アニスからの手紙
そもそも、デシールとしてはアニスと合流した瞬間に一緒に逃げてしまえばいいのだが、なぜか手紙ではそう指示していなかった。
「デシール、一つだけお願い。この指輪をお守りとして持って行って」
差し出された指輪は、黄金に輝き、どう見ても高価な物だった。
受け取りを拒否しようとしたが、あまりケイテに反発しても埒が明かないので受け取ることにした。
「ありがとうケイテ。じゃあ行ってくるよ」
デシールは自分に用意された馬に乗り、出発の意思を示した。
そうしてケイテや、兵士達の家族が見守る中、黒龍との戦いに出発した。
__王国周辺の森・黒龍が居座る場所に辿り着く。
王国の兵がずらりと並ぶ先頭に、デシールは立っていた。
「アニス、戦いに来たよ」
黒龍の姿でデシールを見下ろすアニスは、何も言わずゆっくりと人の姿に成った。
体が小さくなり完全に人の姿に化けた頃、後ろに別の魔物が隠れていたことに気付く。
その魔物は人に近い見た目をしているが、尻尾は蛇のようになっていた。ラミアと呼ばれるその魔物は、弱くはないものの王国の兵士がこれほど揃っている今の状況では脅威にはなりえない。
今はとにかく、黒龍に皆集中していた。
「デシール……本当は今直ぐ抱きしめたいところだが、事情が変わった。許してくれ」
アニスの手には、どこからか拾った普通の剣が握られていた。
後ろでは王国の兵士達がそれぞれの武器を構え、アニスが隙を見せる瞬間を狙っていた。
思えばデシールが彼女と本気で戦うのは初めてである。
もし本当に彼女が人に戻れなくなるのなら、師匠として育ててくれた恩として、自分の全力をぶつける。そんな考えがデシールにはあった。
「じゃあ行くよ」
拳に鱗を纏う。籠手のように腕まで覆った鱗がかすかに魔力を放つ。
対するアニスは特に剣を構える様子もない。
それでもデシールはアニスに向け、距離を詰め戦いの幕を開けた。




