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きっかけは追突事故から…

作者: 清水悠

ついてない


やってしまった…

運転中によそ見をしてしまい、急ブレーキをかけた時にはすでに遅かった


そんなに衝撃はなかったけどぶつかった事実は事実

隣にいる彼女に怪我はないか確認し「君はここにいて」と声をかけて、前の車の運転手の元へと急いだ


降りてきたのは女性で、とても機嫌が悪そうだ

それはそうだろう、悪いのは僕だ


とりあえず謝罪し、怪我の確認や警察へ連絡をしましょうと相手に伝える。相手は小さく頷くことはしてくれるけど、他人事のようにどうでも良さそうな態度だ


保険などの対応もあるし、迷ったが後でちゃんと謝罪もしたかった。相手の連絡先を尋ねると、渋々ながら携帯を鞄から出して、ため息をつきながら番号は?と聞かれた。

やはり直接のやり取りは控えた方が良かっただろうか?


メモを取ろうと思ったが、相手が携帯を持ってこちらを見たので、とっさに自分の番号を伝えた

相手はその場で自分の携帯に僕の番号を入力すると、発信ボタンを押した

そしてこちらを見る


「なりませんね」


一瞬相手が何を言ってるのか理解できなかった

そうだった、相手の顔をまじまじと見てる場合ではない

僕は慌てて携帯を探すがポケットに見当たらない


すると僕の車から彼女が降りてきて、その手には着信中の僕の携帯が握られていた

そうだった、今日は家でのんびりしていたところに婚約者に呼び出され、今はどこかへ送らされている途中だった

僕はその行き先が分からなかったから、携帯をナビがわりに使っていたのだ


「拓海さん、携帯なってるわよ、というか…遅れそうならタクシー呼んでくださらない?」


婚約者はそれだけ言うと、寒そうに車へと戻ろうとする


タクシー?

今?


婚約者の気分に振り回されるのはいつものことだが、今は事故処理の最中だ

困ったなとタイミングよくタクシーが通らないか道路を見渡していると、袖が引っ張られた

彼女だろうと振り返ると、引っ張ったのは事故の相手で、相手は信じられないことを言った


「たくみくん、この人はだれ?私あなたが女の人と一緒でびっくりしちゃって、ブレーキ踏んじゃった」


そう言って僕の腕に自分の腕を絡めてくる


事故相手とはもちろん今日が初対面だ

急に名前を呼ばれたことにも驚いたが、なぜ腕を組まれてるかも理解ができなかった


「拓海さん、こちらのかたは?」


ハッと反対を見ると婚約者である彼女の顔色が変わっている。プライドの高い女性なのだ、もうすでに遅いかもしれないが怒らせると手に負えない


いや、知らない、初対面だよ


慌てて腕を振り払い、婚約者に弁解しようとすると

事故の相手は僕の首に腕を回しキスをしてきた


そして、彼女に向かってニッコリ微笑んだ


「私はたくみくんの婚約者です。あなたはどなた?」


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


なんでこんな事になったんだろう?


僕はひりつく頬を押さえながら、警察と話している事故の相手を見た。

あの後、婚約者は僕を渾身の力でひっぱたきこの場を去った。僕と事故相手との仲を誤解したままだ。というか、自分でタクシー止めれるなら最初からそうすればよかったのに


事故の相手にどういうつもりか問い詰めようとしたが、警察が到着し、現場検証となってしまった

さらにこちらが警察と話している間に、相手はさっさと帰ってしまった


一人残され、やれやれと携帯を見ると着信がズラリ

婚約者の父親からだ、その名前を見て心臓がキュッと縮んだ気がした

慌てて折り返すが婚約者の怒りは激しく、婚約は解消、金輪際連絡をしてくるなという事だった


唯一の救いは、婚約者は資産家なので、慰謝料の請求はなく、縁を切られただけだという事だろうか

僕は小さく凹んだ車の傷をそっと撫で、ハァと息を吐いた


翌週になり会社に出社すると、さっそく社長に呼ばれる

婚約者の父親は、うちの会社の取引先だ

僕はクビになるのだろうか?


社長室に入ると、副社長や僕の直属の上司が揃っていて、どうして婚約破棄になったのか理由を聞かれたので、事の顛末を正直に話した


皆は、最初は僕が本当は2股をかけてたんじゃないかと疑ったが、そうでないと分かると苦笑し、災難だったなと肩を叩かれた


社長は、本音を言うと取引先の社長(元婚約者の父親)は大嫌いだったと言って、これを機に取引をやめようと喜んでいた


うちの方が格上の会社で本当に良かった


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


あれから1週間たった


事故の保険の手続きなどは滞りなく進んでいると保険会社から連絡があった

事故の原因は自分にあり、あの時婚約者が前髪を切ったとかで自分をちゃんと見てと騒がれ、完全に脇見運転での事故だった

事故相手はブレーキを踏んだとか言ってたが、その更に前の車が停止してたのだから急ブレーキではないだろう

本来なら10対0でこちらが悪い


事故直後は怒りで謝罪など行かないつもりだったが

冷静になるとそれは人としてダメなような気がしてきた


というより、初対面の相手にいきなりあんな事する様な人間に、できればもう関わりたくなかった


保険屋の話によると、事故相手の対応は良く、ごねたりおかしい所は全くないようだ


「どうした?叱られた後の猫みたいな顔して」


それは一体どんな顔だよと思いながら、一応は自分を心配してくれる上司に僕は事情を話した


「なるほどな、って初対面でその態度はやばいよな、名前は?」


「えっと、たしか麻生……桜良」


「あ、そ、う……さくら。あったコレか」


よく見ると上司の手元にあるのは僕の携帯であり、彼は勝手に検索している


「ホイ、明日食事に誘っといたから。どんな奴か俺も見てみたい」


「えっ、ちょっとなにをっ!?」


悪い冗談かとメールを見直すが

しっかり相手に送信済みだった


返信がないので、どうかこのまま無視してくれ。と願ったが、翌朝携帯をみると事故相手から返事が入っていた


待ち合わせの場所も時間もOKという事だ


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「だって、誘ったのオレだから!大丈夫だよ、顔だけ見たら帰るから」


そう笑いながら上司が待ち合わせの場所まで付いてくる

ここまでくるともう職場イジメじゃないか?確かにちゃんと相手に謝罪はしたかったのだが…


「えー……マジで?なんだよそれ…」


店の前にいる彼女の顔を見て、それだけ呟くと上司はふらふらと帰って行った。一体彼はどんな相手だと思っていたのだろう?


そうなんだよ

麻生さんはかなり可愛い


初めてみた時も顔の造りの繊細さに思わず見とれたことを僕は思い出す

そんな彼女が、いま自分が来るのを待っているのかと思うと少しだけ気分が高揚した


チラリと時計を見ると待ち合わせの時間にはまだ早い

なのにもうちゃんと待ってる

30分遅れても謝りもしない婚約者とは大違いだ


待たせてるのだからさっさと相手に声を掛ければ良いものを、僕はなぜだが今の時間をもう少しだけ堪能したいと思った


髪を何度も直しているがじゅうぶん整っているようにみえる

白いコートもよく似合ってる

ブランドで身を固めた婚約者と異なり、彼女は淡い色の物が好きなようだ

クシャミしてるけど、一体いつから待ってるんだろう


そうして見ていると、知らない男が彼女に何やら話しかけている。彼女の固い表情から知人ではないと推測できた


慌てて僕が近づくと、麻生さんに声をかけようとしていた男が離れていく


ごめんね

彼女は僕と待ち合わせてるんだ

僕は彼女の恋人ではないけれど、君よりは彼女と親しいのかもしれない


これはどういう感情なんだろう?

僕が彼女に声をかけると、彼女は更に緊張した表情になる


そうだよね、僕は加害者であり、君は被害者

でも僕は被害者であり、君は加害者でもある


お店に入ると、気のせいかもしれないが店員があれ?とした表情を浮かべたように感じた


この店は、僕と婚約者が何度か食事した店だ

あの上司はほんとタチ悪い、なにもこの店を予約しなくてもいいのにと、なぜか一人で焦った


案内された席は椅子とソファの席で、麻生さんは僕にソファの席を譲ってくれた

ソファはいつも婚約者が座ってたから、こんなにゆったりとして座りやすいのを僕は初めて知った


メニューがなかなか決まらなくて大変だった

麻生さんは食べたい物がころころと変わる女性だった

いつもは元カノの食べたい物を頼んでいたからこんなに迷わない。僕達は二人で食べれる量をあれやこれやと考えた


やっとオーダーすることができた

なんだかここまででもう疲れた

でもなんだか楽しかった

渋々諦めたメニューについて麻生さんはまだ想像を膨らませてる

このお店は逃げないのだから、また来ればいいのに


食事中は当たり障りない会話だった

自分の仕事内容や、麻生さんの仕事の話

途中、今日ってこんな話をするために会ったんだっけ?と思ったけど、まぁいいやと会話を続けた


印象に残ったのは麻生さんの会社の新入社員の話で、ほんとにヤバい奴だった

そんなやつ早く辞めさせた方が良いいのでは?と僕が言うと、彼は面白いからいいの、と彼女はクスクス笑っていた

そんなに仕事ができない人間なのに、毎日彼女と一緒の職場にいるのかと思うと、なぜかモヤモヤする自分がいた


僕がお手洗いから戻ってくると

彼女はデザートの写真を撮っていた

そういえば婚約者もよくそうやって料理の写真ばかり撮っていた

料理が冷めてしまうし、女の子は本当に記念が好きだなと思ったけど、麻生さんも今日のこの食事を記念として考えているのだろうか?それとも単にデザートの写真を撮りたかっただけだろうか


僕が席に座ると、彼女は携帯を鞄にしまった

あれ?そういえばデザート以外の料理の写真は撮ってなかった。本当は撮りたかったけど我慢した?それは僕との時間を大切にしてくれたってこと?それなら僕達はなんの関係もないのだから遠慮することなかったのに


だって僕達はこの先もう会うことはないんだから


食事も終わり店を出た

僕が席を外した際に、麻生さんは会計を済ませていたようだ

さすがに僕は慌てたけど、麻生さんは小さく「お詫びです」と言って帰っていった


僕は一人で電車に揺られながら考えた


僕は加害者であり、君は被害者

でも僕は被害者であり、君は加害者でもある


それに

途中から気がついた


注文した料理は、全部僕が食べたいと言った物ばかりだった

思い返せば麻生さんが最初に「美味しそう」と指をさしていた物は1つも注文していないんじゃないか


デザートだってそうだ

彼女はティラミスが食べたいと指差したのではないか

けど僕が洋酒が苦手だと言ってから、クレームブリュレとガトーショコラに変えたんだ

どちらも僕が迷ってたデザートで、彼女が食べきれないからと2人で取り分けた


あの店には何度も足を運んだのに、初めて味わった気がする


彼女は今度はコースも食べてみたいと呟いてた

それは誰と来るつもりなのだろうと胸がチクリと痛んだ


「お詫び…か…」


僕は電車に寄りかかった


僕は彼女を「麻生さん」と呼んでいた

でも彼女は僕の名前を一度も呼ばなかった


前は「たくみくん」て呼んでくれたのに


彼女は今夜は僕に一度も触れなかった


この前は腕も組んだしキスもしてくれたのに


そういえばなぜ彼女があんな事したのか聞けなかった

いや、聞きたくなかったのかもしれない


僕はなんだか悲しくなっきた

今日の食事は一体なんだったのだろうと

なぜ僕は彼女の恋人じゃないのだろうと


そして今更ながら苦笑する


婚約者と別れても

こんな気持ちに一度もならなかった


それはそれでものすごく淋しいことのように思えた


僕は考えた

やはり車をぶつけたのは僕だ

食事の代金を彼女が払うのは間違ってる

僕は何一つ彼女へ償ってないじゃないか


自分が意見をいうと相手が嫌な思いをするかと思ってた

だから自分はなにも決めずただ流されれば心地良いと勘違いしてた


あっちだって僕を驚かせたんだ

今度は僕が驚かせようか


そう思うとなんだか楽しくなってきた


理由なんていくらでもつくれる

僕は携帯を取り出した


読んでいただきありがとうございます!


短編で載せたけど、麻生編も書こうかと考えてます!


ではまたー!

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