第31話:束の間の休息 v0.0
_時間は戻り異世界転移から2ヶ月と少し、エルディアン共和国東部方面地方軍管轄飛行場
まだ日が昇ってそう時間が経っていない午前5時。この飛行場の滑走路上では、整備兵やパイロットなどがあっちに走りこっちに走りの状況でいる。なぜなら、本格的な敵本土攻撃作戦を敢行するために集められた超巨大な飛行艇が30機も駐機、その整備などに追われているからだ。
「いやー・・・なんと言うか、圧巻だな」
オペレーション シュガール第二段階の指揮を任された作戦指揮官ドミンゲスはその航空機の圧倒的な存在感に圧倒されて呟く。
飛行場のハンガーにも収まりきらないほど大きな航空機の名前はUBV-20。全長50メートル、全幅67メートル、全高11メートルのこの正真正銘の化け物は2000馬力の16気筒水冷エンジンを並列に連結した合計で4000馬力を発揮する2重反転仕様のPP402エンジンをなんと6基も搭載し、試験機の段階でなんと最高時速650キロ超えを記録している。これだけの大馬力エンジンを6基も搭載しているのでその爆装量も化け物で、プロペラ機としては規格外の7トンも積むことができる。しかもこれが、飛行艇なのだから更に驚きだ。
またこの機体はフロートとランディングギアの両方を所持しており、会場・地上どちらでも運用が可能である。そんな怪物が現在この飛行場に数十機もいると言うのだからさらに驚愕である。国内でも有数の大きさを誇る飛行場だからできた技だろう。
「でもこれ・・・試作止まりだったんじゃ・・・」
ドミンゲルの隣にいる今回の作戦補佐官ロメーロはそっと耳元で言う。
「それがどうやら、軍務担当大臣が秘密裏に開発を続けていたらしいのさ。あの人の側近、下手すれば降格処分になるって騒いでたぞ?」
ドミンゲルは呆れた声で言う。
「・・・まぁ、結局こうやって使うことになったんだし、損はないか。さ、作戦指揮センターに戻るぞ」
ドミンゲルはロメーロにそう告げると、一人作戦指揮センターへと歩いて行く。
「あっ、ちょっと!待ってくださいよ!」
ロメーロもドミンゲルについて行く形で作戦指揮センターへと向う。
「作戦実行はいつでしたっけ・・・?」
作戦指揮センターへと向かう途中、ロメーロはとぼけた顔で言う。
「おいおい・・・まさか忘れたのか?」
ドミンゲルは袖をまくしあげて腕時計の差す時間帯を見ると、再度口を開く。
「今が5時だから・・・作戦実行は8時だな。だから後3時間ある」
「後3時間・・・ちょっと飛行場内にある売店でスナックでも買ってから行きませんか?」
ロメーロはドミンゲルにスナックを買わないかと誘う。
「いやいや・・・そんな時間もう無いだろ。それにすぐ作戦内容の最終確認が始まる」
答えを聞いたロメーロは残念そうな顔をする。
「・・わかったよ。作戦の最終確認が終わったら行こう」
ロメーロの顔は一転し、子供のような無邪気な顔へと変化する。
「さ、着いたぞ」
ドミンゲルは巨大な四角い迷彩柄の作戦指揮センターの正面入り口に着いたことを伝えると、警備兵にドアを開けるよう指示する。
「ご苦労」
警備兵にそれだけ伝えると、ドミンゲルとロメーロの態度は先ほどと打って変わりやれる系上司感を出して作戦指揮センターへと入り込む。
「やっと来たか・・・」
作戦指揮センターの中に入り込むと、すぐに爆撃部隊指揮官たちが現れる。
「遅れてすまない。それじゃ、始めようか」
ドミンゲルが一言言うと、爆撃部隊指揮官たちの真ん中に置かれた机に兵士が巨大な衛星写真を広げる。
「この衛星写真を見てもわかるように、敵の工業施設及び帝都防衛基地のようなものを数十機のUBV-20を3班に分けて爆撃してもらう。まず敵西海岸に位置する最大規模の工場地帯を爆撃するのはUBV-20を15機連れたアヌビス部隊だ」
ドミンゲルは衛星写真に移された西側にある巨大な工業地帯を円で囲む。
「続いて南に位置する工業地帯だ。こっちは・・・まぁ、規模が最小だから5機編成のアペプ部隊が爆撃すればいいだろうな」
ドミンゲルは円で工業地帯を囲む中呟く。
「そして一番重要なのがスカラベ部隊だ。君たちには帝都周辺に点在する帝都防衛施設の破壊を頼む」
スカラベ部隊の指揮官はそっと頷く。
「尚、本作戦には勿論護衛戦闘機が各爆撃部隊を護衛する。損耗は絶対にするなよ」
『了解!』
「それでは解散!」
ドミンゲルの解散の合図とともに各爆撃部隊の指揮官はそれぞれの持ち場に戻り部隊の最終チェックを行う。
「さ、ロメーロ。スナック買いに行くか」
「そうだな」
作戦指揮センターの壁にかけられた時計は午前6時を示している。まだ時間的余裕はあるだろう。
_数分後
「お前、何にする?」
ドミンゲル一行は基地内に設けられた売店に着いたので何を買うか決める。
「うーん・・・そうですね・・・」
売店で作戦指揮官が二人仲良くスナックを買っているのを怪しげに見る基地要員たちの目が辛いが、スナックのためには致し方ないことだ。
「じゃぁこのチリッペッパーポテイトゥで」
ロメーロは買うスナックを決めると、売店員に代金を払い真っ赤の袋に梱包されたチリイペッパーポテトゥを受け取る。
「お前凄いの選ぶな・・・」
ドミンゲルは売店の横にあるベンチに座り喜んだ顔で世界最辛と名高いチリペッパーポティトゥを頬張るロメーロに呆気を取られる。
「そうですかね?」
あっという間にチリペッパーポティトゥを平らげたロメーロはあっさりと言う。
「いや絶対お前口の構造人間じゃねぇよ・・・。あ、自分はこのソルトォカラァイィで」
ドミンゲルは塩分1g配合のいたって普通なポテトチップスを買ってベンチへと座る。
「やっぱり、王道が一番だよ、王道が」
その言葉が気に食わなかったのか、ロメーロはドミンゲルの発言に反論する。
「いやいや!キテレツフードが一番です!」
「あのなぁ・・・キテレツフードを平気で食えるお前がおかしいんだよ」
ドミンゲルはロメーロに向かって呆れた口調で言う。
「・・・まぁ、それもそうですね」
ロメーロはそう言うと、チリペッパーポティトゥの梱包袋をゴミ箱に投げ入れる。
「さ・・・これから忙しくなるんですし、残りの時間は自由に行動しますか!」
ロメーロは服を整えた後言う。
「それもそうだな。それじゃ、また後で会おう」
ドミンゲルはソルトォカラァイィを食べ終わりゴミ箱へ丸めて捨てる。
「自分はコーヒー片手にインターネットでも見てるかなぁ・・・」
ロメーロを見送った後、ドミンゲルはそう呟くのであった。