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魔力の蓄積

__王宮から出たデシールは、ブラッドと合流した。


「なんだデシール、外に居たのか……って、なんかやつれてないか?」


「ちょっと色々あって……」


ケイテに捕まったお陰で、デシールはあまり王宮に来た意味がなくなってしまった。


しかしブラッドが国王と話をつけてくれていた。


「王国周辺の面倒くさい魔物を、こっちの依頼で倒してくれって話だったんだが」


王国騎士団が人手不足なので、強い魔物は腕のたつ戦士に倒してもらいたいという話だったらしい。


ケイテの件もあり少し悩んだデシールだったが、安定した収入を見越して前向きに考えることにした。


「分かった。少し考えてみるよ」


「ああ、ありがとな」


もう日没が近いので、デシールはブラッドと別れを告げ王国を出る。


「今日は色々ありがとう、ブラッド」


「おう、お前の素性とか、姫様との関係とか色々聞きたいことはあるけどよ。まぁ、また今度な」




__王国の門をくぐり外に出ると、アニスが腕を組んで待っていた。


「随分遅かったな」


「闘技場があったんだ。それに参加してた」


「ほう……しかし今の君ではあまり勝てなかっただろう」


「いや結構勝てたよ」


アニスは人間の平均的な強さを理解していないので、彼が大人に勝てる力があるとは思っていなかった。


「たまたま相手が弱かったんだな」


「そうかなぁ」


「それに君はもっと強くなれる。低い基準は捨てることだ」


少し納得がいかなかったが、まだ強くなれるという言葉を信じることにした。


「ほら帰るぞ」


久しぶりの都会だったが、自然の中で暮らす方が自分には合っていると再確認したデシールだった。




__山に戻ったデシールは、アニスに王国からの仕事について話した。


「王国からの依頼をこなせば、収入も安定するし魔物の情報も入りやすいって訳」


「なかなか良い話じゃないか。収入があれば家にも住めるかも知れないぞ」


「アニスってドラゴンなのに家に住みたいの?」


「ドラゴンだって巣を作る。それにせっかく人間の姿をしているんだ。一度は建築物に住んでみたい」


「じゃあ決まりだね」


悪い話しでもなかったので、簡単にアニスからの許可が降りた。


これからは王国に行く機会も増える。


問題はケイテだが、ギルドを通しての仕事なので鉢合わせることはない。


デシールの話は終わったが、アニスからも話があった。


「実は君が王国に行っている間、別行動ならいいだろうと思い王国内で買い物をしていた」


そしてアニスは、買った物を自慢気にちらつかせる。


「ほら、この前君が言っただろ?自分で調べろと」


アニスが持っていたのは、人間の性について書かれた本だった。


デシールはすさまじく嫌な予感がした。


「それ……読んだの……?」


「ああ、待っている間暇だったからな」


開いた本を片手に持ち、説明する口調で内容を話す。


「君がこの前私と密着している時に股間の一部を固くしたのは、あれは勃起と言ってな」


「あの……僕もう寝ようかな」


「まぁ聞け」


恥ずかしいことを言われると確信していたので聞きたくなかった。


「あれは性的興奮を得た時に起こるらしい。つまり君はあの瞬間、私と後尾したかったということだ」


「い、いや……あれは……!?」


デシールにとってアニスは姉や母のような存在だった。なんだかいけないことが見つかった様な、逃げ出したい気持ちになった。


一方アニスは、弟子に新しいことを教えたと言わんばかりの満足げな表情をしている。


「……ごめんなさい」


「なぜ謝るんだ。それを知った時、私は嬉しいと感じた」


そう言いながら体を寄せて来るアニスに、デシールは身の危険を感じて少し下がる。


ずっと彼女と暮らしているので忘れがちだが、アニスは人間ではない。そんな彼女はしばしば常識から外れた行動をするのだ。


「君はとても頑張っているからな。何かをしてやりたいとは思っていたが、何が欲しいのか分からなかった」


「いやもう十分だよ。戦い方を教えてもらってるし、料理もしてくれてる」


「それでも可愛い弟子に何かしてやりたいんだ……」


アニスは「そうだ」と言い、何かを思い立った様子だった。


デシールは更に嫌な予感がした。


「君が私に欲情しているなら、それを少しでも満たしてやろう」


「そ、そこまでしなくていいから!」


抗議するがアニスは聞く耳を持たない。


「見てくれデシール」


アニスが指をさしたのは、接吻せっぷんについて書かれたページだった。


「っ!?」


「人間は唇を重ねることで興奮を得るらしい」


それを聞いてデシールは本気でまずいと思い、逃げようとするが腕を捕まれる。


「どこへ行く。話の途中だ」


息を荒げるアニスの瞳が怪しい光を帯びている。


「この接吻と言うのをやってみようと思う」


「アニス……僕達は2人で生活しているんだ。そういうことをするのは……」


「全く問題ない」


そう言って半ば強引に唇を重ねてきた。


デシールからしたら今日2回目のキスだったが、王宮でのキスよりもおとなしいものだった。


しばらく唇を重ねた後、ゆっくりと離れた。


「……」


「アニス……どうしたの?」


唇を指で押さえ、無言でデシールを見つめるアニス。


その表情は甘く緩んでいた。


無言のまま再び唇を近付けて来る。デシールは抵抗するも、力ずくで押さえつけられてしまった。


そして強引に行われたキスは、先程のものよりも激しかった。


「ぁん……ちゅ……」


人間よりも息の長いアニスのキスは、息継ぎが必要なデシールにとってはかなり苦しい。


「んん!んん!!……ぶばっ!アニス!苦しいから!」


「はっ……私はいったい何を……」


気持ちが荒ぶったアニスは自分を制御できていなかった。


「これは……悪くないものだな……」


そう呟き立ち上がったアニスは、ふらふらと歩きながら水浴びに行ってしまった。


デシールは何となく気付いていた。アニスがこのキスを毎日せがむようになることを。




__デシールとキスをして数日、アニスは少し悩んでいた。


最近はデシールのことばかり考えていた。


(この感情はなんだ……)


今のアニスは、何をするにもデシールしか見ていない。


就寝の時間、いつものようにデシールを呼ぶ。


「ほら、寝るぞ。こっちへ来い」


「えぇ、もうこれ本当にやめようよ」


ごねるデシールを強引に隣で寝かせる。


そうして抱きつき胸を押し当てる。


最近はそれに加えキスもするのが日課になっている。


デシールの股間が固くなるのを確認し、アニスはいつもどおり興奮していた。


「デシール……」


「な、なに?」


「君は私のことが好きか?」


「好きだよ」


「そうか。私も君が好きだ」


アニスが生きてきた中で、2人で暮らす今が最も幸せだった。


(やはりあの魔法陣を早く完成させなければ……)




__数日経って、デシールは修行をしていると、アニスに呼ばれた。


「どうしたのアニス」


「ふふふ。実は君にまたプレゼントがあってな」


キスの件以来、デシールはこういう時のアニスを少し警戒するようになっていた。


「なぜそんなに身構える。君がもっと強くなれるプレゼントだぞ?」


新しい武器でももらえるのかと周りを見回すも、武器らしき物は見つからない。


「あの修行はまだ続けているな」


「うん。一応」


弟子になったばかりの時に挑戦し、失敗に終わった魔力を自然から少しだけ吸収するという修行。


実はまだ続けるようアニスに言われていた。


あまり意味がないと思い少しさぼったりしながらも、やり方を忘れない程度には続けていた。


「魔力を吸収する門を開くための魔法陣が完成したんだ」


「ほんと!すごいよアニス!」


魔力を持たないデシールにとって、それは結構な朗報だった。


「魔法陣を体に刻む。結構痛みがあるが大丈夫か?」


「うん。多分大丈夫」


「なら麻酔を塗るから上半身を脱いでくれ」


こうしてデシールの背中に魔法陣が刻まれることになった。


「入れ墨の他に、私の鱗を体に埋め込む。これが結構痛いかもしれないが耐えてくれ」




__作業が終わり、アニスがデシールの状況を伺うと彼の顔色は最悪だった。


「だ、大丈夫か……」


「うぅ……痛い……」


魔法陣を刻むときよりも、終わった後の方が痛みを強く訴えていた。


「すまない……ここまで拒絶反応が出るとは思っていなかった。体に馴染むまでは修行だと思って我慢してくれ……」


彼の額から出る汗を拭きながら、アニスは数日看病を続けた。




__それから一週間、デシールは体の痛みが収まっていた。


「体に馴染むまで、思ったより時間がかかってしまったな。すまない」


「もう大丈夫だから、そんなに謝らないでよ」


ずっと看病していたアニスに、彼はむしろ感謝していた。


「そうだ。もう魔力を吸収できるようになったんだっけ」


「ああ、恐らくはな」


「少しやってみてもいい?」


「そうだな。もう問題ないだろう」


デシールは座禅を組み集中する。


集中してから1時間が経った。


「ふぅ……なんかいつもと変わらない気がするんだけど」


「いや、成功だ。ほんの少しだが、君の体に魔力が感じられる」


「おお! これで僕も魔法が使えるようになるのかな」


「それは無理だ。自然からは少量の魔力しか得られない。なにより師匠の私が魔法を使っていないだろう?」


事実アニスが魔法を使っているところを見たことがなかった。


「じゃあなんのための魔力なの?」


「少しの筋力増強と防御のためだな」


膨大な知識を身につけて魔法を覚えるには時間がかかる。一見地味な効果だが、それよりかは効率が良かった。


「日々少しづつ魔力を蓄えて、それを放出せずに体内で循環させる。それを長年続けることで、私の種族は力をつけてきた」


「つまり効果が出るのは結構後ってこと?」


「そうだな。今までの修行と原理は同じだ」




__それから数日の間デシールを経過観察していると、一つのことに気が付いた。


デシールが吸収した魔力は、人間のものではなくドラゴンの持つ魔力に変換されていた。


「よし、これは本当に成功だ」


「どうしたの?」


「君の魔力がドラゴンの持つそれと全く同じものに変換されている」


「それってどういうこと?」


「つまり君は私と子作……えーっとだな……体質が変わるから体力なども付くだろうな」


後半はデシールにとって悪くはない話だったが、前半を聞き逃していなかった。


「ねぇ、今子作りって言ったよね!? 僕の体に何してるの!!」


むしろアニスにとってこれが最大の目的だった。


「さ、さて、これからが修行の本番だ。雑魚は卒業させてやろう!」


意気揚々に立ち上がるアニスを見て、自分の体が少し心配になるデシールだった。

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