3.ロゼの家で
「ん…」
ミーナが目を覚ますと、そこは家の中だった。ベッドに横になり、布団がかけられている。横をむくと、椅子に座って読書をする老婆と目が合った。
「おや、目覚めたね。気分はどう?水だよ、喉が乾いているでしょう。」
笑いジワが人の良さを醸し出す老婆が、ゆっくりとコップ1杯の水を差し出した。
ミーナは体を起こすと、それをすぐに飲み干した。
「ありがとうございます。あのっ。えっと…」
「あなた、村の入口で倒れたのよ。覚えているかい?うちの主人と会ったでしょう?」
「あ、はい。おばあさん、ありがとうございます。私、その…」
老婆はミーナの隣に座ると、背中をさすり、優しく語りかける。
「落ち着いて。私はロゼ。このナナシ村に住んでいるの。あなたの名前は?主人ったら、よく聴き取れなかったみたいなのよ。」
「ロゼさん、助けてくださって、本当にありがとうございます。私はミーナと申します。2日前、気づいたら森の中の祠にいました。でも、名前以外なにも思い出せないんです…。」
ミーナは、なるべく落ち着こうと、ゆっくり息をしながら話した。
ロゼは、ミーナの背中をさすり続けている。
「あらあら。なにも思い出せないだなんて…。辛いでしょうに。あの祠は、何百年も昔に作られたらしいけど…。私もね、詳しくは知らなくてね。とにかく、ここまで無事に来てくれてよかった。」
「あっ!あの。茶色くてツノのある…」
ミーナが慌てて聞こうとすると、ロゼは微笑んだ。
「茶獅子のことね。大丈夫。この家の外で待ってるわ。滅多に人には懐かないのよ。主人も驚いていたわ。」
「茶獅子…!あの子がここまで乗せてきてくれたんです!」
「まぁ!ますます驚いた!」
ロゼは立ち上がると、キッチンへ向かった。
鍋を火にかけると、ミーナを見て微笑んだ。
「お腹がすいたでしょう。野菜でシチューを作ったの。パンもあるわ。」
ミーナは、ロゼの優しさと、おいしい匂いと、安堵とで、ポロポロと泣き出した。
「っ。すみません…私ほっとして…」
「辛いわよね。今日はうちでゆっくり休んで。主人は村の寄場に泊まってもらうから。明日、村長のところへ行きましょう。」
ミーナはパンをちぎると、シチューに付けて食べた。
以前、このようにして食べたような気がした。
何日ぶりかもわからない食事。
驚くほど美味しかった。