~吾輩は猫である~
第一話 吾輩は猫である
夜。
まるで師走の夜の月に、住民の宵の声が響く。何も平凡な事象では無い、沿岸の街ではかなりの希少性を保った行事だ。祭の暖簾は店先を誘って、陽気に風が動き出す。
そして其の、中の、
中の、
中の、
中の、
中の、中に、彼はいた。彼と言うに足らない彼はナチュラルグレーのシャツを着、どす黒い帽子を被っている。かくかくとした歩き方で、シャツの衣擦れを抑えていた。顔は端正で、鼻は筋立ち引き締まっている。其の白い皮膚には何の笑みも浮かんでおらず、それが彼の顔の唯一の欠点と言えた。
もぞもぞとした人混みの内に、音も無く彼は動く。インパラの群れをじっと値踏みするかのように、彼は行動していた。ふと、彼の顔が動いた。数少ない彼のその表情は、獲物を口の中に入れた狼の如く、口角を斜めに引き攣らせていた。周りに音もなくさざ波が広がる。一人一人の動きに恐怖と言う名の本能がミックスされる、世界に、彼に対する免疫が染み込んでいく。
それにすらも彼は動じない。その笑みを刃物の様に振りかざし、人々をゆっくりと威嚇していく。まだ歩く歩調を緩めず、かくかくとした歩き方のままだ。彼の一歩一歩に、余裕綽綽が見て取れた。だが、停滞はそう簡単に続くものでは無い。普遍としたその空間に突如として異世界が広がった。そう、それは正に単純な事だ。
彼、が、鋭い金属の欠片を手に持ち、無言で風を切ったのだ。
「ひゃやっ!」
声にならない叫び声が、エレクトロニクスの様に響き渡る、と、同時に彼の絶対値の様な|無声慟哭|が音声に衝突する。
「あっのー・・・・」
「けっ、警察!警察を呼んでくれえ!」
「えっ!い、いや、そーゆー訳じゃー・・・」
「お巡りさんーっ!!誰かーっ!!」
「!!!んぐっ!!!」
怯える彼と、冷徹な周囲。世間とは非情・・・
「だーかーらーそーゆー訳じゃないっ!」
斬ッ!
「今何気に殺りかけたよね!これって犯罪だよねーっ!」
「!!!あの僕はお腹が空いてるだけーっ!!!」
何言ってんだコイツ、後文法色々違うぞーっ。
「お、お腹?」
「そうですここんとこ48時間何食ってたんだかそうだ雪と草だったってLvで本気でーっ!」
ヒモニートも以外と辛い。現実を実際に示される人々のカスタマーレビューが現れる。
「僕ヒモじゃないっ!後飯くれ!」
「いやいやいや無理」
コントみたいな冬の空に、掻き消す様な大声が響いた。
「おーい!猫ーっ!そこかーっ!」
彼、其れは、猫と言う二つ名を持っていた。
だが、彼の本名は未だ誰にも分からなかった。
<TO BE CONTINUED>




