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アニスの心境

__修行は基礎体力をつけるところから始まった。


大剣を運ぶだけで精一杯のデシールにとって、日々の修行は過酷なものだった。


「ここ最近、疲れが溜まっているように見える」


「だ、大丈夫」


「そうは見えないな」


疲れた顔のデシールを眺めながら、アニスは優しく微笑んた。


「君はまるで赤子のような非力さだ」


「ドラゴンからしたらそうかもしれないけど……」


「まぁいい、明日も体力作りだ。今日はもう休め」


「うん。そうする」


二人が住処にしている山には、空き家などがなかったため野宿をしていた。


毛皮にくるまって横になるデシールだが、なかなか寝付けない。


「眠れないのか?」


「……うん」


「君は自分を守る術を持っていないから、少し怖いのかもしれない」


アニスはデシールに近寄り、彼を優しく抱きかかえるようにして横になった。


「これなら問題ないだろう。外敵からは私が守る。安心して眠れ」


デシールはアニスの体に埋まって、しばらくすると寝息を立て始めた。


「なんだ、眠れるじゃないか」


突然両親を失い、2年間一人で暮らしていたデシール。


もう13歳と言えども、彼は寂しい想いをしていた。


アニスは女性らしい豊満な胸や、黒く長い髪を持ち、優しい声をしていた。そんな彼女に母性を感じ、少し甘えてしまったのであった。


「弟子というのもなかなか可愛いものだな」


デシールの頭をそっと撫でながらアニスはそう呟いた。


アニスは人間にさほど興味がなかった。


彼女はとても大きなドラゴンで、人の多いこの地で暮らすには目立ち過ぎた。


人に化けるようになった理由は、目立たず暮らしたい。ただそれだけだった。


しかしデシールに出会って人間に興味が湧いた。


「私もうまく人に化けられるようになった。デシールも頑張っているし、明日は町へ行ってなにか買ってきてやろう」




__その日の午前は修行を休みとし、アニスは山を降り町で買い出しをしていた。


(もうドラゴンとは気付かれずに町を歩けるようになったな。これもデシールのお陰か)


しかし、まだ人々からの視線を感じる。


(ほ、本当にバレてないだろうな……)


人外だとは気付かれていなかったが、アニスの人間離れした美しさに人々は見惚れていた。


本を数冊買ったアニスは、次にデシールへのプレゼントを何にしようか考えた。


彼は何が欲しいのだろうかと、周りを見回すアニス。


(つまらないな)


ついでに人間を観察していたが、思った以上に興味が持てず飽きてしまった。


子供はどうかと眺めてみても、なんとも思わない。


(やはりデシールが特別なのか。私は人間自体には興味がないようだ)


(デシールには……そうだな、パンでも買ってやるか)




__アニスが町から戻って来ると、デシールは剣の素振りをしていた。


「午前は休めと言っただろう」


「うん、でもやることがなかったし……。それにほら、地面に剣をつけずに素振りができるようになったよ」


「はははっ、どちらかと言うと君が振り回されてるみたいだ」


笑われたことで少し機嫌を損ねたデシール。アニスが色々買っていることに気が付き、そちらに興味が移った。


「なに買ってきたの?」


「本を数冊な」


「なんだー」


「これはお土産だ」


「あ!パンだ。やった!」


今まで質素な食事をしていたので、彼にとって嬉しいプレゼントだった。


「美味しい!」


「喜んでもらえてよかった」


「ありがとうアニス。パンなんて久しぶりだ」


「美味しい……か。人間は味にうるさい生き物なんだな」


次に町へ行く時は、料理の本を買おうと決めたアニスだった。




__食事が終わりデシールの修行を再開した。


修行を始めてみて、アニスはデシールが本当に強くなれるのか心配になってきた。


(人間という種族自体が弱すぎる。やはり群れをなす種族か)


アニスが思うにデシールが強くなる条件は二つあった。


一つはこれからデシールが人の平均より遥かに大きく成長し、筋肉も相当つくこと。


(デシールは将来、身長が2メートルくらいになるだろうか……いやないな)


もう一つは魔力を使って体を強化する方法。


しかしデシールは魔力を全く持っていなかった。


(あれを試してみるか)


アニスは立ち上がり、相変わらず大剣に振り回されているデシールを呼びつける。


「デシール、こっちへ来い」


「なに?」


「突然だが、ドラゴンは宝石を集める習性があるのを知っているか?」


「うん。確か宝石には魔力が多く含まれてるんだっけ」


「そうだ。私達ドラゴンは自然にあるものから魔力を吸収することができる」


「へー」


「それを君にもやってもらおうと思う。君には魔力がないから、外部から取り込んでしまおうということだ」


「僕にできるかな」


「まずはやってみるか」


木や葉、地面や空気から魔力を体に取り込む練習が始まった。




__数分後。


「ふむ。無理だな」


アニスはうなだれる。


「ごめん」


申し訳なさそうにしているが、デシールが悪い訳ではない。


人間には魔力を外部から取り込む機能がなかった。


「はぁ……無理やり門を開くしかないか」


人間の彼が、外部から魔力を取り込む。


それはアニスにとってこれからの課題となった。


(人間の魔法を勉強して……何年かかるんだ……。魔法は苦手なんだがな)


デシールへの指導以外に、魔法の勉強も必要になったアニスの生活は結構忙しくなってしまった。


それでも彼女にとって充実した日々だった。

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