第34話:破壊の宴(1) v0.0
_離陸から数分後
「機長、全機離陸完了。これより変態ごっこをするとのことです」
副操縦士はコックピットから周りを見て編隊を組んでいるのを確認した後、さらっとまずいことを言う。
「副操縦士・・・それは『へんたい』違いだ。・・・お前は小学生じゃないんだぞ?」
機長はすぐに指摘し、訂正するように求めるが副操縦士は何も気づいて居ないらしい。
「・・・はぁ。さて、そろそろ護衛機が編隊に追加される頃合いか?」
機長は腕時計で時刻を確認した後、コックピットから周囲を見渡す。
「おかしいな・・・そろそろ出て来てもいいと思うんだが・・・」
目視で確認できる範囲をコックピットから見渡すが、護衛機と思われる機影はどこにもない。
「管制塔・・・嘘ついたわけじゃないよな・・・」
その時、突如として機内にUBV-20のものとは違う、レシプロエンジンの轟音が響く。
「お、どうやら来たみた・・・は?」
機長は轟音を聞居た後外を眺めた瞬間、自分の目を疑い腕からコーヒーの入っていたカップを落とす。確かに、先ほどの轟音を機内に響かせたのはまぎれもない護衛機だ。事実、コックピットの外にそれは飛んでいる。だが、問題はそこではない。明らかに形が機長の知る航空機ではないのだ。
「なぁ・・・副操縦士」
機長は力の抜けた声で、副操縦士を呼ぶ。
「はいはい、なんでしょう?」
機長の左に座る副操縦士は操縦舵を両手に握り、機体正面を向いた状態で言う。
「ちょっと俺の頰・・・抓ってくれないか?」
副操縦士は声をかけられた理由を知り、少し意外だな・・・Mなのか?と心の中で思う。
「いいですけど・・・」
副操縦士はそう言うと思いっきり機長の頰をつねる。それでも未だに、コックピットから見える正真正銘の変態兵器に気づかない。
「あ・・・あれは・・・本物か・・・」
機長は驚愕のあまり呟く。
「・・・さっきから、一体どうしたんですか?顔色悪いですよ」
副操縦士は何食わぬ顔で機長に尋ねる。
「いや・・・ほら・・・」
機長はゆっくりと右手で機体右を飛行する護衛戦闘機を指差す。
「どうした・・・え」
副操縦士はその機体形状を見て口が開きっぱなしになる。
「き、機長・・・あれって・・・」
副操縦士はその機体形状に見覚えがあるのか、ゆっくりと口を開く。
『『変態機だ!』』
機長・副機長は口を揃えて大声で言う。機体右側には、俗に言うテイルシッター式(立てた状態で地面に置かれるタイプの機体)のダクテッドファンの中心軸に胴体をぶっ刺した設計である変態機が飛んで居た。それも、1機や2機じゃない。護衛機全てが、変態機だ。
「こ、こんな奴らが護衛機なのか・・・?」
機長は何度も変態機を凝視する。タクテッドファンの外縁部に3発ほどミサイルのようなものがついているのでおそらく制空戦闘はできるのだろう。それでも、いくらなんでも不安すぎる。
「き、機長。俺たちあんな変態機に命預けていいんですかね?」
副操縦士へと振り向くと、汗水をだらだらと流し眼は完全に泣きかけのそれだ。
「き、きっと安全性が高いんだろ・・・。きっと助かるさ」
機長はそういったが、本人としては自信はない。あの変態機に乗るパイロットの腕に任せるしかないだろう。
「せめてもう少しマシなやつが良かったなぁ・・・」
機長はそれだけ呟くと、変態機に気を取られないよう操縦へと専念するのだった。
_ダーダネルス帝国 帝都ディオニス 西部方面司令部
「・・・嘘だといってくれ」
西部方面司令官ゲラウスは西部方面司令部の執務室で椅子にもたれかかり、伝令兵から受け取った紙を見ていた。
「いくらなんでも、これは嘘だ」
ゲラウスの持つ紙には、第一西部工業地帯及び海軍基地がたった1隻の軍艦により沈められたと言う報告が記してある。
「確かに、デルタニウス王国攻略軍のほとんどは現状敗北しているが・・・。いくらなんでも、現実的じゃなさすぎる」
敵軍が工業地帯に上陸して来たのなら、まだ話はわかる。だが、あそこには海軍基地がある。そう簡単に上陸できるような場所ではない。
「本当・・・ここ最近はおかしなことばかり起こるな・・・」
おそらくここ最近の長時間勤務の疲れが体に出ているのだろう。ゲラウスは紙を放り投げると、執務机に置いてあるコップの中に注がれた『こぉひぃ』と言うものを飲む。これを飲むと疲れが吹き飛ぶので、ここ最近は疲れた時にはいつも飲んでいる。
「・・・ふぅ。一体・・・皇帝陛下の望みとは何なのだろうか」
『こぉひぃ』の注がれたカップを右手に持ち、窓から外を眺めながら言う。朝だと言うのに外には数多もの人々が行き来しており、まるで帝国の繁栄を記しているかのようだ。
「ここ最近は各方面でも苦戦していると聞くが・・・」
各方面軍司令部の話によると、ここ最近の野蛮国家は次々と巨蟲兵や陸戦型竜兵隊を前線に投入していると言う。現状では2正面作戦もいいところなので、いい加減終わらせたいと各方面軍司令官は言っていた。
「まぁ、この帝国は少なくともこの大陸では無敵・・・。そう簡単に負けることはないか」
ゲラウスは『こぉひぃ』をグビッ、と一気に飲み込むと、本日の執務を開始した。
_離陸から2時間と少し、海峡を越えた頃のスカラベ0-1
「さて・・・そろそろ海は越えた頃か」
機長はコックピットから周辺を見渡して言う。
「そうですね・・・もう一度敵帝都防御施設の位置を確認しますか?」
副操縦士は機長に尋ねる。
「そうだな。衛星写真を持って来てくれ」
「了解」
副操縦士は一旦操縦席から離れ、コックピット後部に巻かれた状態で放置されて居た衛星写真を持って来て操縦席の前に広げる。
「爆撃目標はこの帝都もどきの周辺10カ所に展開する基地もどきだな。編隊を組んで敵基地爆撃を行えとの御達しだ。言う通りにするぞ」
機長はそう言うとコックピットに備え付けられた無線を手に取る。
「全機、このまま編隊を組んで敵帝都もどき上空を飛行しろ。奴らに俺たちのおもちゃを自慢してやるんだ」
『りょ、了解』
こうして、スカラベ部隊は帝都上空へと進路を取った。
_帝都付近を哨戒中の竜兵部隊
「あー・・・だる」
愛騎のパルカスにまたがり、高度1000メートルを飛翔するためもふもふの獣の毛皮が使われた防寒着を着ている竜兵トリトスは付近に誰も居ないことを口実に呟く。
「だいたい帝国はこの帝国では最強なんだ・・・わざわざこんなことしなくてもいいのになぁ・・・」
トリトスは指定の哨戒ルートを毎日決まった時間に通ると言う何とも暇な任務を毎日のようにこなしている。個人的には前線で蛮族たちを焼き滅ぼしたいのだが、どうにも上司はそれを許してくれない。
「さて・・・今日も司令部に報こ・・・うん?」
そこでトリトスは空に何か違和感を感じる。
「あれ・・・なんだ?」
自分が飛んでいる高度よりも、圧倒的に上を飛行し無数の白い線を引く巨大な何か。それが今、確認できるだけでも十数個は飛んでいる。
「なんだなんだぁ?」
トリトスは首から吊り下げた単眼橋を手に取り、空を飛んでいる何かに向けて覗く。
「う、うん・・・?」
それは、不可解な形をしたものだ。最初は神龍とか巨蟲の類かと思ったが、よく見れば翼が動いて居ない。一体どう言うことだろう。
「・・・ま、いいか」
一体何なのかわからないが、おそらく害はないだろう。トリトスは今日見たものを同僚に自慢するため、哨戒を少し切り上げて早めに基地へと向かうことにした。