第5話 驚愕の結末と言われましても!
ブーちゃんが本気になった、ギモヂイイイ////
足が重い、もうどれくらい経ったのか、限界が近づいているのが分かる。
現在、俺は運動場でブーちゃんというスライムの触手から逃げ続けていた。
「ブヒィィイイ////」「ァァアア////」「ソコォォオオ////」「ラメェェエ////」
[ニョニョ!]
「はぁはぁはぁっ」
試練が始まって2ヶ月
俺は自分の身体が比べ物にならないほど成長したことを実感出来ていた。
残りの触手はあと1人分、最初に触手が解放されるまであと3分ってところか。
これだけ逃げ続ければ鍛えられるのは当然といえば当然だが、俺はこんな地獄で心が折れていない自分に称賛を送りたいところだ。
[ニョニョ!シュッ!]
「遅い!」
「ァァアア////」
俺は残りの触手を避け、後ろのゴブリンに触手が当たるのを確認すると、俺は警戒を解かない程度に休息に努めた。
ブーちゃんが本気になってから1ヶ月で気づいた事は4つある。
まず1つは吸収する触手が減る分1人辺りに時間がかかる事、今はだいたい1人辺り10分位だ。
2つ目は触手が減るごとにほんの少しずつ速度が落ちること、これに関しては本当に少しずつだがそのお陰でなんとか逃げ切れていると思う。
3つ目は触手はやはり別方向から襲ってこないこと、何故か分からないがこれは嬉しい事だ、別々に動かれたら逃げるのは絶望的だからな。
4つ目のこれは俺がブーちゃんに捕まったら他の触手も全部俺にくることだ、多分休息させないためなんだろうな、厳しいヤツだ。
「はぁはぁ、……ふぅ」
そろそろ最初にやられたオーガの触手が終わる頃か、俺は気を引き締めて警戒する。
「最高だったぜ!ブーちゃん!勇者も頑張れよ!!」
[ニョニョ♪ビシュ!]
「あぁ、ありがとよっと!あぶねっ!」
オーガのおっさんが俺にも声をかける、なんか知らんが1ヶ月ほど前から魔物達が俺の事を勇者と呼ぶようになった。
前までは人間とかお前とかだったのに、……やはり打ち解けてきたのが原因なのだろうか、悪い気はしない。
さて、残り時間が分からないがそろそろだという感覚はある。
今までの最高記録はだいたい20時間、感覚的にはもう過ぎているはずだ。
残りの時間が気になるところだが………
[ニョニョ!ビシュ!]
「おっと!!」
[ビチャビチャ!]「ンァァアア////」
思考していた俺に襲いかかる触手を避けて後ろにいたケンタウロスにぶつける。
いい加減この声にも慣れてきた自分が怖い。
まぁ残り1時間は切っただろう、このまま何事もなくいけばいいのだが………
「ふむ、残り5分って所か」
ヒルダ様がそう呟いた、もうそんなにも経っていたのか?
いや、俺の気を抜かせる為の作戦かもしれない、俺は気を抜かずに向かってくる触手を避け続ける。
「いい感じに仕上がってきたようだな、ブーちゃん!!」
「?」
ヒルダ様がニヤッと笑ってブーちゃんの名前を叫んだ。
ものすごく嫌な予感がする!
「ラストスパートだ!全力で行け!!」
[ニョニョニョニョ!ビシュ!ビシュ!ビシュ!]
「なぁ!?」
ヒルダ様の掛け声とともにブーちゃんの触手が3方向からバラけて襲ってきた!
多方向から攻撃出来るのかよ!?
俺は内心で舌打ちをしながら全力で回避する!
「くそっ!速い!」
[ビシュ!ビシュ!ビシュ!]
触手の速度が俺の全速力を越えているのか少しずつ距離を詰めてくる!
「はっ!」
[ニョ!ビチャ!ビシュ!ビシュ!]
「ラメェェエ/////」
触手を1本他にぶち当てる!
残り2本!
[ニョニョニョニョ!ビシュ!ビシュ!]
「なっ!?マジか!」
前方から触手が2本突っ込んでくる!
ヤバい!挟まれた!
ここで捕まったらまた1からやり直しになってしまう!
ここまできてそれだけはマジでごめんだ!!
「うらぁぁああ!!!」
<ドォン!!>
[!?ビチャ!ビチャ!]
俺は脚力に任せて走り幅跳びの要領で全力で触手を飛び越えた!
その直後、後方から触手同士がぶつかり合う音が聞こえる………が、
「はぁっ!?」
俺は安堵するよりも早く、驚愕の事態に目を見開いた!
「跳びすぎだろぉぉおお!!!」
そう、俺の身体は予測よりも遥かに高く、遠くに跳んでいたのだ。
飛び過ぎっ!!てか速っ!?なんだこれ!なにが起こった!?
おもわず現状を忘れ、おおよそ人間とは思えないほどのジャンプ力を発揮している自分の両足に意識を奪われてしまう。
[ニョニョニョニョ!!]
<ゴロゴロゴロゴロ!>
「!? いぃっ!?」
前方の音とともに前を向いた俺は再び驚愕!
なんと目の前からブーちゃんがものすごい勢いで地面を転がりこちらに向かってきているのだ!
「マジかよぉぉおお!」
[ニョニョニョニョ!!]
<ゴロゴロゴロゴロ!>
ぶつかるまで数秒無い!
ここで捕まるのか!?……いや!まだだ!
「今更捕まってたまるかよぉぉおおおお!!!」
<ドバァン!!>
[ニョ!?]
俺は最後の力を振り絞り、着地と同時に無我夢中で地面に向かって足を振り抜いた!
「へっ?」
気がついたら先程より遥か高く、それこそ数十メートル上空にいる俺、もう自分に起こっている状況を理解出来ない。
が、下を見るとブーちゃんが真下を通過していくのが辛うじて見えた。
さて、空へと打ち上がったものはその後、重力によって落ちていくわけで、このあとの俺は必然………
「うぉぉおお!!着地ぃぃいいい!!!」
身体の異変より命優先!俺は必死に身体を動かそうとする!……が!何故か全く動かない!
「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬぅぅうう!!!」
地面まで残り数メートル!俺は死を覚悟して目を閉じてしまう!
<ガシッィ!!>
突然の音とともに身体が停止した感覚!俺は恐る恐る目を開くと……
「!!??」
「まさか土壇場でここまでやるとはな」
目の前、ほんの数センチ先に地面があった。
「とりあえず第1試練は合格だ、しっかり休むといい」
そんな声が微かに聞こえるがこの時の俺は………
「い、生きてたぁ~」
そんな言葉とともに意識を失うのだった。
それから時は数時間後 魔王城・王間
『勇者の調子はどうだ?ヒルダ』
「はっ!第1試練突破後、治療を行い寝室に運びましたがまだ目覚めておりません!」
『ふむ、だかやはり勇者、まさか人族であれを突破出来る者がおるとは』
魔王様が複雑そうな顔でそう言う………?
「なにか?」
『いや、なに、何でもないぞ!うむ!』
魔王様が視線を逸らす。
「?」
『そ、それよりも勇者のやつが土壇場に出したあれの事についてお主はどう思う?』
魔王様がそういう、やはり魔王様でも気になるのだろう。
「はっ!結論から言いますと、あれは魔法の出来損ない!純粋な魔力の暴走による放出のみの衝撃で起きた現象です!」
『ふむ』
そう、あの人間が最後にみせた人知を超えた跳躍力あれは間違いなく魔力によるものだ。
『何故魔法ではないと?』
「?」
魔王様の言葉におもわず私は首をかしげてしまう、あれは魔法ではないのは明白なのにだ、なぜなら………
「あのような魔法、この世に存在しておりませんので。」
『ふむ』
この世界の魔法にはあのような跳躍力を生むような魔法は存在していない、風魔法による推進力や火魔法による爆発力を生むような魔法はあるが、あの人間の跳躍は魔法と呼ぶにはあまりにも荒々しすぎる代物だった、それに………
「詠唱もなしに魔法を発動出来る者が魔王様以外に存在しておるはずがありません」
『ほぉ、そうか』
そうなのだ、魔法とは世界の理を理解し、唱え、魔力を籠めなければ発動しない。
世界の理を統べる魔王様だからこそ可能な無詠唱魔法を、あのような魔法の魔の字も知らない人間が使えるはずがない。
『例外もあろうに、お主の魔眼のような物かもしれぬぞ?』
「それは………あり得ない事かと思われます」
確かに私の魔眼は魔法とは違う。
が、そもそもこれは魔法のそれとは仕組み自体が異なるのだ、あの人間の魔力による跳躍とは関係の無い話だろう。
『相変わらず堅いな、もう少し視野を広げてみれば見えるものもあるというのに』
「……善処いたします」
私は魔王様の仰りたい事が時々理解できないのは魔王様が遥かに崇高な御方だからだろう。
「お身体のほどは大丈夫でしょうか」
『……心配するな、まだ余裕はある』
どんなに崇高な御方でも抗えないものはあるのだろう。
質問の僅か数瞬見せた魔王様のどこか悲しげな表情を見逃さなかった私は、残された時間の少なさに微かなを不安を抱き、これからの私の役割を心の中で再確認するのであった。
<お話し中失礼、勇者が目覚めました>
「む、そうか、今行く」
どこからともなく聞こえる声に私は返答をする。
「では魔王様、失礼致します!」
『うむ、次はやはりあれなのか?』
魔王様がそう質問してくる、あの人間は体力、脚力、回避力、判断力は身に付いたがまだ大事な要素がかけていた。
その証拠に彼の身体は魔力による跳躍の影響でズタズタに裂けていたのだから。
「はい!第2試練は耐久力をあげる為に効率的なあのメニューが宜しいかと。」
『そ、そうか、根を詰めすぎないようにな』
魔王様が複雑そうな表情でそんな事を言う、私のような者に勿体なきお言葉です。
「心配せずとも私は体力には自信がありますので」
『いや、そういうわけじゃ………まぁ死なぬ程度に励むのだぞ』
魔王様がどこか悟った表情でそんな事を言う。
やはりお疲れなのだろうか?早くあの人間を完成させなくては。
「はっ!では失礼致します!」
『うむ』
私は気を引き締め直し、人間が寝ている寝室に足を運ぶのであった。
ブーちゃんの試練はこれにて終了です!
次回から第2の試練に移れればいいなと思います!
次回投稿予定はすみません、まだ決まってませんがそうかからず投稿するように致しますのでお待ち頂けると嬉しいです!




