し」
痩せた風体の男__アロンソ隊員の点検している迷彩柄の機材の名前はウォーキング・ドッグ。数年前に実用化されたいわゆる『ロボット軍馬』で、姿勢制御装置を搭載してたとえ人に蹴られても瞬時に姿勢を戻すことができるため、主に不整地帯や山岳部での兵士追従型の物資輸送で用いられている。彼が点検しているのはその最新型で、主に燃費や積載能力が向上している。
「おい!まだお前機械なんていじってんのかぁ!?」
いきなり頭をガシッと掴まれ、被って居た帽子が足元に落ちる。振り向けばそこには、今回作戦行動をともにすることとなった第一陸戦部隊の一人、バスケスが通称『言うこと機関銃』を肩に担いで立っていた。
「ちょっと・・・何するんですか・・・」
足元に落ちた帽子を拾い上げて再度被ると、まるで対峙せんと言わんばかりの勢いで立つ。
「いやいや・・・だってよ?機械だぜ?き・か・い。そんなのよりも人間の方が役に立つだろ?」
一方バスケスは脳筋なのか、身体中に引っ付いた筋肉をアロンソに見せつける。
「あなた・・・本当、筋肉バカですね」
アロンソ隊員はそう言い放つと、バスケスによる怒涛の反撃には目もくれずウォーキング・ドッグの最終チェックを再開した。
「ったく・・・これから実戦だって言うのに・・・」
バスケスはアロンソ隊員を心配そうな目で見ると、『言うこと機関銃』を担いで後部ランプに移動した。