1.森の中から
実はこのお話は、作者がもう何年も前から温めていたお話です。
読者さんの物語の1ページになれたら嬉しく思います。
ある小さな島に、小さな王国があった。
その国の王族は不思議な力を持っていた。
ある時、1000年にひとりの強大な力をもつ姫が誕生した。
しかしそれは国民に知らされることはなく、王族だけの秘密とされた。
姫はその力を国民に隠したまま成長し、誰からも愛される美しい姫君となった。
しかし、世界の均衡が崩れ始めたことにより、王族たちはある過酷な決定を下した。
それは世界を守るため。未来のために。
その国の名を、ライア王国、といった。
「おはよう、トト。」
朝日が昇り、まだ薄暗い空が青く広がり始めた。
そこは、森の中にある小高い丘の上。
少女が隣に伏せた動物をそっとなでた。
「ちょっと蚊にさされちゃった。森からは少しぬけたのにね。」
少女は首のあたりを掻くと、腰くらいまである、少し癖のある栗色の髪を束ねた。瞳は青く澄んでいて、まだあどけなさの残る顔立ちをしている。
「やっぱり…思い出せないな」
少女は、ところどころ汚れたベージュ色のワンピースを着て、茶色の革靴を履いている。
そして、その姿とは似つかわしくないペンダントを付けていた。丸いピンクゴールドのチャームには、なにかの紋章が描かれている。
「もう少し進んだら、人がいるといいんだけど。トト、今日も乗せてくれる?」
トトと呼ばれた動物は、長い枝のような角があり、短い茶色の毛に覆われ、黒く大きな目をしている。
トトは少女の頬をそっと舐めた。
少女がトトにまたがると、トトはゆっくりと立ち上がり、丘を下って森の中へ進み始めた。
半日ほど、経った頃だった。
「あっ!」
少女が目を細める先に、小さな集落が見えてきた。
だんだんと森の木々はまばらになっていた。
「だれかいる!行ってみよう!」
森で器用に木を避け走っていたトトが小走りになり、やがて歩き出した。
集落の入口で、トトと少女に気づいた老人が驚いた表情で固まる。
「これは驚いた……茶獅子を手懐けとるとは」
老人が見ていることに気がつくと、少女はトトから降り、深くお辞儀をしてから近づいていった。
「こんにちは。」
少女が話しかけたのは、集落の外で小麦の収穫をしている老人だった。
老人は、白髪混じりの茶色の髪に、顎髭も生やし、農作業がしやすそうな、汚れた服を着ている。老人は小麦の束を地面に置くと、ゆっくりと少女に歩み寄った。
トトは静かに少女の後ろに座る。
「こんなところに客人とは。とんとなかった。お嬢さん、こんな小さな村に何用かね?」
少女は少し言葉を詰まらせ、ゆっくりと話し始めた。
「ミーナと申します。この森の奥の祠から来ました。名前以外、なにも思い出せないんです。おじいさんも、私のこと、わからないんですね…」
ミーナと名乗った少女はがっくりと肩を落とすと、人に会えた安堵からか、崩れるように倒れてしまった。
2日前。朝日が昇ったあと。
ミーナは森の中にある小さな祠の中で目を覚ました。